日時
2009年11月11日(水)、6:30PM - 8:30PM
会場
ニューガーディナ・ホテル
講師:河村 好司(かわむら こうし)氏
講師略歴
カリフォルニア州公認会計士(米国CPA)。成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。University of Southern Mississippi, School of Communications卒(修士号)。大学院卒業後、主に広報担当として、ニューヨーク、東京にて就業。1999年より2年間、外務省専門調査員として、ロス・アンジェルス日本総領事館勤務。広報に関するリサーチを行う。33歳にして、キャリア・チェンジを決意。それまで全く縁の無かった税務の道に飛び込む。2008年より、永野・森田米国公認会計士事務所アソシエート・パートナー。専門分野は、米国所得税(個人、C-Corp、並びにパートナーシップ)、租税条約、並びに米国移転価格。
講演内容
*前半・後半とテーマ別にわけて解説 →講演内容の詳細は添付資料PPスライドをご参照ください
■前半■
注意しなければいけない6種類の報告書に関して、何を報告しなければいけないのか、なぜ、アメリカに住む日本人に対してIRSが報告してもらいたいと思っているのか、その根底にある理由を解説。
<6種類の報告書> →各報告書の詳細は添付資料:スライド27~28参照
1) TD F 90-22.1
2) W-2(409A)
3) Form 8621
4) Form 926
5) Form 5471
6) Form 3520
1)TD F 90-22.1 (通称FBAR)に関して
当日配布した資料の新聞記事について説明。 フロリダのマイアミコートで過去数ヶ月IRSとUBSが法廷で争った記事を紹介。
結論として、UBSのクライアントである、フロリダのお金持ちのロバート・モーランさんは、2ヶ月の禁固刑となった。その理由はFBARの報告をしなかったことにあり禁固刑となった例はこれが初めてとのことで業界においては知名度の高い人となった。
このFBARとはどういうものなのか、添付した資料(PPT)を元に解説。 →FBARの定義、解説、詳細については添付資料のスライド2~9参照。
このFBAR とは通称で正式名称は、TDF 90-22.1フォームという。これは確定申告をする際には通常4月15日までに行うが、その申告とは別にアメリカの財務省、デトロイトの住所に出すものであり、たとえば、2008年度の報告は今年の6月30日前にしなければいけなかった。
フォームは5枚綴りになっており、基礎情報が1ページ目、2ページ目は海外にある個人口座の情報、3ページ目はジョイントアカウント、4ページ目には自分が海外に金融講座を所有していないが、第三者からサイン権をもらっている場合。(たとえば会社の経理部長がかわりにサインをするなどの権利)、5ページ目は、法人の納税者の連結ベースの報告となっている。
今回の裁判のポイントは、UBSがあるスイスでは顧客のプライバシーを守る権利があるので、顧客情報を当局に開示することができないという主張と、スイスに口座を持っていたUBSの 大口の顧客の5000人の口座情報を渡すべきとの主張が争点となった。
基本的に、アメリカ市民、もしくは居住者は、毎年資産情報を報告しなければいけない。今年からはスイスの外国口座情報をIRSがいろんな手を使って入手できるようになってきた。
このFBARを納税者に提出させる狙いは国外における脱税、マネーロンダリング、テロリストへの資金援助などの把握であり、FBARの提出先は、IRSではなく米国財務省となっている。(詳細はスライド2を参照)
FBARは確定申告書ではなく、国外口座を米国財務省に報告するためのものであるので、国外に所有する銀行口座等が年度内に一度でも$10,000を超えた場合に報告する義務がある。(報告すべき事例や詳細は、スライド4~9を参照)
IRSは2003~2008年度の間に1年でもFBARが未提出であったものに対して、2009年10月15日まで恩赦プログラムを実施したところ、全米で7500人が報告した。それまでは年間60名程度だったので、USBとIRSの法廷での争いを見て怖くなった人が報告したのではないかと思われる。(詳細はスライド7を参照)
FBAR提出期限の特別延長プログラムが2009年度実施された(詳細はスライド8参照)
“FBARは本当に報告しなければいけないのか?” 意図的に報告義務を怠った場合、最高10万ドル、もしくは国外財産の50%に相当する額のどちらか高いほうがペナルティとして課せられるのでクライアントに対しては期限内に提出することを勧めている。(ペナルティに関しては、スライド9を参照。)
2)W-2:内国歳入法第409A 条に関して
W-2に関しては、駐在員(ビザホルダー、グリーンカード保持者ともに)の場合も、税務上の米国居住者として、米国源泉所得のみならず、全世界所得を報告し納税する。
グリーンカード保持者で、親会社の退職金制度に加入している駐在員は注意が必要で、日本で加入する退職積み立て制度の1年間の額が繰り延べ所得として課税される。(詳細はスライド10~12を参照)
3)Form 8621:Mutual Fund(以下MF)に投資している場合の報告義務に関して
米国外のMFに投資している納税者はForm 8621を連邦確定申告書(Form 1040)に貼付し提出する。 納税方法には、Excess Distributions MethodとQualified Electing Fund Methodの2つの方法がある。 (詳細はスライド13~18参照)
例えば、アメリカのMFに投資した場合は報告しなければいけないが、ケイマン諸島などのMFに投資している場合は報告しないというケースがあるので、海外に投資している人もアメリカのMFに投資している人と同じフィールドで納税してもらいたいとの意図がこのフォームにある。
4)Form 926に関して:外国企業に出資したものの報告義務に関して
海外に設立した法人に国内資産を提出したり、名義を変更することを通じて、米国居住者が租税回避を試みることを阻止するためにインカムタックス上で税金を払っているのか?、その情報源として、このフォームより資産情報の提出を義務付けている。(詳細はスライド19~20参照)
5)Form 5471:外国企業に投資している米国居住者に対する報告義務に関して
外国企業の株式を10%以上所有している米国居住者(個人)、株式会社、パートナーシップが対象となる。 外国企業の株式を米国居住者が50%以上有している場合や、米国居住者による株式所有率が50%を超える外国企業に10%以上投資している場合には特別なルールが適用される。(詳細はスライド21~24参照)
投資家が外国の投資先の会社から配当をもらわないため、税金を払う必要がないので、心配する必要がないと思われるが、例えば50%以上外国企業の株式を保有している場合など、なぜ国内法人にしないのか?、外国法人としたのか?、外国に作る必要があるのか?、などIRSが把握するためこのフォームの提出を義務付けている。
