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製薬会社に勤める30歳<小早川嗣利>は、運命の赤い糸を感じて4歳年上の<広子>と結婚しましたが、9歳の娘<美香>が誘拐され、悲観した<広子>は自殺してしまいます。
心の傷が癒されたころ会社の飲み会で、大卒入社の<安永百合子>と知り合い、再婚しますが、産まれた娘<利恵>は難病で余命半年と医者に言われてしまいます。
<百合子>は、タイムマシンを発明した<霧島博士>を呼び、<小早川>を30年後の世界に行かせて、開発されているだろう難病の薬を入手してきます。
その際<小早川>は、足の悪い女性を助けたことがきっかけとなり、彼女に心を寄せ始めます。
「タイム・パラドックス」の問題に触れながら、一途な純愛が導く親子の血の関係が交錯、複雑なタイムミステリーが楽しめる一冊です。
本書には<千葉>と名乗る「死神」が係る6篇の短篇が、納められています。
人間の姿をしており、<千葉>たち調査員は対象人物に密着し、不慮の事故で死なせてもいいのかどうかの判断を下し、「可」とされた相手が八日目に亡くなるまでを見届けるのが仕事です。
この<千葉>は徹底的に冷静で律儀、他の調査員が一週間を待たずに早々と「可」との判断をくだすなか、律儀に最後まで調査をこなすのですが、なぜか彼の出番のときには雨や大雪といっや悪天候がともない、また人間の使用する言葉の意味が理解できない所が愛嬌で、それが「人間」と「死神」の考え方の対比となり、物ガラリにいい雰囲気を与えています。
小気味なタッチの文章と<千葉>の面白み、ぜひ続きが詠みたくなる一冊でした。
東敬大学助教授として民俗学を教える美人の<蓮丈那智>を主人公とする<蓮丈那智フィールドファイル>シリーズの三冊目が本書です。
彼女は異端の民俗学者と呼ばれ、フィールドワークの先々でトラブルに巻き込まれますがが、見事な推理で事件を解決していきます。
研究室助手の<内藤三國>の目線で書かれ、同じ助手の<佐江由美子>共々<蓮丈>の調査先である日本各地へメールで呼び出されては、過去の民俗学の現象とつながる現在の事件にかかわっていきます。
本書には表題作を含めて4篇が収録されていますが、『写楽・考』では著者の作品でお馴染みの「旗師」の <宇佐美陶子> が登場、美術界と絡めて面白くまとめていました。
どの作品も、現在の日本における民俗学の位置づけの目線がしっかりとしていて、あらたに登場した狐目の教務主任<高杉康文>が、いい脇役として登場していました。
著者には、台場をはじめとする海岸地域を管轄する警視庁東京湾臨海警察署を舞台とする、安積警部補率いる刑事強行犯係の活躍を描く<安積斑シリーズ>がありますが、今回新しく<竜崎伸也>を主人公に据えてのシリーズが始まりました。
<竜崎伸也>は独特の信念とキャリアとしての矜持を持つ警察庁の官僚。ある時、暴力団員の殺人事件が発生。10年前の少年犯罪が関わっていたことを知った<竜崎>はその対応の遅さに怒り、同じくキャリア官僚で小学校からの同級生である警視庁刑事部長で本事案の捜査本部長を務めている<伊丹俊太郎>や刑事局に詰め寄るが、暴力団の抗争が原因だからそんなに慌てることはないと取り合ってくれません。
しかし次々と起こる殺人事件に方針を変更、捜査のやり直しの過程で警察官が殺人に関わっているのではないかという疑念を抱きはじめます。そんな中、息子の<邦彦>が薬物を使用していることを知り、仕事と家庭の問題の中、捜査に携わっていきます。
本書で、第27回吉川英治文学新人賞を受賞しています。
<佐木隆三>の『身分帳』はモデルである<田村明義>が、自分のことを小説にしてほしいと、1986年に自身の「身分帳」を作者に送付したことから書かれた作品です。文庫(1993年6月刊)には小説の主人公である「山川一」のその後が書かれた『行路病死人』も収録されています。
単行本発売されたのは1990年6月(講談社)ですが、物語は1986年2月、極寒の旭川刑務所から主人公が出所したところから始まります。「山川」は、1973年4月、東京葛飾区でキャバレーの店長をしていました。ホステスの引き抜きトラブルから喧嘩に発展し、20代の男性を殺害。罪に問われ、1974年から懲役10年の刑を言い渡されました。 それから刑務所内での違反やトラブルを重ねて刑期が延び、旭川刑務所に移送されてから8年。ようやく刑期満了のため、出所を迎えることになります。
しかし「山川」は天涯孤独の身の上。妻とも逮捕された時に別れ、身寄りはありません。東京の弁護士が身元引受人となったことで、新生活を送るため上京します。
タイトルにもある「身分帳」とは、収容者の家族関係や経歴、入所時の態度や行動が記載されている書類のことです。特に問題行動が無ければ薄いようですが、「山川」のようにトラブルが多い収容者となると、厚みが膨大になってしまうのだとか。人生のほとんどを刑務所で過ごしてきた「山川」にとっては、自分の歴史に等しい書類です。
