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新聞・雑誌の見出し“解読”で見えてくる国際人としての教養―これだけは知っておきたい映画

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新聞・雑誌の見出し“解読”で見... 新聞・雑誌の見出し“解読”で見...
日時
2010年3月10日(水)、6:30PM - 8:30PM

会場
ニューガーディナ・ホテル
講師:佐藤成文氏
講演録担当:内藤喬夫

講師略歴

東京・深川生まれだが、父親が国家公務員で転勤を繰り返したため、東京(飯田橋、阿佐ヶ谷、中野)のほか、山口、山形、横浜、札幌などを転々とし、高校卒業までに6つの学校を経験。大学を出てジャーナリストとなってからも“転々癖”は変わらずで、勤務地は東京(4回)、サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ニコシア(キプロス)、ロンドン、ワシントン(2回)、ニューヨークを経験。1993年4月にロサンゼスに転勤となって以来、2000年の“定年現地除隊”を経て、現在まで17年間当地に住み、すっかり「アンジェリーノとなった。ジャーナリストとして「世界の首都ロサンゼルス」で余生を過ごす至福の毎日。

講演内容

講演では最初に、ヨハン・シュトラウス二世のオペレッタ「こうもり」の一場面が映し出された。大晦日の宴会の場面での出演者たちの美しい歌声や演技に引き込まれてしまった。しかし「なぜここでオペラ」と思っていると、写真入りの新聞記事(英週刊誌「ザ・エコノミスト」から)の画像が出てきた。まったく佐藤氏の意図がつかめない。その見出しは「The du und du waltz」で、ドイツのライバル政治家が二人の写真が載っている。この段階でもやはり分からない。「The du und du waltz」は、この「こうもり」の場面で歌われた歌のフレーズである。実は「du」とは親密な仲間になったときの親しみを込めた「あなた」という意味であり、普通は「Sie」という改まった言い方をする。つまりこの見出しから、その記事は、以前は犬猿の仲であった政治家が和解したという内容を推察させるもので、これこそ見出しの醍醐味である。イギリスの硬派週刊誌としてナンバー1(ということは世界一と言える)との評価が定着している「ザ・エコノミスト」のナンバー1たる所以だろう。

 次に紹介のあったのも「ザ・エコノミスト」の表紙である。見出しは 「The Book of Jobs」 であり、アップルの画期的な新製品と自賛する「iPad」(アイパッド)を手にしたStev Jobsが映っている。後ろに背光のようなものが描かれている。見出しの意味は、Steve Jobsと、聖書の「ヨブ記」(The Book of Job)とをかけたものだが、さらに新たな読書のツール(Book)としての「アイパッド」にも目配りした見出しで、その着眼点が素晴らしい。キリスト教の知識がないと、この種の「隠された意味合い」が理解できない。圧倒的にキリスト教徒が多いイギリスやアメリカの読者にすれば、簡単に読み解くことができる見出しだろう。
  
 キリスト教と言えば、記事の見出しには聖書などのフレーズをもじったものが多いと言う。次に映し出されたのは、このアップルの新製品を取り上げたアメリカのニュース週刊誌「ニューズウィーク」のコラムだ。その見出しは「In IPad We Trust」というもので、次の記事は「In Geithrer We Trust?」いう見出しの英経済紙「ファイナンシャル・タイムズ」の寄稿論文だ。もともと「In God We Trust」 (神様を信じている)(米ドル紙幣の裏側に印刷もされている)から来ている。「(アップル社はIPad を信じている」「Geithrer(財務長官)を信頼する」になる。

 「The Road to Damascus」とは、クリスチャンなら誰でも知っているフレーズである。ユダヤ教徒サウロとして元々キリスト教徒を迫害する人間であったが、弾圧に加わるためにダマスカスに向かう道で、キリストの精霊に遇い、180度転向してキリストを受け入れるに至った。そして今度はパウロとしてキリスト教の布教の旅にでる。シリアからトルコ、ローマへと向かい殉教する。パウロはキリスト教を世界宗教にした第一の功績者である。その「The road to Damascus」をもじり、「Damascus on the Road to Mideast peace」(シリア政府=ダマスカス、中東和平への道に乗り出す)とか、ダマスカスへの外国人旅行者が増えているという記事の「The Road Back to Damascus」のような見出しで、どのような記事かが分かるという。