6)Form 3520:非居住者から資産の贈与、遺産の相続を受けた場合の報告義務に関して
日本の親からアメリカでマイホームを買うために、生前譲与を受けるが、それはIRSに報告する義務があるか?Tax情報をつけるか? これはギフトにあたり、インカムではないので、税金を払う必要はないが、年間10万ドルを超える試算を贈与されたり、遺産を相続した場合、当該年度の確定申告書にForm 3520を貼付し、その内容を報告する。しかし納税額には影響しない。(詳細は、スライド25参照)
米国居住者が外国企やパートナーシップから年間、$13,561を超える資産を贈与された場合にも、、当該年度の確定申告書にForm 3520を貼付し、その内容を報告するが、納税額には影響しない。(詳細は、スライド26参照)
■後半■ 税務に関した情報で面白いことがあったのでシェアしたいと思う
1)米国在住の永住権保持者が受け取る、厚生年金の税無常取り扱いについて。
アメリカで日本の厚生年金を受けている場合、連邦確定申告書上、非課税にならないのか?アメリカに税金を払う必要があるのか? IRS発行の余命年数によって非課税額が変る。また、外国人でも租税条約を結んでいる国とそうでない国とでは扱いが変る。(詳細はスライド30~31参照)
2)日本の親から生前贈与をもらった場合の対米国向け申告について
日本からキャッシュを送る場合、米国にある有形資産ではないので、アメリカに対する贈与性申告の必要はない。
日本の親が米国預金口座に銀行送金で送った場合、これも、無形資産となるので報告対象にならない。
日本の親が、米国の友人宅にキャッシュを預け、そのキャッシュを子供に渡した場合、有形資産となる。$12,000以上の場合、贈与申告書を提出する必要がある。(詳細はスライド32参照)
3)日本の親から不動産を相続した場合の税務処理。
日本の親が米国非居住者の場合、米国居住者である子供が日本の不動産を相続しても米国に対してEstate Tax Returnを提出する必要はない。相続時期が2009年12月31日以前と以降では税務上の取り扱いが大きく異なる。(詳細はスライド34参照)
4)帰国寸前の駐在員が米国の自宅を売却するタイミング
日本に帰る以前に支払いを受領していれば、日本帰国後当該譲渡益を申告する必要なし。帰国後エスクローを閉じ、所得を受け取ったら日本で納税する。これはアメリカで税金を払っていないため。数週間の勝負なら、帰るのを遅らせたほうがいい。(詳細はスライド35参照)
5)日本で借家を持っている人が、米国居住者になった場合の借家の報告方法
例えば、グリーンカードが抽選であたった場合、いきなり居住者になるが、その人が、日本に、借家事業を行っており、その借家を売却した場合、米国に対し、いかに譲渡益を計算するのか?日本に限らず他州からカリフォルニアに移住したのちに売却した場合はCAにも税金を払わなければいけない。(詳細はスライド36~37参照)
6)米国居住者が日本円で資産を購入する際の注意点
日本円で購入した場合もドル建てで報告しなければならない。為替損の場合、税務上キャピタルロスとして扱われるが、他のキャピタルゲインと総裁できない。(詳細はスライド38参照)
7)最近日本から来たため、英語がまったくできないという場合。
Taxpayer Assistance Centerにいくと、通訳のサービスを無料で受けることができる。自分で話すのは不安な人はそちらに行くとよい。(詳細はスライド38参照)
*質問などある場合は、tax@nagano-morita.com にご連絡ください。
以上
講義録担当: 太田 美穂子
[編集] PPスライドのコピー
Slide 1:
「米国在住日本人が留意すべきIRSへの報告義務」 Koshi Kawamura Nagano & Morita, CPAs tax@nagano-morita.com
Slide 2:
TDF 90-22.1 (FBAR) TD F 90-22.1(FBAR)を納税者に提出させる狙いは、国外に存在する米国居住者所有の各種口座について情報を回収する事により、脱税、資金洗浄(Money Laundering)、並びにテロリストへの資金援助等の試みに対するモニタリングの強化にある。FBARの提出先は、IRSでは無く、米国財務省(IRSは米国財務省内の一機関)。 FBARは、70年代後半から国外口座を有する米国居住者に対して提出が義務付けられてきた。伝統的に以下の要件を満たす者に、提出が義務付けられてきた。
Slide 3:
TDF 90-22.1 (FBAR) (Who Must File Report) Each United states person, who has a financial interest in or signature authority, or other authority over any financial accounts, including bank, securities, or other types of financial accounts in a foreign country, if the aggregate value of these financial accounts exceeds $10,000 at any time during the calendar year, must report that relationship each calendar year by filing TD F 90-22.1 with the Department of the Treasury on or before June 30, of the succeeding year. (Financial Account) Generally includes any bank, securities, securities derivatives or other financial instruments accounts. Such accounts generally also encompass any accounts in which the assets are held in a commingled fund, and the account owner holds an equity interest in the fund. The term also means any savings, demand, checking, deposit, time deposit, or any other account maintained with a financial institution or other person engaged in the business of a financial institution.
