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くまごろうのサイエンス教室『New Horizonsと冥王星』

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New Horizons(NA... New Horizons(NASAより借用) New Horizonsで撮影... New Horizonsで撮影された冥王星(NASAより借用) New Horizonsで撮影... New Horizonsで撮影された冥王星(NASAより借用)
NASAは今年7月14日、2006年1月19日にCape Canaveralから打上げられた探査機『New Horizons』が冥王星の約12,500Km上空まで接近したことを確認し、同機が撮影した冥王星の写真を公開した。これまで人類が見てきた冥王星の写真は高性能な地上巨大望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたものだが、あまりにも遠くにあるためぼやけた画像であったのに対し、New Horizonsからの画像は極めて明瞭で、今後同機から送られてくるデータを解析することにより、冥王星がどのような物質でできているのか詳しくわかるだろう。

太陽から地球までの平均距離を1天文単位(1 AU)と称し、現在の定義では1億4,960万Kmであるが、冥王星は太陽から平均で約40AUも離れているため冥王星までの旅はきわめて長い。少しでも早く冥王星に到達するためにNew Horizonsは史上最速の秒速16.3Kmの対地球速度で打上げられた。このスピードを確保するために打上げロケットはAtlas V型ロケットに5基の補助ブースターが取付けられ、また探査機は軽量化されて総重量は465Kgしかない。因みに本年8月に打上げられた国際スペースステーションへの補給機である日本の『こうのとり5号機』の総重量はペイロード5.5トンを加えると約6トンであった。

宇宙探査機として史上最速で打上げられたNew Horizonsは木星付近を通過する際に木星の公転運動と重力を利用したSwing-byにより毎秒4Km加速して冥王星に向った。このSwing-byにより冥王星までの到達時間が約3年短縮されたと言われている。木星軌道を過ぎると太陽からの光が弱く、太陽光発電が十分機能しなくなる。そのためNew Horizonsは原子力電池を搭載しているが、エネルギー消費を節減するために冬眠状態となって半年に1度再起動と点検を繰り返して47億5,000万Kmもの距離を旅し、9年半かけようやくて冥王星の近くにたどり着いた。因みに原子力電池とはプルトニウムなどの放射性元素の原子核崩壊の際に発生するエネルギーを利用して発電するが、寿命が長いという特徴があるものの、打ち上げ失敗の際に放射性物質を撒き散らす恐れがあるため限定的に使用されており、これまでは木星軌道より外側の宇宙探査機だけに搭載されている。

New Horizonsには7種類の観測装置が搭載されており、可視光カメラの他にも地質や地形を観測する可視光赤外線撮像分光装置、大気の量や組成を調べる紫外線撮像分光装置、冥王星とその衛星のカロンの大気の温度、圧力、密度などの観測装置、冥王星から宇宙空間に放出される粒子線などの測定装置などが搭載され、蒐集された画像やデータは今後16ヶ月に渡って地球に送信し続けることになっている。New Horizonsは冥王星の周回軌道に入るためのエンジンを持たないため、冥王星の軌道を通過後、太陽系の外縁天体群であるエッジワース・カイパーベルトの天体を目指して飛行を続け、その天体を近くから観測する予定である。

冥王星に関する情報はこれから送信されてくるデータの解析を待たなければならないが、これまでにNew Horizonsによって新たに明らかになったことは冥王星の直径が2,370Km、衛星カロンの直径が1,208Kmであること、月のようにクレーターがたくさんあるのではという予想に反し、氷河が流れたような平坦な部分や3,500m級の山のような地形があること、冥王星の大気は地表から50Kmまでとその上80Kmまでの2層となっており、大気の成分はメタンが紫外線により分解されてできたエチレンやアセチレンではないかと思われること、冥王星の平均表面温度は零下230℃、水の氷らしきものや窒素や一酸化炭素でできた氷が存在するらしいこと、などである。

冥王星は太陽系の他の惑星とは異なり、太陽系惑星軌道面に対し17度傾いた軌道面を持っている。また水星、金星、地球、火星は中心に金属のコアを持つ岩石惑星、木星と土星は岩石と氷が主成分のコアのまわりに大量の水素ガスのある巨大ガス惑星、天王星と海王星は岩石が主成分のコアのまわりに厚い氷の層があり、その外側に水素の大気のある巨大氷惑星であるのに対し、冥王星は岩石のコアとこれをおおう氷の層でできている。太陽系の惑星は隕石のような微惑星が衝突を繰り返してできたと考えられているが、冥王星やエッジワース・カイパーベルトの天体は衝突が少なく、これらを詳しく調べることにより地球などの惑星成因の解明が期待される。
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くまごろうのサイエンス教室『地球のいとこKepler 452b』

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地球とKepler 452bの... 地球とKepler 452bの想像図(Wikimedia Commonsより借用)
NASAは7月23日、2009年に打上げられたケプラー天体観測衛星を使って地球に最もよく似た惑星Kepler 452bを発見したと発表した。はくちょう座の方向約1400光年離れた所にあり、半径は地球の約1.6倍、組成はまだわかっていないが岩石惑星の可能性が高く、地球にとっての太陽にあたるKepler 452の周りを385日かけて公転している。

ケプラー天体観測衛星は地球と同じような環境にある太陽系以外の惑星の探査を行ってきたが、これまでは地球から600光年離れたKepler 22bが水の存在しうる唯一の惑星と言われてきた。今回の発見では、太陽と似た恒星であるKepler 452からの距離が液体の水が惑星表面に存在しうるハビタブルゾーンにあたり、水や生命の存在が期待されるという。しかし太陽系は誕生してから約46億年だがKepler 452系は誕生後約60億年経っており、そのためKepler 452bはKepler 452より太陽から地球が受けるよりも約10%多いエネルギーを受取っているので、水や生命は過去に存在しても今は失われているかもしれない、という見方もある。いずれにせよKepler 452bを詳しく観察することにより、今から15億年後の地球の姿を予測することが出来るかもしれない。

太陽系にも水のある星がある。木星の衛星であるユーロパは表面は厚い氷に覆われているが、氷の下に液状の海が存在し生物が生息している可能性があると言われている。また土星探査機カッシーニを使った調査により、NASAは2014年4月、土星の衛星のひとつであるエンケラドゥスには地下に液体の水でできた海があり、微生物が生息している可能性を示唆している。 
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くまごろうのサイエンス教室『物質は何でできているか』

