北満に たふれし 吾子の帰るなく つばくろの帰る日 まためぐり来る
Feb
7
ついに出撃命令が下った。いまこそ祖国のために一命を捧げる時が来たのだ。
かねて覚悟はしていたとはいえ、悲壮な思いが、ひしと胸に迫り、完全武装を急ぐ手が震えた。
一瞬、故郷の父や母の顔が瞼をかすめた。「長い間お世話になりました。国のため、先立つ不孝をお許しください」おそらくこれが今生の別れとなろう。こみあげる熱い思いをぐっとこらえ、私はひそかにわかれを告げた。
そこへ突如、山陰から飛来したソ連機が攻撃してきた。爆弾が落下、大地を揺るがす轟音とともに砂塵が吹きあがった。
いましも湯気のあげるハンゴウに敵弾が命中。川面に機銃掃射のしぶきがあがり、静かだった山峡はたちまち戦場と化した。
(生存者の手記より)