夜のラスベガス
…なんのことかって気候のことです。
韓国のソウルに住んでいたころ、ある冬は零下20度にまで下がり、道路が全部凍っていしまいました。それでも若かった私は無謀にもハイヒールのブーツで出掛け、右足が滑った後に左足が滑り、その次についた右足が滑りっていう見事な氷のダンスを見せたこともありました。零下20度だと寒いのを通り越して、空気が痛いんです。だからこそ韓国で発達しているのがオンドル床。家の中に入ったら、床下に温水が張り巡らされた部屋の暖かいこと、暖かいこと!そこで学んだのは、オンドル床には、チョコレートの入った鞄を置いてはいけないということ。鞄の中でチョコがドロドロに溶けてしまって悲惨なことになります。
沖縄に住んでいたころには、台風のすさまじさに驚きました。なんと、風がドーン!と爆発物のように家に当たって音を出すのです。夜になり、ベッドに入っても、ドカーン!ドカーン!と風が家に当たる音と、家が根こそぎ吹き飛ばされそうな揺れが続き、生きた心地がしませんでした。そのとき、初めて見たのが、いつも勇敢な私の愛犬がぶるぶる震えている姿でした。私が怖がっている場合じゃないと思って、彼女を布団の中に入れて音が聞こえないように抱きしめました。何かを守ろうと思ったとき、自分の怖さが不思議と消えることを初めて体験した夜でもあります。いつも守られるばかりで、あの感覚を知らなかったのです。
ロサンゼルスの少し北側に住んでいたとき、体験したのは、季節風のサンタアナウィンドです。LAよりも、もっと激しいサンタアナウィンドがあの地域では毎年1回吹き荒れます。台風に似ているのですが、台風って右から吹くならずっと右から吹き続けますよね。でもこのサンタアナウィンドは右から、左から、上から、下から、前から、後ろから、ランダム過ぎる吹き方をするのです。こんな風が存在するのか?私の既成概念の中には、全くない風でした。
そして今、ラスベガスにいますが、気温がなんと50度近い!家の外に出るとまるで四方八方からヘアドライヤーの熱風をあてられているようです。息が100%完全にはできない。熱風にもまれて外出しなければならないので、私はとても家から出られません。しかもここには局地気候(Micro climate)というものが存在します。小さな街なのに、数ブロックだけ違う気候になります。一昨日は数ブロックだけに砂嵐警報が出て、そこには近寄るなと。また、その前の日には数ブロックに洪水警報が出ました。砂漠の街に洪水警報。空を見たら絵のような雨雲が遠くの空の上にあり、そこから暗い筋が束になって下りていて、ちょうどその下にいた義妹はずぶ濡れになってしまいました。ちょっと漫画みたいですけど。
というわけで、私の想像力って、全然現実からは遠いんだなと思う今日この頃なのです。住んでみて初めて分かることって結構ありますね。
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