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原子核 Wikimedia C... 原子核
Wikimedia Commonsより拝借
陽子 Wikimedia Co... 陽子
Wikimedia Commonsより拝借
中性子 Wikimedia C... 中性子
Wikimedia Commonsより拝借
原子の中で最も簡単なものは水素である。水素原子はひとつの陽子からなる原子核のまわりをひとつの電子が回っている。水素は宇宙で最も豊富な元素であり、星間ガス、銀河間ガス、恒星、ガス惑星などの主要構成物質である。水素に次いで宇宙で最も豊富な元素はヘリウムだが、2つの陽子と2つの中性子からなる原子核のまわりを2つの電子が回っていて、電気的に中性であるため不活性なガスである。恒星の中心では、例えば太陽では2,300億気圧、1,600万℃という超高温・高圧のため、水素原子が核融合してヘリウム原子核を生成し、その際に膨大なエネルギーと光を放出している。質量の大きな恒星の内部ではヘリウム原子核2個の核融合によりベリリウム原子核が、ベリリウム原子核とヘリウム原子核の核融合により炭素原子核が、炭素原子核とヘリウム原子核の核融合により酸素原子核が生成する。質量の重い恒星内での核融合反応によってより重い元素が生成するが、このような核融合で生成するのは陽子が26個の鉄原子核までであり、これらの元素は質量の重い恒星の超新星爆発により宇宙空間にばらまかれ、その過程で他の元素や炭酸ガス、水蒸気、メタンなどが生成した、と考えられている。これらの星間物質である宇宙のちり(星間塵)や星間ガスが集まって太陽と太陽系の惑星が生まれたが、地球は水星、金星、火星と同様に太陽からの距離の影響で水やメタンなどの揮発性物質には温度が高すぎるため凝縮せず金属や珪酸塩などを中心とした岩石惑星となった。

われわれはこのようにして約46億年前に生まれた地球の表面に住んでいるが、地球上の生物は細胞によって構成されている。私たち人間の体も約60兆個の細胞でできており、細胞を分子レベルで見れば約70%は水であり、残りはたんぱく質、アミノ酸、糖、ホルモン、コレステロール、ビタミンなどの分子からなっている。これらの分子は水素、酸素、炭素、窒素、カルシウム、リン、硫黄、カリウム、ナトリウム、塩素、その他の金属などの原子が結合した化合物である。すなわち私たちの体は色々な原子が結合して成り立っている。ちなみに原子の大きさはその種類によるがおおよそ10-10メートル(1,000万分の1ミリメートル)程度、原子核の大きさは10-15メートル、すなわち原子の大きさの10万分の1である。それゆえ、原子の中はスカスカでほとんど空間でできている。

前述のように水素原子はひとつの陽子とひとつの電子からなっているが、他の原子は複数の陽子と中性子が結合した原子核と複数の電子からできている。陽子と中性子は以前は素粒子であると考えられていたが、水素とヘリウム以外の原子核には複数の陽子があって、陽子はプラスの電気を帯びており、原子核がひとつにまとまっているためには電気的に反発しあう陽子どうしを引きつける何かの力がなければならない。これについて陽子や中性子が常に素粒子を受けたり渡したりして発生する核力によるものとされ、湯川秀樹博士はこの素粒子が中間子であるという理論を提唱し、中間子が1947年にアンデスの山頂で発見されたことにより1949年にノーベル賞を受賞した。1964年以後の素粒子物理学では、陽子、中性子、中間子はクォークと呼ばれる素粒子が結合したものであることがわかっている。すなわち陽子はアップクォーク2つとダウンクォーク1つ、中性子はアップクォーク1つとダウンクォーク2つ、中間子のひとつであるパイ中間子はアップクォーク1つと反物質である反ダウンクォーク1つからなっている。

素粒子物理学では陽子や中性子内部でクォークとクォークを結びつける力を『強い力』と呼び、この力を伝達する素粒子をグルーオンと名づけている。原子核内での中間子のやりとりと同様に、陽子や中性子の内部ではグルーオンのやりとりが行われているために、陽子や中性子はバラバラのクォークにならないのだ。しかし強い力の届く距離は極めて短く、せいぜい原子核の直径程度の範囲である。

原子核と電子の電気的な引力や同じ電荷の粒子の斥力は素粒子物理学では電磁気力と呼び、この力は光子(フォトン)のやりとりによって発生する、としている。朝永振一郎博士はこの理論に関する研究により1965年にノーベル賞を受賞している。電磁気力は身近な静電気や磁石などで体験出来るが、原子同士が結合して分子をつくる際にも作用している。バットでボールを打つ際もバットの表面にある原子の外側は電子であり、ボールの表面も同じであるためボールにバットが当たるとそれぞれの表面にある電子が互いに反発し合い、ボールが飛んでいく。

更にややこしいのは、この他に『弱い力』と呼ばれる力が存在することである。福島原発事故で知られる放射性セシウム137が怖いのは放射能があるからであり、セシウム137のような放射性物質は原子核内にある中性子の中のダウンクォークのひとつがアップクォークとなって中性子が陽子に変身するが、その際に電子とウィークボソンと呼ばれる『弱い力』の伝達物質と反電子ニュートリノを放出する。この反応はベータ崩壊と呼ばれ、高速で放出される電子がベータ線と呼ばれる人間にとって危険な放射線である。弱い力と呼ばれるのはその大きさが電磁気力の1000分の1、強い力の10万分の1程度であるためだが、弱い力のおかげでわれわれは温泉を楽しむことが出来る。すなわち地球内部の放射性物質がベータ崩壊を起こす際に放出する弱い力が熱に変り、地熱となって水を温めるからだ。

それでは地球上の物質は何でできているのだろう。先に原子核を構成する陽子と中性子はアップクォークとダウンクォークからなっていると述べたが、原子核の外をまわる電子に加え、陽子や中性子内で作用する強い力の伝達物質グルーオン、原子核がバラバラにならないための中間子に含まれる反ダウンクォーク、原子核と電子に作用する電磁気力の伝達物質光子なども物質の構成要素であるといえる。もっともグルーオンや光子などの力の伝達物質は質量がゼロのゲージ粒子と分類されるため、物質の構成要素とは言えないかもしれない。

スイスにあるLHC(Large Hadron Collider)やつくばにある高エネルギー加速器研究機構の加速器などで陽子同士や電子と陽電子(プラスの電荷を持つ電子)を光速に近い速度で衝突させると、極めて短時間のうちに消滅してしまうが色々な素粒子が生じる。このような実験でクォークは現在までアップクォーク、ダウンクォーク、チャームクォーク、ストレンジクォーク、トップクォーク、ボトムクォークの6種類、更にマイナスの電荷を帯びた電子、ミューオン、パイオン、電気的に中性の電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、パイニュートリノなどが発見されている。ちなみに小林誠博士と益川敏英博士はまだ3種類のクォークしか認定されていなかった1972年に発表したCT(荷電共役変換・パリティ変換)対称性の破れという理論でクォークが6種類は存在することを理論的に予想し、後年スタンフォード大学とつくばの加速器で実証されたことにより、両博士は2008年にノーベル賞を受賞した。これらの加速器の実験で生まれた素粒子は衝突させた陽子や電子から生じたのではなく、衝突した粒子の運動エネルギーから質量のある物質が発生したもので、アインシュタインの相対性理論に示されたE = mc2(Eはエネルギー、mは質量、cは光速)に基づいた現象である。

