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<柳田國男>の著作に東北の民話に関した『遠野物語』がありますが、そのもじりでしょうか、「常野(とこの)物語」という副題が付いています。
「常野」というのは、地名でもありまたその地域に根差した特殊な能力を持った一族の名称でもあり、権力を持たず、群れず、常に在野の存在であれという意味が込められています。
本書は10話からなる連作短篇集で、「長寿」・「膨大な記憶力」・「遠くの出来事を知る力」・「予知する力」などの能力をそれぞれの登場人物が持ち、普通の人としてひっそりとして暮らしている生活を基本として一族の様子が描かれ、日本中に散らばった一族がまた結集するかのように本書は終わります。
<遠野一郎>は、その容姿から「ツル先生」と呼ばれる一族の長老でもあり『つむじ足』という速く移動できる能力を持ち、一族全般にかかわる重要人物として、今後の物語へのかかわりが楽しみです。
日本全国にはご当地グルメとして、見て食べてみないと名称だけではわからない料理が沢山あるようです。
本書はコラムニストの<泉麻人>が現地に赴き、そんな「なぞ食」を徹底的に検証したエッセイ集で、カラーイラストも満載、旅行記としても気楽に楽しめる内容でした。
神戸の人間としては、「すじ玉丼」(神戸・三宮<糀屋>)や、「ぼっかけうどん」(神戸・新長田<駅前そば>)・「そばめし」(神戸・新長田<いりちゃん>・<ひろちゃん>・<マッチョ>)、「かつめし」(加古川<飲食家Pit>)などが掲載されていましたので、とても身近に感じられた一冊でした。
主人公は南町奉行所の同心で、不慮の事故で亡くなった父の後を15歳で継いだ<藤木紋蔵>です。
勤務中でも居眠りをする奇病ゆえ、外回りの仕事がある与力になれずに30年間内勤を務め、妻<里>と5人の子持ちゆえ、つつましい生活を送っています。
本書は、出世的には望むべくもない<紋蔵>が、人生の真実を見据え、人の痛みがわかるがゆえに世間から取るに足らぬという事件に真摯に取り組む姿勢が、心地よい文章で描かれた8篇からなる連作短篇集です。
<紋蔵>に写本の内職を頼む与力の<蜂屋鉄五郎>、幼馴染の内桜田御門では大座配として籠の整理を取り仕切る<捨吉>などの脇役も面白く、また<蜂屋>の次男<鉄哉>と<紋蔵>の長女<稲>との恋仲も気になるシリーズの始まりの一冊でした。
関西で「捌き屋」とは、企業間のトラブルの仲裁や不祥事の後始末をつける仕事を請け負う人間のことを指します。
本書の主人公<鶴谷康>は、成功させるのは絶対に不可能といわれる難題を処理することで有名で、情報を集めるために興信所や新聞記者のスタッフ、そして花房組の組長<白岩光義>などの協力を得ていますが、あくまで一匹狼で処理をこなしていきます。
今回は下水道処理場建設に伴い、工事の受注内定を設計事務所にもらいながら、反故にされた<松島組>から受注トラブルの処理を請け負います。
<白岩>とのあくの強い関西弁の会話が楽しく、またスタッフや自分のマンションの階下に住まわせている元恋人の「クラブ菜花」のママ<藤沢菜花>らの脇役陣がいい味をだしていて、楽しめた一冊でした。
本書は「2004年版このミステリーがすごい!:第1位」・「2004本格ミステリベスト10:第1位」・「第57回日本推理作家協会賞受賞」・「第4回本格ミステリ大賞受賞」と、素晴らしい評価を受けている作品で、読み終えて「なるほど」と納得する構成力と一気に読ませる著者の文章の快活さに脱帽しました。
冒頭から精力旺盛な主人公<成瀬将虎>の性生活の描写から始まりますが、このときから著者の策略にはまってしまう読者になってしまいます。
自称「何でもやってやろう屋」ということで、パソコン教師やガードマン等の仕事をこなしながら、フイットネススタジオで汗を流していますと、高校の後輩<キヨシ>から、想いを寄せているメンバーの<久高愛子>の相談に乗ってほしいと頼まれ、話を聞くと<愛子>の身内が轢き逃げ事故で亡くなり、悪徳商法業者「蓬莱倶楽部」によって保険金詐欺が行われたと思うので調べてほしいと依頼されます。
<成瀬>は高校卒業して2年間ほど探偵事務所に勤めていた経験があり承諾、同じころ地下鉄駅で自殺を図ろうとした<麻宮さくら>を助け、以後デートを重ねる仲になっていきます。
ミステリーですので、詳しくは書けませんが、「えっ!!」と思わせるどんでん返しの伏線がきれいに埋め込まれており、「なるほど」と再度ページを戻っておもわず確認したくなる展開に、ミステリーの賞を総なめにしたのが頷ける力作でした。
主人公は師匠と呼ばれる茶髪の超美形少年<深山木秋>ですが、見たところ20代後半の青年<座木(通称:ザキ)>、元気いっぱいな赤毛の男の子<リザベル>の3人です。