本作は社会生活を送るようになった「山川」と、身分帳や手紙から過去の山川とをリンクさせて描かれています。
大晦日の夜、孤独な老人<マグナス>を訪れた16歳の女子高生<サリー>と<キャサリン>でしたが、新年の4日に<キャサリン>は雪原で絞殺死体で発見されます。
8年前にも11歳の少女<カトリオナ>が行方不明になっているシェトランド島のラーウィックという小さな顔見知りのばかりの町で起こった事件に、地元警察署の<ペレス>警部と、イングランド本島から派遣された<ロイ>警部が捜査に乗り出していきます。
小さな町の人間関係を主軸に、誰もが少し頭の弱い老人<マグナス>の犯行だと考える中、<ペレス>の地道な捜査が続けられ、事件は思わぬ展開を見せていきます。
ヨークシャという大都会から、シェトランド島に移ってきた<キャサリン>と地元生まれの<サリー>との仲の良い二人を伏線として、上手く構成された本書は、CWA最優秀長編賞受賞作品です。
明邦大学では、「七福神」の調査中に自動車事故死で死んだ<斉藤健昇>の事件以来、「七福神は呪われている」ということで大学での研究はタブーとなっていました。
文学部4年生の<斉藤貴子>は、兄の意志を継ぎ「七福神」を主題とした論文をまとめようと担当助教授<木村継臣>に許可を求め、仲の良かった先輩<棚旗奈々>と一緒に京都に出向いていきます。
出向いた京都では<QEDシリーズ>の主人公<桑原崇>と同行して京都の社寺を回りますが、大学では(布袋さん)と呼ばれる体格のいい薬理学の<佐木>教授が毒死、その助手の<星田>までもが刺殺されてしまう事件が連続して起こります。
おめでたい存在とされる「七福神」に隠された秘密を暴くとともに、『古今和歌集』の選者<紀貫之>が、序文の「仮名序」において、「六歌仙」をあえて非難するような文を書いているのは何故かの疑問を、見事な歴史の知識と分析で<桑原>が解き明かしていく過程は圧巻であり、精緻を極めた構成に圧倒されれる一冊でした。
建築設計を生業として、工事現場の管理業務も行いますので、建築を扱った本書は興味深く読み終えれました。
東京から少し離れた大宮市に、設計コンペで選ばれた<O-miyaスパイラル>は35階建て高さ180メートルの建築物で、長方形の床がねじれ、回転しながら積み重なっていく構造です。
設計者である<犬飼陽一>は32歳、妻<紀子>がいながら、事務所のアルバイト<菜穂子>と不倫関係にあり、現場仕事で家に帰らない日々が続き、<紀子>は実家に帰ってしまいます。
工事現場に入る鉄筋工として<清水隼人>は、会社の寮に住み込み、出身地から「キューシュー」と呼ばれ、中華料理店に働く<こずえ>と付き合い、突然結婚を考えるようになっていきます。
建物の「ねじれ」が、二人の生活にも「ねじれ」を生じさせるように変化してゆくさまが、日常生活を通して克明に描かれていました。
著者の出身大学である京都大学と思われる大学や周辺地域を舞台にして、さえない先輩男子学生(=この作品の語り手。本名不明の腐れ大学生。黒髪の乙女に恋をしていて、彼女を追い求めるうちに不思議な出来事に巻き込まれていく。友人関係は広くなく親友が一人いる。) と黒髪の乙女(=この作品のもう1人の語り手。本名不明。「先輩」が恋をしている女子大生。奔放な性格。うわばみである。好奇心の塊で、学園祭では「万国秘宝館」なる非常に怪しげな展示に入り込もうとしたほど。)無邪気な後輩女性との恋物語を2人の視点から交互に描いています。
単行本は2006年11月に単行本が刊行されていて、2008年12月に文庫化されています。
諧謔にあふれる作品で、ときに現実を逸脱した不可思議なエピソードを交得て構成されています。
古い文章からの引用が多く、タイトルは<吉井勇>作詞の『ゴンドラの唄』の冒頭からの引用です。
久々に、じっくりと書き込まれた385ページの時代小説の長編が楽しめました。
主人公<立原周乃介>は天明6年7月、江戸が大雨に襲われた夜半に、姉の三男で甥である<定次郎>を何者かにより斬殺されてしまいます。
<周乃介>は、刀剣の売買の仲介や一刀流道場の師範代、万調べ事や談じ事などを生業としているために市井に顔が広く、北町奉行所定回り同心<葛岡伊三郎>とのつながりで、岡っ引きの<久蔵>の手助けの下、<定次郎>の下手人探し始めます。
<定次郎>の身の回りを調べるうちに、米問屋<柏木屋仁三郎>に行き当たり、彼の不審な出自に疑問を持つと共に、<定次郎>が扇屋の遊女<沙羅>の身請け話などで金子が必要だったことがわかり、知り得た秘密で<柏木屋>を強請っていたのではないかと、さらに調査を進めていきます。
江戸の長屋「彦十店(げんじゅうだな)」に住む<周乃介>ですが、庶民の生活ぶりや、田沼意次の失脚などの政治事も織り交ぜながら、端正な文章で組み立てられた物語は面白く読み応えがありました。
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