最新の素粒子物理学では、すべての素粒子は開いた線状または閉じたリング状の2種類のヒモであり、その振動の仕方が異なることによりそれぞれの素粒子の物理特性を示している、という超弦理論が提唱されている。これらのヒモは原子核よりはるかに小さい10-35メートルしかない。この理論は宇宙を扱う相対性理論と原子や原子核などミクロな世界を扱う量子論を統合する統一理論であり、現在多くの物理学者が研究しているが、超弦理論によればすべての物質はこの小さなヒモでできていることになる。この理論は宇宙が9次元空間であることを予言しており、理解するのが極めて困難だ。
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くまごろうのサイエンス教室『燃料電池自動車と水素社会』

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トヨタMIRAI(Wikime... トヨタMIRAI(Wikimedia Commonsより借用)
2014年末にトヨタ自動車が燃料電池自動車MIRAIの販売を発表した。2015年末までに400台を販売する計画だ。またホンダも2015年中に燃料電池自動車を販売すると発表しており、いよいよ燃料電池自動車実用化の時代が到来した感がある。

自動車の原動機として歴史上は1769年のフランスのキュニョーによる蒸気機関が最初だが、これは実用化に至らなかった。19世紀になるとイギリスで蒸気機関を搭載した自動車による定期バスが運行され、フランスやアメリカでも普及していった。1870年にドイツでオットーがガソリンを燃料とした内燃機関を発明するとダイムラーがこれを改良して馬車に取付け、最初のガソリンエンジン自動車となった。実用的なガソリンエンジン車は1885年のドイツのベンツによる三輪車が最初で、数百台販売された。それ以来内燃機関が改良されることにより実用性や性能などが格段に向上し、自動車の原動機はガソリンまたはジーゼルエンジンが中心となり今日まで発展してきた。

1997年にトヨタがプリウスを発売して以来、低燃費で環境にやさしいということでハイブリッドカーの人気が上昇したが、これらのハイブリッドカーはスプリット方式と呼ばれるハイブリッドシステムを採用している。スプリット方式はエンジンからの動力をプラネタリーギヤ(遊星歯車)により発電機と車輪の駆動力に分割するシステムで、エンジンを最大トルクの低燃費領域で使用することにより燃費性能を向上させることが出来る。すなわち燃料消費の多い発進時や低速運転では電動機による駆動とし、減速時や下り坂では電動機を電磁誘導発電機として使用することによりエンジン効率を高める。ハイブリッドカーは通常のガソリンエンジン車より燃費性能の優れた車ではあるが、本質的にはガソリン車であり、また駆動にガソリンエンジンと電気モーターの2つの動力源を持つため、高価とならざるを得ない。

2008年にアメリカのテスラモーターズ、2010年に三菱自動車とニッサンが電気自動車の一般向け販売を開始した。これらの電気自動車はリチウムイオン電池と三相交流モーターを搭載し、電池に充電された電力で駆動する。電気モーターの高効率により燃費性能は高くハイブリッド車よりも低燃費だが、高速充電でも30分、通常の充電では8時間を要すること、および一回の充電による走行距離が200~300Kmとガソリン車やハイブリッド車に劣る。

電気自動車ではリチウムイオン電池にあらかじめ充電された電力を使用するのに対し、MIRAIのような燃料電池自動車では燃料電池で水の電気分解の逆を行い、水素を燃料として空気中の酸素と反応させることにより発電し、その電力で電動モーターを駆動する。すなわち水素分子は水素側電極の触媒層で電子を奪われ水素イオンとなって電解質溶液中を移動し、水素分子から奪った電子は外部の回路を通って酸素側電極にて酸素分子と結合して酸素イオンとなり、更に酸素イオンが水素イオンと結合して水分子となる。この際外部回路を通過する電子の流れにより水素側電極と酸素側電極の間で電気が発生する。リチウムイオン電池の場合は充電された電力がすべて放電されると放電が停止するのに対し、燃料電池では水素と酸素が供給され続ければ永続的に放電することが出来る。実際の燃料電池は水素側電極(負極)と酸素側電極(正極)の間にイオンの移動を可能にする高分子膜を電解質として貼り合せて一体化した膜・電極接合体を、水素と空気の供給や生成した水の排出を効率的に行うプレートで挟み込んだユニットを基本単位とし、これをユニットセルと呼ぶ。電極としてはカーボンブラック担体に白金、コバルト、ルテニウム・白金合金などの触媒が使用される。ユニットセルでは約0.7ボルトの発電能力があるが、これを直列に接続してより高電圧が得られるセルスタックとする。MIRAIでは370のユニットセルを重ねてセルスタックとし、発電能力が114キロワット(155馬力(PS))となっている。トヨタは『3Dファインメッシュ流路』と呼ばれるユニットセルの酸素供給プレートを超精密プレス加工で製作することにより改良し、酸素の供給および生成水の排水性を向上させることによって旧モデルと比較して2.2倍の出力密度となる3.1KW/Lを達成し、セルスタックの小型化に成功した。MIRAIは700気圧に圧縮された水素約5キログラムを容積122.4リットルの高圧タンクに充填することにより約650キロメートルの走行が可能であり、水素の充填は3分程度である。

日本における現在のエネルギー価格をもとに1キロメートルあたりのエコカーの燃費を見ると、ハイブリッドカー(トヨタプリウス)では4.9円、夜間電力を使用した電気自動車では1.3円であるのに対し、燃料電池自動車では8.5円程度となり、これは高級ハイブリッドカーとほぼ同等である。しかし将来水素を主たる二次エネルギーとした水素社会が構築されれば、水素の価格は低減し燃料電池自動車の燃費は格段に向上すると予想されている。

燃料電池自動車が普及するために克服しなければならない課題のひとつに、ガソリンエンジン車のガソリンスタンドに相当する水素ステーションの整備がある。ガソリンスタンドは全国に約35,000あるが、経済産業省によると2014年7月末で水素ステーションは首都圏、中京圏、関西圏、北九州圏の四大首都圏に45か所しかない。トヨタに加えホンダも2015年に燃料電池自動車の販売を予定しており、燃料電池自動車普及を促進するために経済通産省は水素ステーションを2015年度に100ヶ所とする計画である。東京都も独自に水素ステーションの整備を計画しており、2020年までに35ヶ所、2025年までに80ヶ所とする予定である。