Slide 4:
TDF 90-22.1 (FBAR) 重要項目 FBARは、確定申告書(Tax Return)では無く、国外口座を米国財務省に報告する為の報告書(Informational Return)である。 FBARは、国外に所有する、銀行口座(日本の郵便貯金口座を含む)、証券取引口座等の残高合計が年度内(暦年)に一度でも$10,000を超えた場合に報告する必要が生じる。 国外口座を所有せず、サイン権を与えられているだけでも、FBARの提出義務がある(例:佐藤さんは、田中USA社(米国法人)の経理部長である。佐藤さんは、会社の日本支店の経費支払いの為、同社の日本口座のサイン権を与えられている。佐藤さんにはFBARの提出義務がある。)
Slide 5:
TDF 90-22.1 (FBAR) 重要項目 (Continued) 銀行口座、証券取引口座に加え、国外の投資組合(例:Private Equity Fund、Hedge Fund、等)に投資している場合においても、投資額が$10,000を超えた場合には(または、銀行、証券取引口座との合算額が$10,000を超えた場合には)FBARの報告義務が生じる。→これについては、投資組合への出資比率が50%以下の場合、FBARの報告義務が有るか否か、専門家の間でも意見が分かれていた。 FBARは、報告年度の翌年の6月30日までに米国財務省に提出する(例:2008年度(暦年)FBARは、2009年6月30日が提出期限)。暦年(Calendar Year)の納税者も、会計年度(Fiscal Year)の納税者も皆、6月30日までに提出する。FBARは、個人確定申告書に貼付して提出するものではない。単独で提出する。また、確定申告書は提出時期の延長が可能であるが、FBARについては、提出時期の延長は出来ない。 会社(C-Corp)やパートナーシップの50%超オーナーである者は、会社/パートナーシップが所有する国外口座についてもFBARにて報告する義務がある(例:佐藤さんは、田中USA社の100%オーナーである。田中USA社は、日本に銀行口座を所有している。同口座の残高が年間一度でも$10,000を超えた場合、鈴木さんは会社名義の日本口座につき、FBARにて報告する義務がある。)。
Slide 6:
TDF 90-22.1 (FBAR) 2008年10月、米国財務省は、FBARの書式並びに記入説明書の内容を改正した。 この改正により、以下の点に留意する必要あり。 国外の投資信託(Mutual Fund)に投資している場合でも、残高に関わる要件(>$10,000)を満たした場合には、FBARの提出義務有りと、説明書にて明記された。 国外にて、Debit Card AccountもしくはPre-paid Credit Card Accountを所有する場合にも、残高に関わる要件(>$10,000)を満たした場合には、FBARの提出義務有りと、説明書にて明記された。 50%以下の出資率にて国外投資組合に出資している場合でも、残高の要件(>$10,000)が満たされた場合、FBARの提出が義務付けられた。 国外の債権、株式を所有しているだけならば、FBARの提出義務なし。然しながら、それら資産を、Brokerage Account等の口座を介し所有している場合には、FBARの提出義務有り(例:鈴木さん(米国居住者)は、鈴木株式会社(日本法人)のオーナー社長であり、同社の全株式を有している。鈴木さんにはFBAR提出義務は無い。佐藤さん(米国居住者)は日本のMutual Fundに$10,000超の額を投資している。佐藤さんはFBAR提出の義務がある。)。
Slide 7:
TDF 90-22.1 (FBAR) FBAR未提出者に対する恩赦(Amnesty)プログラム IRSは、2003-2008年度の間に1年でもFBARが未提出であった者に対して、 2009年10月15日迄、恩赦プログラムを実施した。実施要領は以下の通り。 1. FBAR未提出ながらも、過年度の申告、支払い漏れが無い者 未提出年度のFBARに提出遅延の理由を書き添え、当該年度の確定申告書の写しを貼付して提出する。 過年度の納税が既に行われている場合には、FBAR提出遅延によるペナルティーを科さない。 FBARが未提出な上、過年度の申告、支払い漏れもある者 未提出年度のFBARに提出遅延の理由を書き添え、当該年度の確定申告書の写しを貼付して提出する。 2. 過年度における支払い漏れが有る場合、過去6年に遡って、税金(追徴額)、延滞利息、ペナルティーを支払う。更に、過去6年間における海外口座の最高残高の20%に相当する額を追加ペナルティーとして支払う。 最高残高の20%に相当する追加ペナルティーは、一見酷であるが、Amnestyプログラム中に“自首”せずに、後で見つかった場合は、税金(追徴額)、延滞利息、ペナルティーに加え、税金(追徴額)の75%に相当するFraud ペナルティー並びに海外口座の最高残高の50%に相当する追加ペナルティーが科せられる。←これらペナルティーが累積した場合、ペナルティーが海外の隠し財産以上に膨れ上がる事もある。
Slide 8:
TDF 90-22.1 (FBAR) FBAR提出期限の特別延長プログラム 以下に上げる2つのタイプの納税者の中には、 今までFBAR提出義務につき自覚していなかった人も 多い為、2008年度FBAR提出期限を、本来の2009年 6月30日より1年間延長した。 国外口座のサイン権を持つ(しかし所有権は無い)者 国外の投資組合等に50%以下の出資比率で、投資している者。
Slide 9:
