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くまごろうのサイエンス教室『核変換技術とトリウム熔融塩原子炉』

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小泉元総理大臣は数年前にフィンランドにある高濃度核廃棄物最終処分場であるオンカロを見学し、保存される廃棄物が無害化するのに10万年かかると聞き、反原発に転向したと聞いている。ちなみにオンカロに貯蔵される核廃棄物は原子力発電所からの使用済み燃料を核燃料サイクルによる再処理をおこなわず、そのまま処分するという極めて原始的なやりかたである。小泉元総理は理系ではないためこのような話を聞けば原発再稼動はダメ、と短絡的に思考するのであろうが、科学者や技術者は長い半減期を有する放射性物質を如何にして短い半減期の物質に変換するかを考える。

従来の日本の原子力政策では使用済み核燃料を青森県六ヶ所村にある日本原燃の再処理工場で処理することによりウランとプルトニウムは分離して原子力発電所で再利用し、核分裂により生成した核分裂生成物(FP、Fission Product;セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129、テクネシウム99など)とマイナーアクチニド(MA、Minor Actinide;ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなど)は高レベル放射性廃棄物としてガラス固化体として地下300メートルに保管する地層処分が計画されていた。

地層処分が計画された核分裂生成物とマイナーアクチニドの中には、ネプツニウムが214万年など非常に長い半減期を持つ物質がある。核種分離・消滅処理と呼ばれている使用済み核燃料廃棄物処理に関する研究は、核分裂生成物とマイナーアクチニドなどの放射性廃棄物に含まれる放射性核種をその半減期や利用目的に応じて分離し、更に長寿命核種を短寿命核種に変換するための技術の確立を目指している。例えば前述のネプツニウムの原子核に中性子をぶつけると、半減期が数年以内の原子核や放射線を出さない非放射性原子核に変換することが出来る。

2014年12月8日付のくまごろうのサイエンス教室では使用済み核燃料の処分法の一つとして、高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構の共同事業であるJ-PARCにおける加速器駆動未臨界炉を紹介したが、加速器駆動核変換システム(ADS、Accelerator Driven System)では、加速器からの高エネルギー陽子を鉛・ビスマス合金のターゲットに当てることにより核が破壊されて20-30個の高エネルギー中性子を発生させ、この中性子を再処理工場からの高濃度マイナーアクチニドを含む燃料に照射することにより長寿命の核種は人類が管理可能な半減期の短い核または安定な核へ変換される。加速器駆動未臨界炉(ADSR、 Accelerator Driven Subcritical Reactor)はADSの余剰なエネルギーを電力として取り出すことを目的とした原子炉である。1基のADSRは同じ規模の10基の軽水炉から生成するマイナーアクチニドを処理することが可能と言われている。ベルギーでもADSR実験炉プロジェクトMYRRHAが進行中で、2017年に建設が開始され2026年に実験開始を予定している。MYRRHAの研究者は2018年3月にもJ-PARCでの情報交換会議に参加しているが、MYRRHAは2033年の実用炉運転を目指している。

第4世代の原子炉と呼ばれるトリウム熔融塩原子炉は、アルカリ金属のリチウムやアルカリ土類金属のベリリウムのフッ化物(LiF-BeF2)など500℃以上では液状となる熔融塩を冷却材、これにトリウムを溶解させて液体燃料とし、更に核分裂物質として少量のウランまたはプルトニウムのフッ化物を加えてポンプにより熔融塩を原子炉と熱交換器の間を循環させることにより原子炉で発生した熱を発電などに移用する原子炉である。軽水炉では核燃料を金属被覆管に充填した固体燃料を使用するが、熔融塩炉では液体燃料を使用するため、核燃料の取扱が格段に容易になる。熔融塩炉は1960年代にアメリカのオークリッジ国立研究所(ORNL、 Oak Ridge National Laboratory)で研究開発が行われ、実験炉は4年間の安定した運転実績を示したが、原子力潜水艦のために開発された軽水炉の商業化が先行したこと、核兵器の材料であるプルトニウムを生成しないこと、などにより当時の社会情勢では原子炉として不適切とされ開発が中断された。