 近頃「トヨタ叩き」を皮肉った見出しもある。たとえば「Toyota’s Tylenol Moment」。Tylenolとは、アメリカで有名な頭痛薬である。「トヨタは今頭が痛い」という意味であるのはすぐ分かる。次いで映し出された「ニューヨーク・タイムズ」紙掲載の二つの政治漫画はパンチが強い。「The Toyota guys are here」というタイトルが付いた漫画がある。ワシントンのアメリカ議事堂が描かれ、証言のために向かう同社関係者が運転する何台かのトヨタ乗用車がどれもブレーキの故障などで空中に投げ出されたり、ひん曲がったり、タイヤが外れたりのポンコツになっている。議会にたどり着けないほど故障がひどいトヨタ車だというわけだ。次の画面での漫画は、左側にトヨタ車が描かれ、真ん中は白衣を着用した技術者が何事か問いかけている。そして右側にはロボットが立っている。このロボットはクルマの安全性を確かめる衝突実験に使われるロボットである。ロボットが「Hell No」と言っている。いつも衝突実験で痛い目に遭っているロボットでさえ、トヨタ車には「ノー、地獄になど落ちたくないよ」と“乗車拒否”しているのである。さらに別の記事では、左にスーパーボールの花形選手の写真に「For Offence」との見出しが書かれている。右にはトヨタ自動車の豊田章男社長が苦渋している写真とT」he Defence」のキャプション。説明不要であろう。トヨタが守りを余儀なくされているという意味になる。「ロサンゼルス・タイムス」の寄稿コラムの見出しは「Toyota Hysteria」 とあり、トヨタ問題でそんなにヒステリックになるのを戒めている。

 最近の見出しの最高傑作は、トヨタ自動車が抱えるさまざま問題を包括的に取り上げた「ニューヨーク・タイムズ」紙経済面トップの記事に付けられた「The A-Student Flunks: What a Feeling」だろう。「成績がAの生徒(優等生)であるトヨタが失敗した。いい気味だ」というような意味になるのだろうか。見出しにはトヨタ自動車の名前はないが、「The A-Student」がトヨタであるというのが分かるのは、アメリカでは「What a Feeling」という歌詞の音楽が伴ったトヨタのテレビ・コマーシャルでよく流れているからである。もともとの意味は「いい気持ち!」というようなものが、この場合は「いい気味だな」といった感じになる。これには付け足しの副見出しがある。「It's not personal,Toyota. But,there's a certain, how do the Germans put」というもので、「トヨタさんよ、私の個人的な見解ではないけれど、ドイツ人が使う表現があったと思いますが」という意味になる。そして、その表現とは「Schadenfreude」だ。「Schaden」と「Freude」。

 アメリカでは近くロナルド・レーガン第40代大統領の生誕100年を迎えるが、連邦議会では、50�紙幣の肖像画に、現在のユリシス・S・グラント第18代大統領に代えて、同大統領のイメージを起用しようという動きが出ている。「ロサンゼルス・タイムズ」紙は3月6日付の社説で「Don’t bill the Gipper」という見出しで反対論を展開した。「bill」はお札だが、問題 は「Gipper」である。アメリカでは「Gipper」はロナルド・レーガンの渾名であることは良く知られており、見出しは「お札にレーガン大統領のイメージを使うのに反対」という意味だ。プロジェクターでは、現在の50�紙幣の写真や、この見出しの社説が映し出されて、その後「Gipper」の由来となったレーガン出演の「ヌート・ロクニー−オール・アメリカン」という伝記映画の一場面が紹介された。アメリカン・フットボールの名門ノートル大学の人気選手だったジョージ・ギップこと「Gipper」(レーガン)が臨終の病床で、名コーチのロクニーに「俺のために勝ってくれ」と言いながら言いながら亡くなる場面で、この言葉に奮起して同大学チームが伝統的に強豪となるという有名なエピソードである。この場面に続いて、レーガン大統領が1988年の大統領選挙を控えた共和党全国大会で、自分の後任にジョージ・W・ブッシュ副大統領(当時)が選ばれることを願って、「俺のために勝ってくれ」というキャッチフレーズを口にし、会場の大歓声で迎えられるという演説のさわりの部分が流された。