TDF 90-22.1 (FBAR) FBARを毎年、期限内に提出する事の意義 2004年10月22日以降に提出期限を迎えるFBARの提出を怠った場合、例えそれが意図的なものでなくとも、最高$10,000のペナルティーが科せられる旨、法に明文化されている。また、報告義務を意図的に怠った場合、$100,000もしくは国外財産の50%に相当する額のどちらか高い方がペナルティーとして科せられる可能性がある。 (重要)FBARを提出期限を過ぎて提出した場合に、ペナルティーが科せられるか否か、法に明文化されていない。従って、提出を怠った場合に科せられる$10,000のペナルティーが、この場合に適用されるか、判断できない。しかしながら、提出期限を過ぎてもFBARが未提出の場合、ペナルティーの不安がいつもつきまとう。これら、不安要素に苛まれない為にも、毎年FBARを期限内に提出することが重要。
Slide 10:
内国歳入法第409A条 日本人駐在員が駐在中にグリーンカードを取得した場合の注意点(内国歳入法第409A条に伴う、海外退職金積み立て額の報告・納税義務)-W-2の報告義務 一般的に言って、米国に通年駐在する駐在員の場合、駐在中のステータスがビザの場合(例:L, H, Eビザ等)でもグリーンカードの場合でも、納税方法や課税対象となる所得の種類に何ら変わりがない。両者とも、税務上の米国居住者として、米国源泉所得のみならず、全世界所得(World-wide income)を報告し、納税する。 然しながら、親会社(日本企業)の退職金制度に加入している駐在員の場合は、注意が必要。グリーンカードを保有する(または、駐在中に取得した)駐在員の場合、日本で加入する退職積立金制度の1年間の増加(積立)額が繰り延べ給与所得として、課税される場合がある(Slide 11参照)。
Slide 11:
内国歳入法409A条 (例)佐藤さんは、田中USA社(米国法人)に勤務する駐在員である。佐藤さんは、今年、グリーンカードを取得した。佐藤さんは、出向元である、日本の親会社の退職積立制度に加入している為、退職金制度への積立額を、今後毎年報告し、税金を支払わねばならない可能性がある。 退職金制度への積立額は、W-2にて報告される。 退職金制度への積立額に対する課税を回避したい場合、出向元のHR部門と、駐在員との間にて、米国財務省規則1.409A-1(c)(3)(i)に則った契約書を交わしておく必要がある。この場合も、内国歳入法第409A条に精通する専門家に相談する事を勧める。 内国歳入法第409A条は、2009年度(暦年)より、本格的に施行された。米国財務省規則1.409A-1(c)(3)(i)に則った契約書を交わしていない場合、繰り延べ給与への課税に加え、同給与の20%に相当するペナルティーが課せられる。 退職金制度への積立額に対し、毎年税金を支払う事は、給与のネット保証を受けている駐在員にとっては、有利に働く。将来出向元より退職金を頂く際、まだグリーンカードを所持していれば、当然受け取った退職金を米国向け個人確定申告書にて報告する事になるが、過年度に報告・納税した部分については、その際、非課税扱いとなる。
Slide 12:
内国歳入法第409A条 (例)田中USA社(米国法人)の佐藤さんは、米国における長期駐在期間を務め上げ、この春退職された。退職の際、20万ドル相当の退職金を受け取った。退職者に対する優遇税制の為、この退職金に対する日本での課税は微々たるものであった。もし、佐藤さんが過年度において毎年退職金制度への積立額につき米国へ報告、納税していれば、報告した範囲までは、非課税となり、節税効果がある。 上記例に有るように、退職金に対する優遇制度の為、日本では退職金受給の際に、あまり税金が発生しない。この為、日本企業から退職金を頂いたのに、税金の支払先は殆どが米国であるケースが多い。状況さえ許せば、給与がネット保障されている駐在員の場合、毎年退職金制度への積立金につき、報告・納税したほうが有利である。
Slide 13:
Form 8621 – 米国外のMutual Fund(投資信託)に投資している場合の報告義務 米国外のMutual Fund(投資信託)に投資している納税者は、Form 8621を連邦確定申告書(Form 1040)に貼付し、提出する。 Form8621においては、投資先のMutual Fundの基礎情報に加え、Mutual Fundを通じての所得を報告する。 Form 8621にて国外のMutual Fundにつき報告している納税者は、(1)海外に居住する米国市民、永住権保有者で、米国外のMutual Fundに投資している者、(2)米国内に住む米国居住者で、米国外のMutual Fundに投資している者、のどちらかである。 Form 8621においては、米国外のMutual Fundを通して上げた所得に対して、如何なる納税方法を取るか、選択出来る。代表的な納税方法は、以下の2つ。
Slide 14:
Form 8621-米国外のMutual Fund(投資信託)に投資している場合の報告義務1.Excess Distributions Methodこの方法にて所得を報告する場合には、(あ)Mutual Fundより配当を受け取った時点、(い)Mutual Fundの株を売却した時点、にて課税される。つまり、Mutual Fundより配当を受けない限りにおいて、投資家は米国に対し納税義務を負わない。Mutual Fund内にある未配当の運用益を、米国からの課税を受けずに増やす事が可能。しかし、一旦配当を受け取ったり、株を売却した場合には所得に対し、最高35%の連邦所得税が課せられる。Capital Gainに用いられる優遇税率の適用もない。更に税金に加え、延滞利息も支払う(下記例参照)。
Slide 15:
