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ル・マン24時間レース 回顧録④

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新型感染症が世界的に深刻な被害をもたらした2020年。
この年、それでもル・マン24時間レースへの挑戦を見届ける必要があった。
その回顧録を自分視点で、記憶が曖昧になる前に残しておこうと思う。
※プライバシー配慮のため、人名等はイニシャル表記にする
※そんなもん、いまどき検索すれば出てくるだろうが・・・
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【序章-4】
この物語の主人公Y氏。初めてのピュアレーシングマシンに何とか喰らい付こうと、四苦八苦されていたとは思うが、それでも車輛側から楽にタイムアップを稼げるよう、この時期から車輛重量をかなりシビアに削り込んでいった。
一般の乗用車を軽量化するなら、不要な物を全て剥ぎ取っていく事になるのだが、そもそも競技車両として製作された車輛を、そこからの軽量化と言うヤツは、まあまあ頭や金の使いどころになってくる。

ちなみに、軽量化と言うと「穴開ければ?」とか「軽い材料にしたら?」とか、多少知っている方は軽く言ってくれるのだが、話はそう短絡的ではない。勿論、最終的には「穴を開けたり、切除したり」だったり「材料変更」だったりが落ち処になるワケだが、レースには規則書が存在している以上、寸法に不備が出たり、いくら効果が見込まれる材料であっても使えない。

だからこそ、古今東西のレース屋は<軽量化>という作業を血が滲む想いで取り組むのである。

そのなかで、外装・・・いわゆるカウルに関しては自身がそうしたコンポジット技術を得意としていた事もあり、比較的短時間で効果的な代替カウルを製作し得た。それまでのズッシリ重量感のあるものから、必要な強度以外全てを取り去った新規カウルへの換装は技術的にもチャレンジングだったし、とにかく物理的に目に見える効果的な軽量化となった。

ただし、軽くはなったがこれでやっと、その他の競技者と重量的にバランスしてきたようなだけで、もしもあの車輌に並みの体格のドライバーが乗れば、たちまち最低重量をクリアするために重いバラストを積む羽目になる。
後の耐久レースで、この事が露呈するのだが・・・。

また時を少しさかのぼって、軽量化とは別のアプローチでもドライバビリティの改善を模索していた。
規則書上、グレーゾーンとも言えたエアロダイナミクスについてである。

当時の規則書には、ボディー上面のスポイラーや空力的付加物についての文言は確かに有ったのだが、ボディー下面に関しては細かく記述が無い状態だった。
そうなれば考える事はひとつ。アンダーパネルをいじるしかない。
以前在籍していた会社で風洞実験などにも関わっていた経験上、下面効果はレーシングマシンにとって絶大な効果を発揮することは自明の理であったからだ。
幸いなことに、当時の車輛は簡単に言えばオーバーステアリング傾向の性格であったため、これからいじり倒そうと画策していたリヤのアンダーパネルが相当ポジティブな影響に寄与するであろうことは容易に想像がつく。

ただしレーシングマシンの奥が深いところは、ただモノを付けただけでは期待する性能を発揮しない点にある。
例えば、単純にリヤのアンダーパネルで効果を期待するなら、当然のようにアップスイープを用いたいと考える所だが、しっかりと空気が取り入れられている事が前提であるし、いつの時代でも、後ろだけでダウンフォースを得たところで車輛の運動性能には上手く働きかけてくれない。むしろ、曲がらなくなる方向性なのだから、レーシングマシンとしてはネガティブな要素でもある。

この点において、リヤの新しいアンダーパネル製作には相当前後のバランスを意識した。当時のGTなどでも採用された、一見空力の素人目には地味な手法を取り入れて、他競技者からの追及を逃れるような細工をしたり、周囲からの余計な邪念がY氏に降り掛からぬよう、地味でいながらにして効果的な部品製作に相当尽力した。
例えば、フロントアクスルよりも前端の下面に設けた「ポルシェハンプ」などもその一例である。

空力部品上は、かつてのGr.Cマシン・ポルシェ956シリーズで採用された、非常に古典的な技術ではあるのだが、都合の良いことに車輛を下から覗き込まない限り他者の目に触れる事も無く、尚且つ効果を期待できるのだから、競技車両にとってこれほどうってつけの技法は無い。勿論、当時の規則上も問題は無かった。

これらの一つ一つは、考えれば大した事でもないのだが、いざ実行に移すとなれば技術力や知識、時間といった制約が壁となって立ちはだかり、たいていは面倒臭くなるものである。

ル・マン24時間レースへの序章が引っ張り過ぎる感もあるのだが、Y氏のレースに対する取り組みや姿勢が功を奏し、大きく歯車が動き始め、ドライバーの努力がようやく報われる兆しが見え始めたのが実はこの時期なのである。
当初の金ばかり掛かる苦闘の時代から希望の時代への転換期となった、傍で携わったパートナーとしては、とても印象に残る、しかも大きな記憶の1ページである。

<つづく>
#ルマン24時間レース

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