初連載『うる星やつら』で一躍時の人となって以来、常に新作を出し続け、連載をすればつねに大ヒット。響子とラムに憧れ、らんまにときめき、犬夜叉に恋する。老若男女、あらゆる世代が高橋留美子に心つかまれている。男性マンガ誌で活躍する女性作家の草分けでもある。画業35周年を記念して、『ダ・ヴィンチ』12月号ではマンガ家・高橋留美子を大特集。その生い立ちにはじまり、作品一つ一つに込めた思いを語ったロングインタビューを掲載している。 言うまでもないが高橋マンガの素晴らしさの一つは、キャラクターの魅力だ。なかでもラムの輝きは圧倒的。第1話を読み返しても、一つ一つのコマに描かれる彼女がいちいちかわいく本当に目を奪われる。 「ラムは一番作り込んだキャラクターですね。かわいさが第一と思って描いていました。劇画村塾で作った短編の宇宙人がもとになって。虎柄の服と電撃は雷様のイメージから。そこはシンプルな発想なんです。“だっちゃ”は、編集さんのアドバイス。『勝手なやつら』の半魚人がなまっていて、ラムもそうしたらいいんじゃない、と。私、井上ひさし先生の『青葉繁れる』が好きなんですが、仙台の物語で“だっちゃ”が出てくるんです。それを使わせていただきました」 あたる、しのぶ、面堂といったメインキャラから、コタツネコや友引高校の校長先生まで、かわいくないキャラはいない。私たちは彼ら全員に心奪われる。では、高橋自身が最も好きなキャラとは? 「竜之介ですね」 浜茶屋「海が好き」の跡継ぎ、藤波竜之介。見た目は美男子だが実は女の子で、口癖は「おれは女だー」。彼女を“理想の男性”と語る女子読者多数。 「連載中盤に初登場しますが、ちょうど行き詰まっていて。彼女が新しいエネルギーを持ってきてくれた。ジェンダーが曖昧で、それも描いていて楽しかったですね。『うる星やつら』では男性キャラは絶対ボケなくちゃいけないんですけど、竜之介はそれに縛られない」 加えて、次々と生み出される多彩なエピソード。笑い、涙し、宇宙の光景に魅せられ、ラブストーリーにときめく。ときには怪奇譚にドキリ。あらゆるエンターテインメントが『うる星やつら』には詰まっている。 「お話の舞台が普通の家庭で、その周りにも普通の商店街と普通の学校がある。その世界観の中だったら何をやってもいいかなと思っていたんです」 高橋留美子の世界観――私たちが深い愛と敬意を持って呼ぶ“るーみっくわーるど”の真髄がここにある。どこにでもある普通の部屋の扉。でも開けたらそこは宇宙空間なのではないか? 空を見上げればラムが飛んでいるのではないか? 電信柱の陰には半魚人が佇んでいるのではないか? 高橋マンガは、私たちのそんな想像を掻き立てる。現実逃避や妄想ではない。これは世界の可能性だ。私たちの周囲が、四角四面な決まりきったものだけで構成されていては悲しいではないか。高橋は、私たちに世界の希望を見せてくれる。 「そう言っていただけるとありがたいですね。そうだといいなと思って描いています。自分が子どものときも、オバQにまたがりたいとかパーマンセットがほしいとか思っていたわけです。想像で遊べるというか。それがマンガの楽しさだとすればね、やっぱり自分もそれがやれたらなと思いますね」 構成・取材・文=松井美緒/『ダ・ヴィンチ』12月号「大人の高橋留美子だっちゃ!」特集