コミュニケーションしてますか? (その3)…数字の魔術…
Feb
15
以前に「コミュニケーションしてますか?」の表題下に、「数の話」をいたしましたが、読者の方から続きはどうなっているの?との御催促を戴きました。今回は気になる事件が続きましたので、少し見方を変えた「数の話」をしてみたいと思います。
ただいま渦中のメキシコ湾油田事故、毎日、テレビでも騒がれてはいますが、この事故を、あまり報道されていない面から見直してみましょう。
「写真1」が今回の爆発事故後に水没した海底油田「ディープウォーター・ホライゾン」です。総工費5億6千万ドル、韓国の現代(ハンデイ)重工製。海底油田の種類には詳しく触れませんが、海上の採掘採油総合施設はプラットフォームとよばれます。一つのプラットフォームは平均30ヶ所程の採孔(海底の原油、ガスの出口)を管理しています。「写真2」はNOAA(2006年現在)によるメキシコ湾の油田分布図です(矢印が事故箇所)。驚かれる方も多いと思いますが、メキシコ湾には現在4,000余りのプラットフォームが稼動しているのです。前述のようにプラットフォーム毎に30ヶ所の採孔があるとすると、実に10万ヶ所以上が海底に穿孔されている事になります。今回の事故でBPの責任者は油田、ガス田を合わせ約5万の採孔がBPの管理下にあると表明しています。同責任者は技術及び管理面でのインティグリティー(保障精度)について問われ「100,000:1」つまり間違いの起こりうる確率(プロバビリティー)を10万分の1といっています。普通に考えれば、これは非常に高い安全率(99.999%)です。あらゆる技術面において、このレベルを達成するのは至難の技です。しかし今回の事故のような採孔が10万ヶ所あるとなると、業界全てに同様のインティグリティーがあるとしても、今にでも又、メキシコ湾のどこかで次の事故の起きる可能性があるということです。
今ひとつは、信頼性世界一を誇ったトヨタ車のリコール問題です。問題の故障は世界で約80件報告されていますが、対象となった車は800万台。つまり、この故障はトヨタ車10万台に一台の割で起きた事になります。偶然にも油田業界と同じインティグリティーに直面した事になります。トヨタは「カイゼン」で知られた様に製産精度を極限まで上げる努力をしてきましたが、精度が高くなるにつれ、あと僅かの向上に膨大な費用がかかります。若しも企業が「10万が一」の不備を正すことより、事故の事後処置(人命も含めて)の方が安いという判断を下したとしたら経営陣の倫理感が問われる事になります。今日の経営首脳陣の多くが現場での物作りを体験しておらず、株主の為に利潤のみを追求させられている事は考えさせられます。今、私はこの原稿をコンピューターで書いていますが、コンピューター業界のインティグリティーはどの辺でしょうか? どうも、あまり高いようには思われません。それは「万が一」、「10万が一」で起き得る故障に対する保障経費と投資の比較によるからです。パソコンがクラッシュしても人命に関わる事は少ないでしょうから、有る程度のバグは市場に出す際、無視されています。ユーザーはもっと高いインティグリティーをソフト会社に要求すべきかもしれません。しかし、「十万に一つ」、「百万に一つ」の事故は防げないのでしょうか? 可能性はあります。それが「フェイル・セーフ」の概念です。次回はこの「フェイル・セーフ」に触れてみます。