出前一丁
Jun
10
Road tripの途中、従姉妹のところに寄ることになった。
少し回り道になるが、せっかく近くまで行くのだから、と、夫が提案してくれた。
2日前、彼女に連絡してみた。
以前もらったLINEにメッセージを送ったが(2つもアカウントがあった)届いていないようだったので、textしてみた。クリスマスカードに「新しいiPhoneの電話番号です」と書かれていたのを思い出したのだ。
間もなく返事が来たので早速電話に切り替えた(textを打つのが面倒で)。
Yちゃんと話すのは何年ぶりだろう。
Yちゃん、と呼んでいるが、彼女は73歳。わたしの兄貴と1つ違いだ。
相川らずのYちゃん節だった。
彼女はいつもAオバ(Yちゃんのお母さん=わたしの叔母)とわたしの母の思い出話をする。
Jオバ(わたしの母)には本当にお世話になって、そのことを忘れたことがない、前にJオバに会った時、母ちゃんにそっくりで本当に驚いた、云々。
Aオバはとても豪快な人だった。幼い頃、わたしはAオバのことを怖れていた。声が大きいし、小さな子にも容赦なくはっきりと物事を言う人だった。不思議の国のアリスの「赤の女王」のイメージ。
わたしと弟がまだ幼い頃、1週間くらいAオバのところで過ごした。
その時、父は入院していて、母はその付き添いで病院に寝泊まりしていた。
Aオバは一人暮らしだった(Yちゃんはもう結婚し既に米国で暮らしていた)。
Aオバは尾崎紀世彦が大好きだった。TVで彼が歌っているのを見ながら、「キヨヒコは素晴らしい!」と言っていた。キヨヒコと尾崎紀世彦がわたしの中で繋がったのは、後になってからだ。Aオバは彼の歌唱力をかなり評価していた。ジュリィ(沢田研二)のことも気に入っていた。とてもハイカラなおばさんだった。
窓の枠に桜島の灰が積もっているのが室内から見てとれた。Aオバは掃除しても追いつかない、というようなことを言って怒っていたが(少なくとも、そう見えた)、わたしと弟はそれがとても珍しくてじっと見入ってしまった。島では見られない光景、火山灰との暮らし。
Aオバと一緒に銭湯(温泉銭湯)に行った。
銭湯に行くのはとても楽しかった。はしゃぎながら歩いたことをよく覚えている。Aオバの家にもお風呂はあった。でもAオバは銭湯に連れて行ってくれた。3回くらいは連れてってもらったような気がする。わたしたちを喜ばせるために連れて行ってくれたのだと思う。
Aオバは母と姉妹なだけあって、顔が少し似ていた。でも、母とは違うパワーの持ち主だった。わたしたちはビビりながらAオバのところにいた。それでも弟はかなり小さかったので、屈託なく、色んなことを「おねだり」した。
弟のおねだりのひとつに、「出前一丁が食べたい」というのがあった。
CMで見て、その歌を歌いながら、弟はAオバにおねだりしたのだ。
その頃、島には民放が入ってなくて(つまりNHKのみという時代)、TVのCMを見るのはとても興味深く楽しいものだった。その中でも、♪出前、一丁〜〜〜♪という哀愁を帯びたあのメロディと歌声、わたしたちはそれを真似てよく歌った。そして、弟がついに「おねだり」したのだ。
Aオバは、あんなものが食べたいのねーと、笑いながら言い、それを買ってきてくれた。
ほら、出前一丁、作るよ!
Aオバさんが台所でラーメンを作っているのを、ワクワクしながら待った。とうとう、あの、出前一丁が食べられるのね!そう思った。
しかし。
食卓に出されたそのインスタントラーメンは、汁気が殆どなく、CMで見たあの美味しそうなものとは全くの別物だった。
一口食べて、え、、、、と思う。
しょっぱい、、、、、
見ると弟も苦戦しているようだった。
Aオバさんは、さぁ食べなさい、と言った。
わたしたちは黙々とそれを口に入れた。でも、なかなか飲み込めない。
Aオバさんは、これ食べたいっち言ったでしょう、食べなさい、と言った。
わかってるよ、でも、食べられないんだよ、、、、泣きそうになった。
弟は、麺を持ち上げては戻し、を繰り返している。そしてわたしをちらりと見たので、「食べなさい」という視線で答えた。そういうわたしも、なかなか箸が進まなかった。
結局、わたしたちは食べきれなかった。
Aオバさんは一体何食分を作ったのだろう。鍋にもかなりの量が残っていた。
その後、どうなったのか、覚えていない(!)
覚えているのは、なんとかして食べようと努力したこと、Aオバに怒られたこと、最後に弟が泣いたこと、それくらいか。
Aオバは亡くなるまでの数年間を病院で過ごした。
わたしは何度かお見舞いに行った。
身体は小さくなって、腰は曲がったまま硬くなっていた。
それでもAオバさんの眼光は鋭く、時々、ギクッとするようなことを言った。それらは、普通の人達にとってははばかって言いにくいような事柄だ。すごいな、Aオバさんはいつまでも変わらないな、、、!と、おそれおののき、感心した。
Yちゃんと話していて、Aオバの気配を少し感じた。
「mちゃん、わたしらはもう日本人じゃないの、アメリカ人なのよー」
Yちゃんの中の「覚悟」のような強さは、Aオバから引き継いだものなのだと思う。
わたしは母から何を受け取ったのだろう。
Yちゃんと会うのが本当に楽しみだ。
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