Form 8621 - 米国外のMutual Fund(投資信託)に投資している場合の報告義務(例)田中USA社の駐在員である佐藤さんは、ケイマン諸島のMutual Fundに5年前より投資をしている。当該Mutual FundはQualified Electing Fund Methodに準拠したFundの運用益報告書を佐藤さんに発行しなかったため(注)、佐藤さんは毎年Fundより受け取った配当のみ、連邦個人確定申告書にて報告していた。5年前に1万ドルの投資で始めたFundが6万ドルになったため、佐藤さんは今年Fundを売却し、5万ドルの譲渡益を収めた。この5万ドルは、税務上譲渡益と扱われると思い、15%のCapital Gain税が適用されると予想していた佐藤さんであったが、意外な落とし穴があった。Excess Distribution Methodを用い、上記5万ドルの譲渡益を処理する場合、譲渡益は過去5年間渡って発生したと見られる為(すなわち、5万ドルの譲渡益が全て今年において発生したのではなく、約1万ドルづつ5年間に渡って発生したと見なされる為)、所得税に加え延滞利息が発生する。実質税率は50%を超える可能性あり。(注)Qualified Electing Fund Methodに準拠した運用益報告書は、米国のMutual Fundが発行する1099と同様の会計基準を用い作成される。従って、配賦所得の計算法、計上のタイミングについても国内のMutual Fundの場合と同一となる。
Slide 16:
Form 8621 – 米国外のMutual Fund(投資信託)に投資している場合の報告義務
(計算例) Year 1 Year 2 Year 3 Year 4 Year 5 Total
10,000 10,000 10,000 10,000 10,000 50,000
Tax 35% 3,500 3,500 3,500 3,500 3,500 17,500
Interest 6% 919 669 433 210 - 2,230
Total 4,419 4,169 3,933 3,710 3,500 19,730
Slide 17:
Form 8621 – 米国外のMutual Fund(投資信託)に投資している場合の報告義務 2. Qualified Electing Fund Method この方法においては、投資家はMutual Fundより受け取るQualified Electing Fund Methodに準拠した支払い報告書に記載された金額を所得と して報告し、納税する。この場合、海外のMutual Fundからの所得であって も、国内のMutual Fundからの所得と同様の取り扱いがされる。従って、 Capital Gain Distributionや、Fundを売った場合の譲渡益に対しては、 Capital Gain用の優遇税率が適用される。
Slide 18:
Form 8621 – 米国外のMutual Fund(投資信託)に投資している場合の報告義務 Excess Distribution Methodにおいては、Mutual Fundからの配賦所得の計上時期を遅らせることが出来ると言う長所がある一方、一旦所得を受け取った場合に、非常に高い税率にて課税を受ける。これには、海外Mutual Fundを通じて海外投資を行っている米国居住者に対して、早い時期に所得を報告、納税してもらおうと言う、IRSの狙いが反映されている。 米国居住者が、海外のMutual Fundに投資する場合、当該Mutual Fundが米国基準にて運用益報告書を作成しているのならば、Qualified Electing Fund Methodを用いた方が、節税できる。言い換えれば、米国基準の運用益報告書を作成しているMutual Fundに投資するのが賢明。
Slide 19:
Form 926 –外国企業に出資(現金の出資、現物出資両者を含む)した者の報告義務 現金やその他資産を出資し、外国企業を新たに設立した者や、既存の外国企業に追加出資をした者は、Form 926を確定申告書に貼付し提出する。 Form 926上においては、出資先の外国企業の基礎情報に加え、出資額(現金の場合)、その他資産についての詳細なる情報が報告される。資産について詳しい情報の提出が求められるのは、海外に設立した法人に国内資産を供出したり、名義を変更する事を通じて、米国居住者が租税回避を試みる事を阻止する為。
Slide 20:
Form 926 –外国企業に出資(現金の出資、現物出資両者を含む)した者の報告義務 (例)米国居住者(個人)が、株式譲渡を通じて得たCapital Gainに対しては、最高35%の連邦税が課せられるが、外国法人が株を売って得たCapital Gainに対しては連邦税・州税とも課せられない。従って、米国居住者が、自らが所有する米国株式を外国企業に譲渡し、売却すれば、税金がかからない。IRSは、この様なスキーム利用による課税所得の海外流失を防ぐ為、外国法人への現物出資は原則的に課税対象の取引と性格づけている。従って、上の例において、株式を外国法人に譲渡した時点で、米国居住者は、当該株式の含み益を認識し、税金を支払う。Form 926上にて、外国法人への出資(特に現物出資)を細かく報告させる事で、含み益を抱える米国資産が、課税されぬまま国外に流出するのを防いでいる。 外国法人への出資につき、Form 926を用いて報告しなかった場合には、出資額(もしくは現物出資された資産の市場価格)の最大10%がペナルティーとして科せられる。
Slide 21:
Form 5471 – 外国企業に投資している米国居住者に対する報告義務 通常、外国企業の株式を10%以上所有している米国居住者(個人)、株式会社、パートナーシップが対象。 Form 5471においては、投資先である外国企業の基礎情報や財務諸表の内容等が報告される。こうした情報は、納税者の税額に直接影響を与えるものではない。 外国企業の株式を米国居住者が50%以上有している場合や、米国居住者による株式所有率が50%を超える外国企業に10%以上投資している場合には、特別なルールが適用される(以下の例を参照)。