日米英仏韓加など10カ国により結成された第4世代国際フォーラム(GIF、 Generation IV International Forum)は2002年に次世代原子炉のひとつとして熔融塩炉を選定し、2030年の実用化を目指し各国で政府、民間の両者で研究が進められてきたが、2011年の福島第一原子力発電所で発生した軽水炉の暴走事故以後安全性が最優先される環境のもとで、緊急時における炉の確実な停止、核物質から放出される崩壊熱の除去性能、放射性物質の外部流出防止などの特長により、海外では熔融塩炉が再評価されている。安全性に加え熔融塩炉は、①燃料であるトリウムの埋蔵量が多い、②軽水炉では使用済み核燃料の再処理のための固体燃料溶解処理が必要だが、液体燃料のため溶解処理が不要であり大幅に単純化出来る、③燃料の循環使用により長寿命の放射性廃棄物であるマイナーアクチニドの消滅が可能になり放射性廃棄物を大幅に削減出来る、④プルトニウムを燃料として使用出来、消滅が可能、⑤プルトニウムを副生しないため核兵器への転用が少ない、などの利点がある。中国科学院は2011年より熔融塩炉の開発を進め、2020年には実験炉を稼動させる計画である。またアメリカではエネルギー省が2016年にオークリッジ国立研究所を含む産学官の開発プロジェクトに資金援助を行っている。

2011年にオークリッジ国立研究所は従来の熔融塩炉のリチウムやベリリウムのフッ化物に替えてナトリウムやマグネシウムの塩化物を熔融塩として使用することにより、中性子のエネルギーレベルが上昇してもんじゅのような高速増殖炉並みの中性子の高速化が実現される高速熔融塩炉の概念を発表した。高速熔融塩炉は核分裂反応を起こすウラン235の含有量が少ない劣化ウラン、軽水炉からの使用済み核燃料、更には核分裂生成物やマイナーアクチニドを燃料として使用出来、軽水炉の使用済み核燃料の処理法としても期待される。

2016年10月に国際原子力機関(IAEA)によりトリウムを用いた熔融塩炉に関する国際会議が開催され、熔融塩炉は高温で高効率であること、低圧で安全性が高いこと、高レベル放射性廃棄物の削減が見込まれること、液体燃料なので燃焼度制限がないこと、核燃料サイクルの融通性が高いこと、などの利点が確認されている。

日本における熔融塩炉の第一人者と言われる古川和男博士(故人)は20年前に10万~30万キロワットの不二(FUJI)と呼ばれる小型熔融塩炉の概念設計を提案しているが、彼が設立した(株)トリウムテックソリューション社はメルトダウンを起こした福島第一原子力発電所のデブリ処理に熔融塩炉を提案している。デブリを塩素などハロゲンで溶解処理し、プルトニウムやマイナーアクチニドの塩化物を分離回収、それらを塩化物熔融塩に溶解して熔融塩炉で燃焼させ無害化する。

2018年7月に経済産業省より発表された第五次エネルギー基本計画では次世代の原子炉として熔融塩炉が記載された。基本計画ではプルトニウムの削減に取組むとしているが、もんじゅのような高速増殖炉を断念した日本では軽水炉によるプルサーマルではプルトニウムの削減は不十分であり、プルトニウムを燃料に利用出来る熔融塩炉がその役割を担うことになるのだろう。現在の日本では原子力発電所の新設は議論することすらはばかられるが、世界に目を向けると電力需要が旺盛な途上国では二酸化炭素を排出しない原子力発電に対する期待は大きく、安全性に優れ、システムの単純さにより小型設備でも経済的に成り立ち、核兵器に転用される恐れのあるプルトニウムを副生せず、核分裂生成物やマイナーアクチニドを循環することにより消滅処理が可能なため放射性廃棄物処理が容易であり、かつウラニウムよりも資源が入手しやすいトリウムを燃料とする熔融塩炉は21世紀中頃までに多く建設されると思われる。
#科学

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