発電の大半を化石燃料に依存している電力を利用した電気自動車と較べ、燃料電池自動車は電力を消費しないが、その燃料たる水素は今のところほとんどが天然ガスなどの改質により生産されるため、その過程で副産物として炭酸ガスを発生し脱炭素化には至っていない。また日本全体のエネルギー消費を見ると、運輸部門が占める割合は20%を超える程度で、残りの大半が電力としてのエネルギー消費である。将来を期待されている化石燃料に代り水素を二次エネルギーとする水素社会を実現するためには、燃料電池自動車はその起爆剤に過ぎない。化石燃料を使用しない水素の工業的な生産方法としては水力、風力、潮力、太陽光、地熱など再生可能エネルギーによる電力を使った水の電気分解が容易に想像出来るが、2015年のくまごろうのサイエンス教室『高温ガス炉』で述べた高温ガス炉原子力発電の高温ガス利用による熱化学水素製造法もまたそのひとつである。その記事の繰返しになるが、熱化学法では水とヨウ素の混合溶液に二酸化硫黄を反応させてヨウ化水素と硫酸を生成させ、高温ガス炉からのヘリウムによりヨウ化水素は400℃で分解してヨウ素と水素を、硫酸は900℃で分解して酸素と二酸化硫黄を生成させることが出来る。日本原子力研究開発機構では2030年の高温ガス炉による熱化学水素製造法の実用化を目指している。福島原発事故のような冷却剤喪失によるメルトダウンとは無縁にもかかわらず、高温ガス炉を含めた原発新設の否定は水素社会の構築という日本の将来にとって国益とはならないだろう。

更に遠い未来の世界を見れば、2013年のくまごろうのサイエンス教室『人工光合成』で述べた光触媒を用いた可視光による水の分解も2050年頃には水素製造法として実用化される可能性がある。

二次エネルギーとしての水素は従来の方法では長距離の大量輸送が容易ではない。天然ガスの場合は-160℃程度に冷却することにより液化が可能だが、水素は-253℃まで冷却する必要があり、現在の技術では冷却貯蔵は容易ではない。千代田化工建設が提案している有機ケミカルハライド法はトルエン分子に水素原子を結合させて常温で液体のメチルシクロヘキサンとし、水素の体積を約500分の1にして既存のケミカルタンカーで輸送して、消費地でメチルシクロヘキサンから水素を分離してトルエンを回収する方法である。同社はこのプロセスで重要なメチルシクロヘキサンから水素を分離するための高効率触媒の開発に成功している。有機ケミカルハライド法が実用化されれば、例えば日照時間が長い海外の砂漠などに高効率太陽光発電設備と水素製造設備を建設し、メチルシクロヘキサンとして輸入することにより、より廉価な水素の供給が可能になる。人類は有限かつ環境に負担となる化石燃料中心のエネルギー供給体制より脱却し、水素社会を実現すべく技術開発を推進すべきであろう。
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くまごろうのサイエンス教室『高温ガス炉』

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日本のエネルギー政策の基本となる第4次エネルギー基本計画が2014年4月に閣議決定され、原子力発電は重要なベースロード電源として位置づけられた。今年になって経済産業省の作業部会が始まり、具体的な電源別構成比について今年6月を目途に決定するという。国民の多くはマスコミなどの影響で技術的なことは抜きにして原子力よりも再生可能エネルギーを重視すべきだ、と感じていると思われるが、福島第一原発事故により原子力はもうごめんだ、という発想はくまごろうにはあまりにも非科学的に見える。人類の歴史は科学技術の進歩抜きには考えられないが、自然に対する人間のあくなき探究心と問題を克服する意欲が現代の科学技術を作り上げてきたのだ。原発事故を教訓とし、原子力平和利用の安全性を一層配慮することが人類の進歩につながる道であろう。

これまでの日本における原子力発電はほとんどが水を減速材および冷却材に使用した軽水炉型だったが、福島での事故は冷却材喪失によるメルトダウンという過酷事故であり、原子力規制委員会は既存原発の再稼動の認可条件として冷却材喪失が起こらないバックアップを厳しく求めている。原子力発電には軽水炉の他にも減速材に重水を使用する重水炉、黒鉛を使用する黒鉛炉、更には高速増殖炉などがあり、ここで述べる高温ガス炉はヘリウムを冷却材とした黒鉛炉のひとつである。高温ガス炉は前述のエネルギー基本計画でも安全性の高度化に貢献する将来の原子力技術の候補とし、日本原子力研究開発機構が設計・建設した熱出力3万キロワットの高温工学試験研究炉(HTTR)を使用して研究開発を推進してゆく方針である。

高温ガス炉が注目される最大の特徴はその安全性である。炉心温度は950℃程度と高温だが炉心構成材の黒鉛は2000℃以上の高温に耐えられ、黒鉛の熱容量が大きいため炉心温度の変化が緩慢であり、更に電源喪失や事故などにより冷却システムが機能しない場合でも原子炉格納容器からの自然放熱により冷却が可能なことである。核燃料は直径数ミリの炭化珪素セラミックス球の中に保持されているが、この被覆層は炉心の理論上の最高温度1600℃よりも高い2200℃に長時間さらされても核分裂生成物を保持することが出来、メルトダウンに至ることはない。2010年に行われた前述のHTTRを使用した実験では、出力30%の状態で冷却材であるヘリウムガスを停止すると10分程度で出力が1%に低下し自動停止に至った。軽水炉では運転中の炉心温度は約300℃だが、核燃料を収納する被覆管は金属のジルコニウム製のため、冷却材である水を喪失すると炉心は2000℃程度に達し、福島事故のように被覆管が溶融してメルトダウンするのとは対照的である。冷却材として使用するヘリウムは不活性物質のため他の物質と化学反応せず、また炉内で中性子にさらされても放射化しない。

高温ガス炉で使用されるセラミックスで被覆された核燃料粒子は一般的には二酸化ウランだが、核分裂中に生じるプルトニウムも燃料としてそのまま使用されるため核燃料の使用効率が高く、軽水炉のように使用済み核燃料を再処理してプルトニウムとウランの混合燃料MOXをつくり、プルサーマルとして使用する必要がない。その結果、発電量に対する放射性核生成物を軽水炉の30~40%程度まで低減することが可能である。高温ガス炉からの使用済み核燃料からセラミックス被覆を取除く技術は既に確立しており、再処理工場で核分裂生成物を分離することが出来る。先に『使用済み核燃料の処分』でも述べたが、核分裂生成物の中には非常に長い半減期を持つ物質があるが、これらは加速器駆動核変換システムなどによる消滅処理を行えば、人類による管理が可能な半減期の短い物質に変換することが出来る。

基本的な高温ガス炉では核分裂反応によって高温となった炉心でヘリウムガスを960℃に加熱し、この高温ガスでガスタービンを駆動することにより発電する。軽水炉では冷却材が水のため300℃程度までしか加熱出来ず、そのため発電効率が35%弱であるのに対し、高温ガス炉による発電では高温のため50%近くまで発電効率を上げることが出来る。また発電に使用した後のヘリウムは200℃程度と高いので、この廃熱を利用して海水の淡水化や地域暖房などを行えば、70%程度の高い熱利用率が達成出来る。前述した日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉(HTTR)は研究炉の段階だが、研究陣はガスタービン発電機を備えた実証炉の2030年までの運転開始を視野に入れている。