Slide 22:
Form 5471 – 外国企業に投資している米国居住者に対する報告義務 1. 佐藤さん(米国居住者)は、ケイマン諸島に株式会社を設立し、株式会社名義の証券取引口座を開設した。この口座を通じての株の売買で、佐藤さんは年間500,000ドルの譲渡益を得た。上記の様なケースの場合、通常、株式会社が佐藤さんに配当を出さない限り、佐藤さんは米国にて課税されないが、特別ルールの適用により、配当の支払いの有無に関わらず、佐藤さんはケイマン会社の譲渡益につき、譲渡益発生年度に課税される。 2. 田中USA社は、米国にて仕入れた衣料品を日本の小売業者向けに輸出する輸出業者である。この度同社は、ケイマン諸島にペーパー会社を設立し、日本に輸出する商品を契約上一旦このペーパー会社に売り、ペーパー会社が代わって日本の小売業者に再販するスキームを採用した。ケイマン諸島に居を置くこのペーパー会社の売上のすべては日本向けである。田中USA社は、通常、ペーパー会社から配当を受け取らない限り、ペーパー会社の利益につき、米国にて課税されないが、特別ルールの適用により、配当の支払いの有無に関わらず、ペーパー会社の利益につき、利益発生年度に課税される。 3. 田中USA社は、衣料品の製造メーカーである100%子会社をメキシコに所有している。田中USA社は、業績好調のメキシコ子会社から、今年新たに500,000ドルの新規借り入れをした。特別ルールの適用により、子会社からの借り入れは、同社からの配当として扱われる。
Slide 23:
Form 5471 – 外国企業に投資している米国居住者に対する報告義務 上記例1、2に共通するのは、海外ロケーション(ケイマン諸島)に子会社を設置する経済的理由が見当たらない事。例1の場合、ケイマンにて投資をしたければ、佐藤さん自身が個人口座を開設すれば足りる話である。特別ルールの適用により、譲渡益を非課税のまま国外に留めることは出来なくなり、子会社を設置する“旨み”は消滅する。例2の場合、米国-日本間の取引を、わざわざケイマン諸島会社を介して行う目的については、租税回避以外に見当たらない。海外に設立した再販子会社の売上先の殆どが設立以外の国である場合、IRSは特別ルールを適用し、当該子会社の利益につき、米国親会社への配当とみなし、利益発生年度に課税する。 例3の、借り入れについては、借入人が100%親会社である事を考慮し、実質的な配当であると取り扱っている。 IRSは、Form 5471を(1)海外利益の報告・納税時期の繰上げ、(2)租税回避行為の阻止の目的に用いている。外国企業の株式を巡る取引(米国居住者による外国企業の株式の取得、譲渡、贈与等)についても、Form 5471上にて報告される。
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Form 5471 – 外国企業に投資している米国居住者に対する報告義務 Form5471の提出が義務付けられている納税者は、同フォームを確定申告書に貼付し、申告書の提出期限までにIRSに提出する。もし、期限に間に合わない場合には、$10,000のペナルティーが科せられる。 外国のパートナーシップに投資している米国居住者は、Form 8865にて、(1)パートナーシップの収支の報告、(2)パートナーシップへの出資についての報告、(3)パートナーシップ株の取得、譲渡に関する報告、等を行う。Form 8865を提出させる事によって、IRSは、外国パートナーシップであっても、国内パートナーシップと同様の情報を毎年回収する事が出来る。
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Form 3520-非居住者から資産の贈与、遺産の相続を受けた場合の報告義務 米国居住者が非居住者(個人)より年間$100,000を超える資産を贈与されたり、遺産を相続した場合、Form 3520を用いて、贈与、相続の内容につきIRSに報告する。連邦レベルにおいては、資産の贈与、遺産の相続を受けた者に対する課税制度は無い(カリフォルニア州も同様に、資産の贈与、遺産の相続を受けた者に対する課税制度は無い)為、Form 3520にて贈与、遺産の事実が報告されても、納税額には影響しない。(例)田中USA社の米国駐在員である佐藤さんは、米国にてマイホームの取得の為、2009年度に日本の父親より2,500万円の生前贈与を受けた。佐藤さんはこの生前贈与につき、Form 3520にて報告する。
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Form 3520-非居住者から資産の贈与、遺産の相続を受けた場合の報告義務 米国居住者が外国企業、パートナーシップより年間$13,561を超える資産を贈与された場合には、Form 3520にて贈与の内容につき報告する。贈与の受贈者に対する課税制度は、連邦、カリフォルニアとも存在しない為、Form 3520にて報告された贈与の事実は、納税額には影響しない。(例)田中USA社の米国駐在員である佐藤さんの息子さん(父と共に米国に在住)が、ノーベル賞を受賞した。佐藤さんの出向元である田中Japan社は、息子さんの栄誉を称え、息子さんに日本往復航空券(ファースト・クラス)を贈呈した。航空券の価値が$13,561超の場合、息子さんはForm 3520にて、贈与につき報告する。Form 3520による贈与、相続の報告が期限までにされない場合、1ヶ月につき贈与、相続の5%に相当する額がペナルティーとして科せられる(但し、正当な理由がある限りにおいてはその限りでない)。
