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栃木県の歴史散歩

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中世の市場~昔もあった「公正価格」

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 律令時代、都や地方の国府、港には政府監督の市ができ、律令国家が解体するとともに、有力な寺社や地方豪族に保護、管理されて存続した。鎌倉時代では、備中国(岡山県の西部)新見庄三日市、越後国(新潟県)奥山庄七日市、上野国(群馬県)新田庄内今井郷内四日市、六日市など。南北朝時代には、備前国(岡山県東部)福岡県東部)福岡庄吉井村八日市、越後国小泉庄三日市、などがある。三日市ならば月のうち3日、13日、23日と、定期的に開かれたに違いない。そこでは、年貢物、領主の余った品、よその地域の物資が売買が行われた。13世紀末にできた「一遍上人絵伝」には、備前国福岡庄の市場の様子が描かれている。酒、米、馬、布などを並べた店が軒をつらね銭を手にした人々が行きかっている。京都の東寺(教王護国寺)の領だった備中国新見庄の定期市について文永8年(1271)の「地頭方東方田地実検名寄帳」は、十数人の承認が下り、田畑も持っていたことを示している。栃木県の中世研究は、史料不足などのため、他県より遅れている。いままで、余り注目されていない下野の市場について紹介してみよう。
 下野の豪族・御家人の宇都宮氏が定めた〝法律〟、「宇都宮家弘安式条」の中には、3ヵ条にわたる〝市場〟関係の規定がある。これで、弘安年間(1278─87)、宇都宮氏の領内にも、市場があったことがわかる。
 その規定は「迎買」(むかえがい)「押買」(おしかい)の禁止、宇都宮二荒山神社の職員の商売の禁止である。
 平安時代、売買が円滑にいくのを和市(わし)、おどしたり、暴力を使って、強いて物を買うことを「強市」(ごうし)と呼んだ。この場合、当時の市司(いちのつかさ)という役人が取り調べに当たったらしい。公正価格を設定し、売買を円滑にしようというのである。
 この強市が、中世にはいると、迎買とか押買といわれるようになった。鎌倉幕府法も、しばしば押買を禁止している。不法行為は絶えなかったものとみえる。
 社寺の門前は、祭りなどのとき多くの参拝者が集まり、臨時の市がたった、といわれている。宇都宮氏の領内では、二荒山神社が、崇敬(すうけい)を集めていた。式条にみえる市は、恐らく二荒山神社の社前に開かれた市場だろう。
 しかも式条には「市々」とある。複数の市が存在したとみることができる。このように、宇都官氏が、領内の市場を統制。保護したのは、取引をふやし、領主の財源である市場税や営業税を取るためだった。
 下野の市場にふれた、数少ない文書の一つに、「武州文書」所収の延文6年(1361)9月9日付、応永22年(1415)7月20日の追記のある〝市場祭文〟がある。
 この文書は、市場のはじまりを天竺(てんじく=インド)、中国から説きおこし、わが国では古来、大きな社寺の祭礼に市場が成立したと述べている。その一節に、
 「下野国日光権現も中市を立たまふ」(前後略)
という部分が出てくる。この後武蔵国内の市場が列挙されている。
 中世の日光山は、広大な所領と強大な武装力を持っていた。宗祇門下の連歌師宗長の紀行文「東路のつと」によると、「坂本」(現在の日光市中鉢石付近)は永正6年(1509)ごろ、民家や院、僧坊がたくさん立ちならび、大変なにぎわいだった。応永期(1394─1427)、日光に市場があった、と考えてもいいだろう。
 このように記録上、下野では、鎌倉、室町期に、2つの市場を数えることができる。いずれも、社寺の門前に発達したものであることに注目したい。
 室町、戦国期は、市場の数がふえ、市の開かれる日数も、月に6回のいわゆる六斎(さい)市が多くなったといわれている。
 しかし、下野市場については、「二つあった」という以上のことは目下のところ不明、誠に残念である。
 時代は下がるが、足利を根拠地に、勢力を張った長尾氏の「禁制」には「おしかゐろうぜきの事」というくだりがある。これは文明4年(1472) のことである。
 また、明応5年(1496)の長尾景長の「禁制」には市場において「慮外之義」(無礼な行為)をかたく禁じた条文がある。
 足利市鑁阿寺所蔵の「足利城之絵図」は長尾氏支配時代の足利城下を描いたものという。これには地名として「二日(市)町」「三日(市)町」「八日(市)町」などの地名が見え、市日との関係をしのばせる。戦国期、長尾氏の領内に市場の存在したことがわかり興味深い。

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