高温ガス炉は発電だけが目的の原子炉ではない。燃料電池自動車の普及などによる来るべき水素社会に向けて高温ガス炉による熱化学水素製造法の研究が進んでいる。メタンなど炭化水素の改質による水素製造では二酸化炭素が発生し、また水を直接分解するには2000℃以上の高温が必要であるが、熱化学法では水とヨウ素の混合溶液に二酸化硫黄を反応させてヨウ化水素と硫酸を生成させ、高温ガス炉からのヘリウムによりヨウ化水素は400℃で分解してヨウ素と水素を、硫酸は900℃で分解して酸素と二酸化硫黄を生成させることが出来る。日本原子力研究開発機構では2030年の高温ガス炉による熱化学水素製造法の実用化を目指している。

高温ガス炉では高温ガスが得られることにより、発電や水素製造以外にもエチレン製造などの石油化学、石炭液化、製鉄などへの応用も可能であり、低炭素社会の達成には大きな切り札となる可能性を秘めている。

高温ガス炉実用化のために必要な技術開発に空気突入による原子炉の火災防止とセラミックス被覆核燃料の高度な品質管理がある。前者については2重、3重の安全設備により克服できるはずであり、また後者は日本が得意とする品質管理の問題であり、高温ガス炉の安全性を否定するような重大な欠陥とはならないであろう。

目を海外に転じるとアメリカ、ロシア、フランス、韓国、中国などが高温ガス炉の開発を行っており、特に日本とならんで既に試験炉を稼動している中国は2017年までに21万キロワットの実証炉の臨界を目指している。現在は冷却材温度が750℃と日本原子力研究開発機構の実績に劣るが、中国内陸部は冷却水を多量に必要とする軽水炉の立地に適していないため、今後多くの原子力発電所を計画している中国は高温ガス炉の開発に力を注ぐと思われる。日本も脱原発などとのんきなことを言わず、日本原子力研究開発機構による実証炉の建設を急ぐべきである。
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くまごろうのサイエンス教室『使用済み核燃料の処分』

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2011年の東日本大震災による福島原子力発電所の事故以来、日本では相変わらず原子力発電所の運転再開に対する反対論が根強いが、直ちにすべての原発を廃炉にしても現存する多量の使用済み核燃料処分の問題が残る。使用済み核燃料には半減期が24,000年であるプルトニウム239など長半減期元素が含まれるため、ガラス固化して地下に保管するにしても地震や火山の噴火が多発する日本では安心して保管出来る場所が限定され、また科学的に適切と判断された地元では反対運動が起こるであろう。原発即廃止を主張する小泉元総理、細川元総理、菅元総理、あるいは多くの原発反対野党には使用済み核燃料の処置についてどのような名案があるのだろうか。

軽水炉ではウラン238が97%、放射性物質であるウラン235が3%の核燃料を使用するが、使用済み核燃料には概略ウラン238が95%、ウラン235が1%、プルトニウム239が1%、核分裂生成物が3%含まれる。核分裂生成物の中には中性子を吸収するために安定的な原子炉の運転を阻害する元素があるためこれを分離除去し、約1%づつ含まれるウラン235とプルトニウムを回収してウラン燃料やMOX(Mixed Oxide、2酸化ウランと2酸化プルトニウム混合物)燃料として再び軽水炉などで核分裂させれば、プルトニウム239は半減期が30年程度の核分裂生成物に変換することが出来る。MOX燃料を使用する軽水炉がプルサーマル(プルトニウムとサーマル・ニュートロン・リアクターからつくられた和製英語)であり、東日本大震災が発生するまでは日本でもいくつかの原発で営業運転されており、日本原燃は青森県六ヶ所村に再処理工場やMOX燃料工場を建設し、いわゆる核燃料サイクルを完成させる計画であった。再処理により使用済み核燃料に含まれる放射性物質を再利用するとともに、半減期の長い高レベル放射性物質を大幅に削減することが可能となるのだ。反対に原発即停止は核燃料サイクルを破綻させ、結果的に大量の高レベル放射性廃棄物を生み出すことになる。

再処理工場で分離された核分裂生成物には大きく分けてFP(Fission Product、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129、テクネシウム99など)とマイナーアクチナイド(Minor Actinide, MA、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなど)があり、これらの中には非常に長い半減期を持つ物質があるが、世界では核分裂生成物を半減期の短い元素に変換させる研究が行われている。日本では核種分離・消滅処理と呼ばれている長寿命核種の処理法が京都大学原子炉実験所や、高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構の共同事業であるJ-PARCの加速器駆動核変換システム(ADS)で研究開発が行われている。ADSは加速器からの高エネルギー陽子を鉛・ビスマス合金のターゲットに当てると鉛またはビスマスの原子核が数十個の破砕核となって壊れるとともに20-30個の高エネルギー中性子を発生するが、この中性子がマイナーアクチナイドの原子核に衝突すると核分裂反応が起きて人類が管理可能な半減期の短い核または安定な核となると同時に中性子を発生し連鎖反応が進行する。加速器駆動未臨界炉(ADSR, Accelerator Driven Subcritical Reactor)はADSの余剰なエネルギーを電力として取り出すことを目的とした次世代の原子炉である。原発を所有する世界各国では高レベル放射性廃棄物の処理は重要事項であり、このような加速器を使用した消滅処理を含めた原子炉の研究開発はフランス、ベルギー、アメリカ、ロシア、韓国などでも進められており、国際原子力機構、OECD、NEAなどによる国際協力も進行中である。

これとは別に日立製作所グループは原発の運転で生成する半減期の長い超ウラン元素(Trans Uranium Element, TRU、ウランより原子番号の大きいプルトニウムおよび前述のMA)をウラン燃料とともに燃料として使用する資源再利用型沸騰水型原子炉(Resource Renewable Boiling Water Reactor, RBWR)の研究開発を行っている。沸騰水型原子炉は世界中で多くの実績があり、この新型炉が2030年頃に実用化されれば、使用済み核燃料から排出される高レベル放射性廃棄物の半減期は10万年から300年程度まで短縮出来、人類による管理が可能になる。この新型炉は原発ではあるが、高レベル放射性廃棄物の消滅処理設備ともいえる。

福島原子力発電所の事故は東日本大震災によって引き起こされたとはいえ電源喪失に対する配慮が不十分な設計であったことは否定出来ず、周辺住民に甚大な被害を及ぼし、国民が原発の再稼動や新設に慎重になる気持ちはくまごろうも理解出来、特に長期間にわたり自宅への帰宅が叶わない被災者の将来に対する不安や望郷の念を思うと深く同情する。しかしわれわれは福島原発事故により多くのことを学び、その知識を生かして人類のより良い未来を切り拓いてゆくべきである。一回の事故により、原発は怖いから運転再開や新設を一切認めない、というのではあまりにも幼稚な思考法で知恵がなさ過ぎる。原子力規制委員会がこの事故を教訓として想定出来る現実的な自然災害に耐えうる、と認定した原発を稼動させることは、単に経済上の利点で判断されるべきではなく、上に述べた使用済み核燃料の危険性を取除いてゆくためにも必要なことである。それがこれまで原発を使用して利益を得てきた現代人が子孫に対して果すべき責任であると思う。
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くまごろうのサイエンス教室『LED(発光ダイオード)』