 次の見出しは良く聞き取れなかったが、ようするにマイケル・ダグラス主演で、ウォールストリートを舞台にした映画「Wall Street」の主人公Gordon Gekkoが凄腕の証券会社経営者。劇中の「Greed is Good」(強欲は良いことだ)だという言葉が出てくる一場面が紹介されたが、これが、行き過ぎたウォール街商法を象徴する“合言葉”となり、そのバリエーションが見出しとして新聞にしばしば登場するという趣旨の話だった。”Gordon Gekko”や"Greed is Good”、をうまくはめる見出しだ。色々な例を佐藤氏は挙げられたが、メモをみて解明できたのは、「Is that Gordon Gekko at the Gap?」ぐらいである。Gapは衣料品を売るチェーン店で、「GapにはGordon Gekkoのようなやり手がいるのでは」といったような意味か。それより、「バラエティ」 という総合雑誌の最新号の表紙に、金塊の囲まれたマイケル・ダグラスを起用、見出しが「Still About Greed and Money」とある。恐らく「マイケル・ダグラスが実生活でも映画でもカネに貪欲だと」という意味であろうか。マイケル・ダグラスはオリバー・ストーンが引き続き監督する続編「Wall Street、Money Never Sleeps」でも主役のGordon Gekkoを演じており、今年9月末に公開の予定という。

 これに関して、「ニューヨーク・タイムズ」紙が、続編に取り組むオリバー・ストーン監督を取り上げた記事が画面で紹介された。添付の写真の同監督の撮影場所は、その建物の表面からニューヨーク連銀と分かる。佐藤氏はニューヨーク支局に勤務していた時期に、金融統計の発表を取材のため同連銀をしばしば訪れていたという。アメリカには連邦準備制度(通称Th Fed)の下に12の連邦準備銀行があり、ニューヨーク連銀はその中でも中心的な存在である。ウォール街を抱えるニューヨーク連銀が金融政策面において重要なのは言うまでもないが、興味のあるのは、世界中の約60カ国の政府・中央銀行や国際機関が保有する金塊(約5000�)が同連銀の地下24�にある金庫に貯蔵されていることだ。世界各国政府間でも金塊の売買をしているが、そうと言っても、実際に金塊を船や飛行機で移動させるのではない。ただニューヨーク連銀の地下金庫に保管してあるものを、金庫内の別の場所に移動させるだけである。つまり、それぞれの国ごとに並べられた金塊が売買によって場所を移動させるという。連銀は定期的にツーリストに門戸を開放しており、事前に手続きをすれば金庫の中を覗くことができるらしい。金塊が保存されているので、連銀の建物は要塞のようであるという。見出しのトピックスから少し外れたが、興味のある話であった。

 次にメーンタイトルの部分が放映された「Moscow on the Hudson」という映画は、この映画の題名を拝借して「ハドソン川沿い東京」とは、「日本映画祭がニューヨークで開催される」というのが記事の内容だ。もっと色々な映画が“原典”の見出しについて説明されたが、映画をあまり見ていない記録者にとって、メモできないのが多くあった。ハリウッド映画といえば「カサブランカ」「風と共に去りぬ」「オズの魔法使い」「素晴らしき哉人生」などの映画を挙げられ、佐藤氏は相当な映画通であると思った。

 2時間の予定の講演時間が残り少なくなり、結論を簡単に述べられた。見出しには聖書やシェクスピアなどの文学作品からの有名な言葉の引用があるので、見出しを編み出す人、それを読む人も、豊かな教養に裏付けされていればが、見出しだけで十分楽しめる。

 質疑応答の際には、マスメディアの中立性について述べられた。社説は新聞社の考えを表すものであり、ある色合いはあるが、ニュースを伝える紙面ではしっかりした新聞社は偏向を排除するよう最大限の努力をしているという。しかし、質問者の「同じ事実を書くにしても、大きく取り扱うか小さく取り扱うかによって、新聞社の意向が働くのでは」という質問に、「ある程度ありうる」と答えておられた。その答えの中に佐藤氏のメディアマンとしての中立を貫こうとした姿勢が覗えた。
以上
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