生きものを飼うとつい情が移ってしまいます。
初めて犬を飼った時のことです。
それは真っ白の秋田犬のメスです。メスと言っても秋田犬ですからとても逞しく、凛々しい雰囲気のある犬でした。姿勢がいい犬とでも言いましょうか、「お座り」をさせると、背筋がピンとするほどの姿勢のよさでした。もちろん秋田犬ですから耳もピンとしていました。
名を「ぴー公」と名づけとことん可愛がりました。時には家の中へも入れてあげました。きっと自分も人間の家族の一人だと思っていたことでしょう。しかし散歩は大変でした。一緒に走るとあっという間に引っ張られてしまうため、ついには自転車での散歩、というよりも一種のトレーニングでした。冬は雪の上も喜んで走りました。そして雪もおいしそうに食べていました。
そんな「ぴー公」も母親になり、メスとオスのそれぞれの子犬を産みました。田舎でしたから、遅い時間になると今では考えられませんが、自由に放してあげたのです。そのことを「冒険」と呼んでいました。3時間ぐらいすると真っ黒になって冒険から帰ってくるのです。
そんなある日の夜、いつも通り3匹で冒険に出かけました。しかし、まだ1時間もたたないうちに母親だけが単独で帰ってきたのでした。しかも何か様子が変でした。すると、なにやらこっちへ来いといわんばかりに、洋服の袖をくわえて引っ張るのです。そのまま様子がおかしい「ぴー公」に引っ張られるままどんどん走っていくと、その先には畑の真ん中に用水池があったのです。なんと、その真ん中あたりには一匹の子犬が息も絶え絶え、もうただ浮いた状態でした。きっと乗り越えようとしているうちに誤って落ちたのでしょう。
すぐさま引き寄せ、「ぴー公」よりも早く走って帰り、真夏だと言うのにストーブを出し、とにかく暖をとり、タオルでくるみ家族全員で体全体をさすってやりました。お腹を押すと、大量に飲み込んだ水が口から出てきました。そんな必死の救助活動の数分後、何と、無事に息を取り戻したのでした。
まるで何かの本の話のような本当にあった話です。溺れて用水池の真ん中まで流れていった子犬を見て、これは人間に助けを求めなくてはととっさに考えたのでしょう。自らも犠牲になる危険を冒すことなく、ちゃんと人間に委ねたあたりは、凄い知恵だと今でも思っています。
それ以来、「ぴー公」を心底尊敬をするようになりました。
ラッコ横山
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