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写真はWikimedia Co... 写真はWikimedia Commonsより借用
2014年のノーベル物理学賞は青色発光ダイオードの開発に成功し、21世紀の照明など多くの応用に道を開いたということで、赤崎勇教授、天野浩教授、中村修二教授に授与されることとなり、政府が科学技術創造立国を目指す日本は大いに盛り上がっている。現代の社会ではLED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)は商業用・住宅用照明に加え、携帯電話、コンピューターのディスプレイ、テレビ画面などに使用される液晶のバックライトとしても広く使用されており、更には信号機や自動車の灯火などにも普及し始めている。

電磁波の一種である可視光は波長がおよそ380-760ナノメートルの範囲であるが、一般的に熱源から、または蛍光体への電磁波の衝突などによりに発生する。エジソンが発明した白熱電球はタングステンフィラメントを加熱して、その熱源から発生する電磁波のうちの可視光により発光し、また蛍光灯では水銀を封入した電極間での放電で発生する紫外線をガラス管内に塗布した蛍光物質に当てることにより可視光に変換して発光する。LEDの場合は自由電子の不足したP型半導体と余剰の自由電子を持ったN型半導体を接合して電圧を印加すると電子が流れ、電子の持つエネルギーの一部が熱や運動を介在せずに直接可視光に変化することにより発光する。このような発光メカニズムの違いにより、1ワットあたりの発光効率が電力の大部分を熱として失う白熱電球では15ルーメン、また電球型蛍光ランプでは60ルーメン程度であるが、白色LED電球では100ルーメンと高効率となる。また照明器具の寿命については平均的に白熱電球が1,000-2,000時間、蛍光灯が6,000-12,000時間であるのに対しLEDが40,000時間であり、量産化による価格の低減が進めばスウェーデン王立アカデミーが受賞理由として述べたように、21世紀世はLEDが世の中を照らすことになる。

一般の半導体ではシリコンにリンやホウ素など他の元素を加えたものが使用されるが、現在LEDに使用される半導体はガリウムを主体に砒素、燐、アルミニウム、窒素、セレンなどの元素を加えたものである。印加した電圧が低いと電圧を上げても電流が増大せず発光しないが、ある電圧を超えると電流の増え方が急激に増加し、電流量に応じて発光する。LEDは使用される半導体の材料によってさまざまな色の光を発する。

照明に不可欠な白色光は光の三原色である赤、緑、青のLEDを組み合わせることにより得られるが、また蛍光体に短波長の光を照射すると長波長に変換出来る性質を利用して、波長が450-495ナノメートルと短い青色LEDの光を蛍光剤に照射することにより白色光を発光することが出来る。赤色ダイオードや黄緑色ダイオードは1960年代に開発され、1980年頃には赤色ダイオードは電子機器などのモニターランプとして使用されるようになったが、青色ダイオードは1990年代初めの赤崎教授および天野教授による窒化ガリウムに関する基礎技術の開発、および1993年の中村教授をはじめとする日亜化学工業による高輝度青色ダイオードの実用化を待たねばならなかった。青色ダイオードの実用化によりLED照明は広く普及し、一部のメーカーではエネルギー効率の低い白熱電球は特殊用途にのみ生産することを決定している。また蛍光灯も内部に有害物質である水銀を含むため、将来は生産が大幅に削減される方向である。一般的なLED照明では紫外線や赤外線が発生しないため、文化財や美術工芸品などの展示用照明にも適している。

量子力学の理論により、青色ダイオードの発光材料はセレン化亜鉛または窒化ガリウム・窒化インジウム混晶などが適していることがわかっていたが、1980年頃は良質な結晶を作りやすいセレン化亜鉛が有望視され、世界の研究者はセレン化亜鉛半導体の開発に努力していた。しかし赤崎教授は結晶を作ることが難しいもうひとつの青色ダイオードの発光材料の候補であった窒化ガリウム半導体にこだわり、当時大学院生だった天野教授と共に、有機金属ガス原料を送り込むMetal Organic Vapor Phase Epitaxy(MOVPE)法を使ってサファイア基板の上に結晶の原子間隔の異なる窒化ガリウムを直接結晶化させるのではなく、より低温で窒化アルミニウムの結晶になりきらない軟らかい薄層を形成させてその上に窒化ガリウムを結晶化させることにより、1985年に高品質の窒化ガリウム結晶を作ることに成功した(窒化アルミニウム・バッファ層法)。生成した結晶はN型半導体であったが、赤崎教授と天野教授は1987年にマグネシウムをドープした結晶に電子線を照射することによりP型半導体を作ることにも成功した(電子線照射法)。

中村教授は日亜化学工業在職中に大量生産に適した窒化ガリウム半導体の製造を企て、1988年にMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置(有機金属気相成長法を利用した結晶成長装置)に着目し、この装置を所有していたフロリダ大学に客員研究員として赴任しこの装置に関する知見を深めた。帰国後、この装置を改良して水平方向から導入される原料ガスに加え、垂直方向から窒素、水素などの押圧ガスを挿入するツーフローMOCVD装置を開発した。この装置を使って1991年に高品質な窒化ガリウム・インジウム混晶の形成に成功し、また窒化ガリウムにマグネシウムを添加して水素を含まない雰囲気で熱処理することによりP型窒化ガリウムとなることを見出し、高輝度の青色LEDの量産化に成功した。中村教授については日亜化学工業との特許係争や、P型窒化ガリウムの開発は部下の研究員の功績である、などの理由で批判もあるが、中村教授に多額の研究予算を与えて青色LEDの研究を遂行させた日亜化学の経営判断、およびその期待に応えて実績を上げた中村教授の存在、更には青色LEDと最適蛍光体による白色LEDの開発が同社のLED業界での指導的地位を確定したのであり、中村教授なくしては高輝度青色LEDの量産化は実現しなかったであろう。

他のLEDの候補である酸化亜鉛をLEDとして使用するにはP型酸化亜鉛結晶の合成が必要であるが、酸化亜鉛は不純物や格子欠陥から供給される電子が多く、N型になりやすい。2004年、東北大学金属材料研究所の川崎雅司教授らのグループは成長温度調整法と呼ばれる原子レベルでの酸化物結晶制御技術によりP型酸化亜鉛の合成に成功し、これとN型を接合することにより青色LEDを作ることに成功した。酸化亜鉛青色LEDは窒化ガリウムLEDに比較して原料となる亜鉛が豊富に存在しかつ低価格のため、将来は酸化亜鉛により青色LEDの大幅な価格低減が期待される。
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くまごろうのサイエンス教室『GPS測位システム』