彼ら3人は<深山木薬店>を営んでいますがみな妖怪で、ボランティア的に人間の手では負えない厄介な出来事を解決してくれます。
本書は二部構成になっていますが、第一部では小学6年生の男の子<小海ハジメ>が、「雪の妖精」と呼ばれる現場で遺体として見つかるところから物語は展開していきます。
一見関係がないような事件の解決依頼が続くのですが、それが第二部になり複雑な関係の背景として生きてくる構成は、第11回メフィスト賞受賞作の面目躍如といった感がありました。
異母兄弟のルポライターの兄36歳の<渡部研吾>が、取材先の奈良で消息を絶ったと、たった二度しか会ったことのない<研吾>の彼女である<君原優佳利>に誘われ、わたし<静>は二人で兄を探しに東京から奈良まで出かけていきます。
<研吾>の取材ルートにそって消息を尋ねていきますが、偶然<優佳利>と称している人物が<研吾>と<優佳利>の高校の同級生<藤島妙子>だとわかり、<静>は<優佳利>の自動車事故死が<研吾>の彼女への嫉妬心からの自殺ではないかと感じ始め、<妙子>は5歳年下の<静>が<研吾>の思いを寄せている人物ではないかと考えています。
父が亡くなった葬儀の場所で、幼い<静>は腹違いの兄<研吾>がいることを知らされますが、以後<静>の母は二人に対して差別することなく接してきていたことがひとつの伏線になり、また<研吾>は童話や寓話を手帳に書き留めて集めていましたが、文中に『愛のサーカス』という話しが、読後にこれまた大きな伏線であることに驚かされてしまいました。
歴史ある奈良の街を舞台に、<男と女>の恋愛感情をミステリー仕立てに構成させ、最後の結末に余韻を残しての終わり方はなんとも切ない気分に陥ります。
今年2冊目の読書は、建築設計を生業としていますので、仕事との直接の関係はありませんが、好きな<建築探偵 桜井京介の事件簿>シリーズを選びました。
『未明の家』(1994年4月:講談社ノベルス)を第一作目として、本書で10作目、番外編を除けば本編として8作目に当たります。
栃木県那須に明治時代に建てられた洋館「月映荘」を舞台として、物語は進みます。
過去に「印南家事件」として二人の女性が「月映荘」にて殺害され、未解決事件として時効を迎えようとしています。
<桜井京介>は、この建物調査に関わり、昔の未解決事件に首を突っ込むことになりますが、殺人現場の当時の生き残りの<印南茉莉>の記憶を中心として、屋敷にまつわる女たちの悲しみと苦しみ、涙と血の歴史にはまりこんでいきます。
いつもは冷静な<桜井>ですが、本書では独り舞台的な視線で物語が展開、建築的な時代考証の部分も少なく、一味変わった構成で楽しめました。
2008年も幕開け、お正月には欠かせない風物詩として「百人一首カルタ取り」がありますが、年明けの一冊目として、<高田崇史>の『QED 百人一首の呪』を、今年の読み始めとしました。
正月早々子供4人と秘書2人と食事中に、気分が悪くなった「サカキ・トレーディング」の社長<真榊大陸>は、自室に戻ると途中に幽霊を見たと騒いだ後、自室にて何者かに花瓶で殴られて殺されてしまいます。
<真榊>は『百人一首』の収集家でもあり、死ぬ間際に一枚の札を握りしめていました。
捜査一課の<岩築竹松>は部下の<堂本>と共に捜査に乗り出しますが、犯人を見つけ出すことができないうちに、長女<玉美>が首吊り死体で発見されます。
片や主人公である<桑原崇>は、新聞記者である<小松崎良平>から事件の話しを訊き、ダイイングメッセージともとれる『百人一首』の謎を解くべく、<藤原定家>の秘められた真相を解き明かしていきます。
著者の分身ともいえる博覧強記の<桑原崇>が解き明かす『百人一首』の醍醐味と、殺人事件を平行に描きながら、最後まで興味の尽きないミステリーとして楽しめました。
どこか郊外の町「月船町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりな洋食店の暖簾には店名が無く、たまに十字路に起こるつむじ風に因んで「つむじ風食堂」と呼ばれています。
本書は8篇の短篇が連作でつながり、登場人物は、人工降雨を研究している「雨降り先生」こと<私>を中心として、「つむじ風食堂」の無口な店主とお手伝いの<サエコ>、店で飼われている体の左右が黒と白色の猫<オセロ>、そこに集まる帽子屋さんの<桜田>、30歳の売れない舞台女優<奈津子>、星を観にイルクーツクに行きたい果物屋の若者、<私>が「デ・ニーロの親方」と呼んでいる古本屋の店主などが登場、それぞれの人間関係がほのぼのと描かれていました。
なんとなく<宮沢賢治>を彷彿させる語り口に、読後は静かな余韻に浸れる一冊でした。
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