ル・マン24時間レース 回顧録⑥

新型感染症が世界的に深刻な被害をもたらした2020年。
この年、それでもル・マン24時間レースへの挑戦を見届ける必要があった。
その回顧録を自分視点で、記憶が曖昧になる前に残しておこうと思う。
※プライバシー配慮のため、人名等はイニシャル表記にする
※そんなもん、いまどき検索すれば出てくるだろうが・・・
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現在2023年、2020年ル・マン24から4年目を迎えようとしている。文章を一気に書いていると燃え尽き症候群のようになってしまい、前回から随分時間を経てしまったが、記憶をしっかり記録として残せるうちに少しづつでも進展させようと思う。

【序章-6】
トップカテゴリーと呼ばれるレースは、一人のドライバーを数十人規模からコース不在の人数まで含めれば数百人以上の規模でバックアップしいる。それぞれが専門職・各担当を受け持ち、まさにチームである。ドライバー、ドライブアドバイザー、マネジャ、監督、チーフエンジニア、各専門分野のエンジニア、チーフメカニック、メカニック、パーツ管理や修理専門担当、トラッキン(トランスポート隊)、スポッター。現代なら医学療法士やフィジカルトレーナー、その他オーナーやスポンサーなどチーム形態は規模により大きく異なるが、レーシングチームとは大方こんな感じで形成されている。

ところがエントリーカテゴリーレースともなればメカニックは一人何役どころか、1台あたり1名、場合によっては一人で4~5台をまとめて引き受けるうえに、上記の役柄をすべて担うのが普通。だからメカニックという仕事は現場では何でも屋である。

車輛をガレージからコースまでトラックで運搬し、ピットで設営、車輛のメンテナンス、そしていざドライバーが乗車すれば要望を聞き、不具合があれば改修。状況を素早く判断して適切な対応と共にセッティング、データの収集。それがレースウィークならドライバーの時間管理や装備の管理、作戦立案、必ず発生する数多の問題解決(レースで揉めると公式には競技委員長から呼び出しを受けるし、ドライバー同士の「当てた・当てない」の紛争が勃発したら速やかに、かつ、平和的解決に奔走する・・・ので、その応対も含まれる)
走行が終われば片付けて撤収し、また次の走行に備える。なかなかのハードワークである。

しかし違った目線で鑑みれば、それだけドライバーとの結びつきが深いことを意味する。
ドライな付き合いや、人間性不一致によってビジネスライクだったり、金を出している「客なのだから」とマウンティングするドライバーもなかには居るが、たいていのドライバーはひとつの目標に向かって共に歩む担当者とは自然と密接に関わることになる。

そんな関係性を最もうまく築けたのが、この物語の主人公Y氏である。
いや、本当は「最も築けたように」うまくリードしてくれていたのだ。そもそもステータスからいっても本来、いちメカ風情が気安く声を掛け、お付き合いできるような方ではない。それでも忍耐強く(当時、不満はあったろうが)同じ歩調でレースを共に戦うパートナーとして過ごして貰えたことには感謝ばかりだ。

忘れられない夜の話。
あるレースウィークの晩の会食に呼んでいただいた。
今となっては主人が亡くなり惜しくも閉店してしまった鈴鹿市の名門焼肉屋「弥生」で、名物シャトーブリアンをご馳走になろうとしていた時である。

ちょっと話が脱線するが、私は焼肉はウェルダン派。焼肉以外でも生で供されるような食事以外出来るだけ熱を通したほうが大抵好みに合っている。なので、この時もシャトーブリアンをしっかり焼こうとするや否や・・店の主人含め、温厚なY氏までピリピリとし始め、高級部位肉を焼き続け良い音を発する炎の熱気とは裏腹に、大変張り詰めた空気に包まれ冷や汗が出たことを覚えている。

まさに、そんなどうでも良いことでドギマギしている最中だった。
Y氏が何か悪戯っぽい表情になり「2020年は東京オリンピックだけど、私はル・マンを目指そうかな」と仰った。

そこにいたほとんど全員が飲んでいたこともあるから、何となく「ああ、それは良いですね」的に盛り上がったとは思うが、私自身は立場的に1ミリもアルコールが入っていないシラフ状態である。なんなら、シャトーブリアン事件で冷や汗かきながら全神経が硬直し集中しているような状態であったので、聞き漏らすはずがない。ハッキリと聞いた。
この時が2020年度ル・マン24時間レース参戦についてY氏から私が具体的に表明を耳にした初見で、2017年の夜だったと記憶している。
ちなみに、この年のレースでY氏はシリーズチャンピオンを獲得した。

追記。
これを記している1月13日は、Y氏のドライブアドバイザーでありチームメイト、往年のトヨタワークスドライバーであり、日本人初ル・マン24時間レースクラス優勝者であり、俳優であり、後期高齢者且つ現役レーサーM氏の誕生日である。
<つづく>

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