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2014年4月の皇居一周ランG... 2014年4月の皇居一周ランGPSデータ 2014年8月のMercer ... 2014年8月のMercer IslandランGPSデータ
現在の世の中ではGPS (Global Positioning System)が軍事用や船舶用に限らずカーナビゲーションや携帯電話などにも広く使用されており、随分と便利な世の中になったものだ。かく言うくまごろうも昨年末からランニングにGPS機能付のストップウォッチを使用しているため、走路、タイム、ペース、標高差などの情報がたやすく入手出来る。添付の図表は今年4月に皇居の周りを走った時と、8月にマーサーアイランドのコースを走った時の記録である。GPSは衛星を利用しているため、東京でもアメリカでもGPS機器を空に向けるだけで使用出来る。

GPSは3台のGPS衛星からの信号を受取ることにより地球上の1点を特定するが、その原理は衛星とGPS機器との距離を観測することである。即ちGPS衛星は現在位置と現在時間の情報を常に発信しているが、第1の衛星からGPS機器まで電波が到達する所要時間に光の速度をかけることにより衛星と機器との距離を計算すると、機器はその衛星を頂点とし距離を母線とする円錐の底面の円周上に存在することになる。同様に第2のGPS衛星からの距離の測定により第2の円錐の底面の円周が特定され、二つの円錐の底面による円周は2点で交わる。更に第3のGPS衛星からの距離の測定により第3の円錐の底面の円周が特定され、この円周は前述の二つの円周とは1点で交わる。この点がGPS機器の現在位置である。

地上から20,200キロメートルの高度の円軌道を1周約12時間で飛行する24機のGPS衛星は精密機器であり、その現在位置情報や現在時刻はきわめて正確である。衛星に搭載されている時計はセシウムなどの振動周波数に基づく原子時計であり、30,000年に1秒程度しか狂わない正確さである。距離の計算には光速である299,792,458メートルが使用されるので、1マイクロ(0.000001)秒の誤差でも距離は299メートルもずれてしまうので、1ナノ(0.000000001)秒の精度が必要なのだ。

GPS衛星に搭載されている時計は正確だが、その情報を受取るGPS機器の時計は通常、クオーツ時計程度の精度のためあまり正確ではない。そのため4つのGPS衛星から時刻に関する情報を受取り、GPS機器の時計を補正することによって正確な位置の測定が可能になる。その際、相対論効果を考慮に入れて時計を補正しないと地上との間に時差を生じてしまう。特殊相対性理論によれば、人工衛星は高速で動いているので地上から見ると時間がゆっくり進む。すなわち地球から見ると、人工衛星の時計は1日あたり7マイクロ秒づつ遅れる。他方一般相対性理論によれば重力が強いほど時間はゆっくり進む。重力の強い地球からは重力の弱い人工衛星の時計は進んで見えることになる。その進みは1日あたり46マイクロ秒である。両者の差である39マイクロ秒の誤差に光速をかけると距離の誤差は12キロメートルになり、これではGPSとしては使い物にならない。GPSは特殊相対論と一般相対論を使ってこの誤差を補正することにより実用に耐える精度を確保している。

自動車に使用されるカーナビゲーションシステムではトンネルなどに入った際、GPS衛星からの電波が受信出来なくなるため、ジャイロ、加速度センサー、車速情報などにより位置を特定出来る機能付モデルが一般的である。また携帯電話などの場合は衛星からの電波が受信出来ない屋内や地下などでは基地局の位置情報を利用して位置を特定するが、その精度は通常100メートルを超え、あまり正確ではない。

GPSの技術は地殻の変動を観測するシステムにも使用されている。国土交通省は日本全国の1,240ヶ所に約20キロメートル間隔でGPS観測点を設置することにより、地殻がどのように変動したかを観測している。このシステムを利用して東日本大震災の際に日本列島が東南東方向に約5.3メートル、垂直方向に1.2メートル移動したことが観測された。又噴火に備え、富士山にはGPS機器が多く設置されており、山体の膨張などを観測している。

GPSは未来の農業機械にも利用されようとしている。従来のGPS衛星からの電波を利用した農業機械は既に一部使用されているが、日本が打上げた測位衛星『みちびき』の電波を使用することにより、通常のGPS衛星では建物や防風林などにさえぎられて測位信号を受信出来ない時間をなくすことが出来、また誤差が数センチメートルの正確な位置情報が得られるので、無人化した先進農業機械による耕作を行うことが可能になる。
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くまごろうのサイエンス教室『水はどこから来たか』

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ISSから見た地球(NASAよ... ISSから見た地球(NASAより借用)
月や火星とは違い、宇宙から見る地球は青い海が広がり、白い雲がたなびいてとても美しい。地球の表面には海や川や湖などに水が満ちあふれており、地表の約70%を覆っている。また大気中には水蒸気が含まれ、この水蒸気が上昇して雲になる。一方、私たちの体を構成する60兆個の細胞の70%は水である。地球に住むわれわれにとって、水は最も重要な化合物のひとつだが、いったいこれらの水はどこから来たのだろうか。

太陽系が生まれた約46億年前、宇宙に存在していたたくさんの恒星の内部では超高温・高圧のために水素原子が核融合してヘリウム原子核を生成し、より質量の大きな恒星ではヘリウム原子核2個の核融合によりベリリウム原子核が、ベリリウム原子核とヘリウム原子核の核融合により炭素原子核が、炭素原子核とヘリウム原子核の核融合により酸素原子核が生成した。このような質量の大きな恒星内における核融合で生成するのは鉄の原子核までであるが、これらの恒星の超新星爆発によりもっと重い他の元素が生成し、また元素が宇宙空間にばらまかれる過程で炭酸ガス、水蒸気、メタンなどの分子が生成した、と考えられている。このような超新星爆発によって生まれた水素やヘリウムなどを主体とした星間ガス、分子雲、宇宙のちり(星間塵)などが集まって太陽と太陽系の惑星が生まれたが、地球は水星、金星、火星と同様に太陽からの距離の関係で主に岩石や金属が集積して岩石惑星となった。