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報告書の比較 TD F 90-22.1 • 既に国外に存在する金融資産のOutstanding Balanceを報告する事が目的。 • 納税額に影響しない。 W-2 (409A) • 出向元企業にて加入している退職金積立金の年間増加額につき、毎年報告、納税する。 • 報告年度の納税額は増加するが、退職金を受け取る年度の納税負担は軽減される。 Form 8621 • 国外に所有するMutual Fund 口座の運用益を報告する。 • 基本的に、Mutual Fundからキャッシュを受け取った際のみ課税されるシステムと、米国Mutual Fundの運用益と同条件にて課税されるシステムのどちらかを選べる。米国Mutual Fundの運用益と同条件にて課税されるシステムを選んだ方が、節税可能。
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報告書の比較 Form 926 外国会社を設立(初期投資)したり、追加投資を行った場合に報告する。 含み益のある米国資産が国外流出する際に、課税出来るよう“見張り”の役目をする。 Form 5471 外国会社に出資している者が、報告する。 外国会社の運営を通じての(対米)租税回避の試みを防ぐ。 Form 3520 非居住者から贈与、相続を受けた者が報告する。 海外から金品の受領が、何故課税所得に当たらないか確認する。
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海外資産・取引に関わる報告書を提出させる狙い 1. 米国資産を納税者が国外に持ち出す際、適切な納税義務が果たされているか確認する 2. 租税回避の目的にて、米国居住者が国外に法人等を設立していないか確認する(左様な試みが確認された場合には、みなし配当等の概念を用い、国外利益を税務上米国に還流させる処置を取る) 3. 米国居住者が所有する、海外金融資産の状況を把握し、海外資産から生じる運用益等が適切に申告されているか確認する
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米国在住の永住権保有者が受け取る、厚生年金(Japanese Social Security)の税務上取り扱い 日本から受け取る厚生年金は、基本的に全額課税所得扱いとなる。 厚生年金受給額が一部非課税扱いになるのは、以下のような場合。 (例)田中USA社の佐藤さんは、田中Japan社に30年勤めた後、田中USA社に駐在員として出向となった。駐在員として米国に駐在した10年間の間、佐藤さんは毎年日本における給与をForm 1040上にて報告した。日本給与からは毎月社会保険料(老齢年金用)が控除された。佐藤さんは、控除された社会保険料も日本給与としてForm1040上報告した。 田中USA社を退職後、佐藤さんは米国にて引退し、日本から厚生年金を受 給し始めたと想定する。毎月の受給額のうち、非課税になるのは以下の範 囲まで。 (注)余命年数は、IRS発行の資料にて確認出来る。
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米国在住の永住権保有者が受け取る、厚生年金(Japanese Social Security)の税務上取り扱い もし、佐藤さんの毎月の受給額が$2,000、余命年数が20年、米国に対して 所得として報告した社会保険料支払額が$36,000 ($300 x 12ヶ月x10年)と 想定した場合、非課税額は下記のとおりになる。 米国永住者であるフランス市民が、米国にて受け取る、French Social Security は、米仏租税条約により、米国にて非課税となる。米国居住者が 受け取るカナダ、ドイツSocial Security は、租税条約により、米国にて、米 国Social Security と同一の扱いを受ける。従って、カナダ、ドイツSocial Security は、米国内にて受給額の15%-100%が非課税となる。
Slide 32 日本の親(米国非居住者)から生前贈与を貰った場合の対米国向け申告 日本の親から米国居住者である子供が生前贈与を受けた時、贈与された資産が米国にある有形資産で、その価値が$12,000以上の場合、日本の親が米国に対し、贈与申告書を提出する必要がある。 シナリオ1:日本の親が、米国に居る子供に対して、日本より送金する場合 ⇒ 日本に存在する資産(=キャッシュ)を贈与する為、米国に対しては贈与税申告書の提出義務無し。 シナリオ2 :日本の親が、自分名義の米国預金口座を有していると想定する。親が、米国銀行に注文を出し、子供名義の米国口座に銀行間送金した場合 ⇒ この場合は、米国にある有形資産(=キャッシュ)を贈与したと見なされる為、米国に対し贈与税申告書の提出義務あり。 シナリオ3 :日本の親が、米国の友人宅にキャッシュを預けてあったと想定する。このキャッシュを、子供に贈与した場合 ⇒ この場合は、米国にある有形資産を贈与したと見なされる為、米国に対し贈与税申告書を提出する必要あり。(注)上記いずれのシナリオの場合でも、贈与額が$12,000以下の場合ならば、贈与税申告書の提出の必要なし。
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日本の親から日本の不動産を相続した場合の、税務上処理 日本の親が米国非居住者の場合、米国居住者である子供が日本の不動産を相続しても、米国に対してEstate Tax Returnを提出する必要は無い。 日本の不動産を相続した場合、相続時期が2009年12月31日以前と以降では、以下の様に税務上の取り扱いが大きく異なる。
