どんな夏にしたいですか と、囁く朝の生温い風は なんだか気力のない僕に らしさ を、取り戻して欲しかったのでしょうか ああ、また勝手なことを考えています でも 問題はらしさがわからなくなったのではなく 生きようとする力が湧いてこないのです まずは、どうにかしたい と、いう気持ちを取り戻すため 今日は話を聞いてもらうために行ってきます (とあるひとへ、いってらっしゃい)
流された街は乱離骨灰(らりこっぱい) 崩れた建物は積み重ねられ瓦礫の山 異様な臭いに言葉をなくし 海の前で帰らぬ家族を待つことさえできない 原発事故によるさらなる悲劇 被災地の途轍もない哀しみの前で 私は震災の詩を書くことはできませんでした それでも被災地に 寄り添うための詩は書けるのです 二〇一八年七月七日 いわき七夕朗読会 復興を願う詩人が遠方からも集まってきて 詩人の詩を朗読する声が被災地へ届けられていく いまだ放射線量が高く帰還困難区域となる場所もあり 被災地の方々は避難され疲れきっている 周囲に驚くほどあったフレコンバッグは 今も中間貯蔵施設に休む間もなく運びこまれている まだまだ震災の爪痕に脅かされています 関心が被災地から薄れぬよう 私たちは復興を願い表現していくのです そして被災地からも 原発反対を訴え続ける詩人たちがいます 春も夏も秋も冬も現状と向き合い 時に厳しく、時にせつなく、時に涙ながし 優しく強く、時にはユーモアで乗り切ろう、と 日々、復興のために詩を綴り表現されている そんな神さまみたいな詩人たちも応援したいのです いわき七夕朗読会での願いが天に届き いつまでも強い絆で復興のために詩を輝やかせつつ どうかみなさまと大地がもっと元気になりますように
帰還困難区域だった処は ひとの時間が止まっていた 海が目の先にある 骨組みを残した鉄骨アパートだろうか 草むらの中で風が抜けている 不思議と流されなかった下駄箱 住民の靴が整えられたまま入っている 壁も屋根も流されてしまっているのに靴はそこにあり その情景は私に何を伝えようとしているのだろう 震災八年目の夏 防潮堤は新しく高くきれいな曲線を描く 防潮林は膝の上あたりまで伸びて その奥に廃墟はあるが誰を守るというのだろう まだ住める土地にはなっていない 哀しみがあったろうに それを語る住民も暮らす環境もない なのに下駄箱には靴が並べられている 時間はまだ止まっている