45億年前に微惑星(隕石)の衝突や合体の結果生まれた地球は、誕生直後は微惑星の衝突のエネルギーで地表が高温になり、表面は融けたマグマオーシャンの状態であったが、微惑星の衝突がおさまってくると地表の温度が低下して固まり、薄い地殻が形成されたと考えられている。誕生当時の地球は太陽の大気と似た高温のヘリウムと水素を主成分とした大気をもっていたが、その大気は誕生したばかりの太陽からの強力な太陽風によってほとんど吹き飛ばされてしまった。地殻が形成された地球の表面では多くの火山が噴火し、太陽風もおさまってきた地球周辺には二酸化炭素やアンモニアなどによる大気が形成されたが、この大気には微惑星を構成する岩石に結晶水や水和物の形で存在していた水が水蒸気として多量に含まれていた。この水蒸気が地表の温度低下に伴って大気中で凝縮し、雨となって数100万年も地球表面に降り注ぐことによって約40億年前に海洋が誕生したと考えられている。初期の海洋は大気に含まれていた亜硫酸や塩酸を含んでいたため酸性であったが、地殻の金属が溶解することによりある程度中和された。27億年前には海洋の浅瀬にシアノバクテリアが発生し、光合成を行っていたことが化石により明らかになっているが、この光合成により酸素分子が発生し、酸素が地球大気の重要な要素となっていった。

地球表面では主に太陽からの輻射熱により海や湖などから水が蒸発するため、地球の大気には多量の水蒸気が含まれている。大気は高度が増すと気温が低下し、水蒸気はある高度で凝縮して雲となり、ある気象条件下で雨、あられ、雪などになって地表に降り注ぐ。このような水の蒸発・凝縮・雲の形成・降水を水循環と呼ぶが、地表の水は宇宙に散逸せずに地球に保存されることになる。

こうしてみると、炭素化合物の燃焼などにより生成する水を除き、地球上にある大部分の水は太陽系誕生の前に起きた恒星内での核融合、それに続く超新星爆発などによって生じた酸素原子と水素原子から生成し、微惑星の成分である岩石の結晶水などの形で地球に飛来し、微惑星の衝突や火山の噴火により水蒸気となって大気の成分のひとつとなり、やがて大気温度が低下したことにより液体の水となったのだ。そしてこの宇宙からの贈り物である水は地球の特殊な環境により、宇宙に散逸することなしにわれわれの役に立っていることになる。この次に水を飲む時は、はるか46億年前に宇宙から来た水の歴史に想いを寄せてみるのも一興だろう。
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くまごろうのサイエンス教室『光の速度』

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光の速度は秒速約30万キロメートル、正確に言うと、299,792,458(憎くなく二人寄り添いいつもハッピー)キロメートルである。これは1秒間に地球を約7周り半まわる早さであり、最高でも秒速10メートルである人間の3,000万倍、秒速約340メートルである音速の88万倍、地球の周りを約90分で1周する秒速約7,700メートルであるスペースシャトルの39,000倍の速さである。

しかし宇宙に目をやると、光の速度は速すぎることはない。地球から月までの距離は約384,400キロメートルのため、光でも1.28秒、また太陽までの距離はおよそ1億5,000万キロメートルあるので8.34分かかる。太陽から最も遠くにある太陽系の惑星海王星までの距離は、地球までの距離の約30倍だから、太陽からの光が届くのに4時間10分必要だ。更に太陽系の外に目をやると、太陽から最も近い恒星はケンタウルス座アルファ星であるが、光のスピードでも4.39年もかかる。

光速は意外と古くから測定されており、1676年にデンマークの天文学者オーレ・レーマーが木星の衛星であるイオが公転により木星の陰に隠れる周期が計算値からずれる現象を観測することにより、光速が毎秒21.4万キロメートルと計算した。また、フランスの物理学者アルマン・フィゾーは1849年、歯の数が720ある歯車を毎秒12.6回転させると、歯車の谷を通過した光が8.6キロメートル先に設置した反射鏡で折り返して谷の隣の歯に当たることを測定し、光が8.6 x 2 = 17.2キロメートルを進むのに要する時間が1/(720 x 2 x 12.6) = 0.000055秒と計算し、光速が31.3万キロメートル/秒であるとした。

イギリスの物理学者ジェームズ・マックスウェルは1864年にマックスウェル方程式を発表し電磁気学の基礎理論を確立したが、電磁波が真空中を進む速度を理論的に計算し、その速度が約30万キロメートル/秒であることを示した。そして電磁波の速度が光速と一致したことから、光は電磁波の一種であると結論づけ、光速は不変なものとなった。

17世紀以来のイギリスの物理学者アイザック・ニュートンが確立した古典的物理学では、時間の進みや空間の大きさは誰にとっても等しい絶対的なものであったが、ドイツ生まれの物理学者アルバート・アインシュタインは、幼少の頃から光を光と同じ速さで追いかけたらどのように見えるだろうか?という疑問を抱き続け、1905年、26才の時に電磁気学が理論的に示すように光速は光源の速度によらず不変であることが絶対的であり、光速に近い速度で移動する人は時間の進みや空間の大きさが移動速度に応じて変化する、という特殊相対性理論を発表した。この理論によれば、光の速度に近い高速で動いている人の時計はゆっくり進む、あるいは高速で動く人や物は静止している人から見れば縮んで見える。

一例を挙げれば静止している観察者Aと光速の約75%の速さで水平に移動している観察者Bの両者が長さ約30万キロメートルの筒の下端から発せられる光を観察すると、Aは1秒後に光が上端に達するのを観察するが、Bの見ている筒の中ではその時、光はまだ全長の66%の位置にある。この筒は光時計と呼ばれ、下端から発せられた光が上端に到着するまでの時間を1秒と規定するが、この例ではAの時計が1秒経過してもBの時計は0.66秒しか経過していないことを示している。

アインシュタインは特殊相対性理論から有名なE = mc2 というエネルギーと質量の関係式を導いているが、スイスにあるLHC(Large Hadron Collider)のような陽子加速器で陽子を加速する場合、速度が速くない時はエネルギーを加えれば陽子はどんどん加速されるが、光速に近づくと加えたエネルギーは陽子の見かけ質量の増加に消費され、どんなにエネルギーを加えても陽子が光速を超えることはない。この現象は質量を持つすべての物質に共通であり、光速不変の原理は光速が何者も超えることが出来ない宇宙の最高速度である、としている。

2011年9月、CERN(European Organization for Nuclear Research)のセミナーで発表されたニュートリノの速度が光速を超えた、というニュースはきわめて衝撃的であった。もしも発表されたデータが正しければ特殊相対性理論を否定し、素粒子物理学や宇宙物理学などに大きな変革をもたらすことになりかねなかった。しかしその後の調査で、実験に使用したGPSの接続不良が原因の誤差であり、ニュートリノの速度は光速であったことが確認された。

ところで1メートルという長さの単位は、以前は地球の北極から赤道までの子午線の距離を10,000キロメートル、その10,000,000分の1を1メートルと定義し、パリにある白金とイリジウムで作ったメートル原器が基準であったが、1983年の国際度量衡総会以降、1メートルとは光が真空中を299,792,458分の1秒に進む距離、という定義に変っている。この際1秒の定義が重要となるが、セシウムが発振する電磁波の周波数に基づくセシウム原子時計により測定することになっている。1メートルの単位もずいぶんとハイテク化したものだ。

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