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  • 手を差し伸べてくれたイザベル

手を差し伸べてくれたイザベル

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右端がイザベル。真ん中は、こち... 右端がイザベル。真ん中は、こちらも本当に親切にしてくれたクラスメートのイシドロ(彼のおごりで飲む笑)



渡米直後、元夫と住んだ家は、1階のベランダが水辺につながっていて、カヌーなどで出かけられる美しいヴィラでした。色とりどりの花が咲き乱れる庭園内にはアヒルが歩き、ちょっとした楽園のような雰囲気です。日本のビジネスを閉め、先に渡米していた夫だけを頼りにやって来た私は、そこで新生活の一歩を踏み出したのでした。

屋外に出ると、時折、よく日に焼けた、麦わら帽子と汚れたシャツ姿のメキシコ人風の人々が庭園の手入れや工事作業をしている姿を見かけました。右も左も分からない私にとって、彼らはなんだかとても遠い存在のような気がして、「Hi」と声をかけることができなかったのを覚えています。

結局、そのわずか1年後には、この楽園生活は終わりを告げます。離婚することになったのです。

アメリカでの生活の仕方も分からない、家もなければ収入もない、家族もいない私でしたが、ルームメイト募集の告知を見付けてどうにか住まいを確保。しかし生きるためにはとにかく働かなければなりません。ネックは英語です。仕事探しをするかたわら、連日通ったのは、アメリカ政府が移民のために提供している無料の語学学校でした。

そこで私は思い切り「外国人」でした!なにせ60人以上はぎっしり詰まった教室の生徒はほぼメキシコ人だったのです。

夕方6時から始まるクラスはとても賑やか。昼間、近隣のイチゴ畑などで働いたメキシコ人の男女が、真っ黒に日焼けした顔で眠気と戦いながら、かつ大笑いしながら、元気いっぱいに英語を学んでいます。ページをめくる、土の詰まった真っ黒な爪を見ると、皆、えらいなあと心から思ったものです――「私もまだまだがんばれるぞ」。

異邦人の私は、皆からとてもかわいがられました。でも賑やかなクラスが終わった後の真っ暗な帰り道はいつも際立って孤独でした。クラスにいる時間が好きでした…終わるとまたひとりぼっちになってしまいます。クラス以外でまで私を誘って遊ぼうという人はいませんでしたし、私も自分から誘う勇気はありませんでした。

しかし数カ月ほど通ったある日、隣に座ったメキシコ人女性が唐突に質問してきました。「Do you like dance?」。「Yes, I do!」と答えただけで終わった会話でしたが、授業が終わった後、彼女は出口で私を待っていました。「Follow me(ついて来て)」。

連れて行かれた先はダンスフロアのあるバーでした!以来、そのメキシコ人女性・イザベルと私は、教室を一緒に出て必ず一緒にどこかに行きました。言葉はあまり伝わらない二人でしたが、ある時はお祭り、ある時はイザベルの親戚のパーティー、そしてある時はイザベルの家でゴロゴロ…。

学校がない日も、貧乏な私が「今日は夕食は我慢するか…」と思っていると、イザベルから電話が来ます。「うちにおいで」。行くと、彼女の食卓にはいつも5~6人のメキシコ人がいました。イザベルの娘や、居候している家の大家さんやその子どもです。「1人増えても3人増えても一緒だよ」。大きな食卓について、メキシコ人の皆と一緒にメキシコの家庭料理を食べていると、目にじわりと水分がたまってきます。

とはいえイザベルも決してお金があるわけではありませんでした。夫は長らく刑務所に入ったまま。ベビーシッターのバイトをしながら一人娘を必死に育ててきました。週末も彼女は休みません。知り合いの家を何軒も掃除して、わずか40ドルのお金を得るためにそれぞれ4時間ずつ働きます。

ある日、掃除帰りの彼女が私に20ドルを投げてよこしました。「な、なに?」と聞くと、「今日は40ドルだったから」。私の苦境を知っているイザベルが、自分の4時間の対価の半分を私にくれようというのです。自分の生活も大変なのに、休みの日に働いたお金を私に…。

あれから自らの会社をアメリカで立ち上げ、日本時代の生活レベルを奇跡的に取り戻した私は、あの苦しい時代のイザベルの優しさをいつも忘れてはならないと強く思い、心ばかりの品物を毎年、彼女に贈っています。


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#アメリカ生活 #メキシコ

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