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日本の親から日本の不動産を相続した場合の、税務上処理 2009年12月31日以前に相続した場合のシナリオ 田中USA社の佐藤さんは、2009年12月に日本の父親が他界したため、 父親の住居を相続した。この場合、米国税務上、父親が他界された時 点での住居の市場価格にて、佐藤さんは物件を引継ぐ。父親が他界さ れた時点で、物件に幾ら含み益があろうがなかろうが、関係ない。 2009年12月31日以降に相続した場合のシナリオ 田中USA社の佐藤さんは、2010年1月に日本の父親が他界したため、 父親の住居を相続した。この場合、住居が父の生存中にいくら値上が りしていたとしても、6万ドルまでの上乗せしか許されない。従って、 佐藤さんは物件を、父親の取得価格から最高6万ドル上乗せした価格に て引き継ぐ。 上記シナリオにて取り上げた法改正は、相続物件を売却した際に発生するキャピタ ルゲインの規模に大きく影響する。2011年以降、2009年12月31日以前まで適用に なっていたルールが復活する可能性もあり、目が離せない。
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帰国寸前の駐在員が米国の自宅を売却するタイミング 売却額等につき、条件さえ合えば、日本に帰国する前に自宅を売却する事 により節税が可能。自宅売却による譲渡益は、内国歳入法第121条により、 最大50万ドルまで非課税となる(Joint-Return提出者の場合)。日本に帰る 以前に支払いを受領していれば、日本帰国後、当該譲渡益を申告する必要 なし。日本帰国後支払いを受領した場合、日本にて申告、納税義務が生じる。
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日本で借家を持っている人が、米国居住者になった場合の借家の報告方法 日本で長らく借家を経営している人が、米国居住者になる場合(例えば、グ リーンカードを途中で取得した場合等)、今まで日本でしか報告していなかっ た借家事業を米国に対しても個人申告書上にて報告する必要が生じる。当 然のことながら、日本の申告書上にて、納税者は借家の減価償却をしてき たはずであるが、米国に対しては減価償却した経緯は無い。この様な状況 下において、借家を売った場合、米国に対し、如何に譲渡益を計算するの か?
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日本で借家を持っている人が、米国居住者になった場合の借家の報告方法 (例)日本在住の佐藤さんは、2008年にグリーンカードの抽選に当たり、グリーンカードを取得した(従って、同年度より、米国に対し所得税確定申告書を提出する必要が生じた)。佐藤さんは、15年前より日本にて貸家を営んでおり、2008年中にその貸家を売却した。売却の詳細と、日本の確定申告書にての報告内容は以下の通り。 50万ドルにて以前購入した借家を、同額(=50万ドル)にて売却したが、過年度に25 万ドルの減価償却を取った為、その分が譲渡益として認識されている。 IRSは、上記ケースのような場合、過去に米国向けに減価償却を計上した経緯がなく とも、「減価償却を計上したと見なして」譲渡益を計算するよう指導している(注)。 従って、佐藤さんは、日本に対しても、米国に対しても25万ドル相当の譲渡益を報告 する。 (注)Gutwirth v. Commissioner, 40 T.C. 666 (1963); Abraham v. Commissioner, 9 T.C. 222 (1947)
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米国居住者が日本円で資産を購入する際の注意点 米国税法では、米国居住者が所有する外国通貨を“物”と見なす為、以下のようなユニークな処 理が必要となる。 (例)田中USA社の駐在員である佐藤さん(米国在住)は、日本にて2000万円相当の別荘用コ ンドミニアムを購入するため、1月1日に25万ドルを日本の自分名義の銀行口座に送金した。 数ヶ月に及ぶ物件探しの末、7月1日に2500万円にて希望の物件を購入した。詳細は以下の通 り。 上記のケースの場合、IRSは、佐藤さんが1月1日が所有していた250,000ドル相当の日本円を、 7月1日に先ず米ドルに換金し、米ドルにて、コンドミニアムを購入した旨処理するよう指導して いる。 この為、佐藤さんは、7月1日付で、13,158ドル(263,158 – 250,000) の為替益を計上する。こ の為替益の税務上の性格は、キャピタル・ゲイン(内向歳入法第988(e))。もし、為替益ではなく、 為替損があった場合には、税務上キャピタル・ロスとして扱われるが、このキャピタル・ロスは、 他のキャピタル・ゲイン(例:株、Mutual Fundの譲渡益等)、と相殺出来ないので要注意。
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IRSのMulti-lingual Serviceについて IRSに電話連絡をする場合、英語以外で使用可能な言語は、スペイン語のみ。もし、電話における会話に不安が有る場合は、友人や家族を通訳として用いるか、CPA等に委任状(Power of Attorney)を渡して、代弁してもらうかする。 但し、納税者自身が、Taxpayer Assistance Centerに赴く場合は、通訳のサービスを無料にて受ける事が可能。