ユーミン
Sep
28
姉たちとドライブに出かけた。娘も一緒だった。
北九州方面の山々に見える。姉2が運転している。
突然、警報が鳴り響く。
ヘルメットと作業服姿の男性が棒を振り回しながら停車するよう指示している。よく見るとそれは自衛隊隊員のようであった。
「もう時間がない、かなり近くまで迫っている!洪水です!」
わたしたちは隊員の指示に従い、車から出て、道路の端の山肌に背中をくっつけるようにして並んで立った。
どうする?どうなる?
まさかこんなことが起こるなんて、と、信じられない気持ちだった。
轟々という音が遠くから近づいてきて、あっという間に水がものすごい勢いで流れていった。
道路は今のところ辛うじて無事だ。でもいつまで、、、
呆然としていると、姉1が、
じゃぁ、姉ちゃんが先に行くね、と言って、前に進み出た。
え?姉ちゃん、どこに行くって言うの、、、
思う間もなく、姉は大きな水の流れに身をまかせ、飲み込まれていった。
姉ちゃん!!!
水の中に消える前に、姉は一瞬、あれ?というような表情をした。その顔が、「違ってた」と言っていたような気がして、だめだよ、この流れに入っちゃだめなんだ、と強く思う。
すると今度は姉3が、「じゃぁ行くね」と言う。
前に進み出て振り返り、「あとでね」と言って水の中に入っていった。姉は、たいしたことじゃないという感じで笑っていたが、流れに飲み込まれるとき、微かに驚いたような顔をした。
なんで、、、なんで、、、、
あまりの衝撃で、姉たちがいなくなってしまって、悲しいのに涙も出ない。いや、悲しいのかどうかもわからない。
姉2とわたしと娘は、これからどうすべきかわからなくなって、そのまま震えながら立っていた。
そんななか、わたしが口火を切る。
水、の、中に入ったほうが良いのか?な?ね?
姉2はすかさず、「そんなわけないでしょう!」と悲痛な声を絞り出す。
娘は何も言わない。
あの流れに入ったら、あとで合流できるってことなのかも。
でも、死んじゃわない?
姉さんたち、どうなったの?
どこかへ向かう自衛隊隊員を呼び止め、水の中に飛び込むべきかどうか、姉2が訊いた。
隊員は、なんて馬鹿なことを!という顔をして口早に言った。
「車で下山してください!道路のなるべく端の方を選んで!」
わたしたち3人は車に乗り込み、下方へ向かった。
道路は濡れに濡れていて、崖崩れがあったのか、所々に大小の岩がたくさん落ちていた。
道に見えないようなところもあった。
姉2は車を斜めにしながら、山を降りていった。
娘は後ろで静かに泣いていた。目を閉じていなさい、と伝えたが、時々、窓から外の眺めを見ては震えていた。
どれくらい経ったろう。
わたしたちはとうとう麓の町にたどり着いた。
自衛隊が災害用テントを設営していて、仮の避難所がいくつかあった。
誘導された避難所で、お茶をもらった。
助かった、、、と思いながら、姉たちのことが気になって、心がざわざわ落ち着かない。
姉2も娘も何も言わない。
わたしたちはただ黙って、お茶を飲んでいた。
と、どこかから
「やっと来た」
という声が聞こえた。
顔を上げると、姉1と姉3が笑いながらやって来た。
ふたりとも水色のツナギを着ている。
「はは、支給された。似合っとるだろー」
驚いて、声も出なかった。
やっとの思いで、
「死、死、、、、’死んじゃったかと思ったじゃないかーーーーー」
そう言って大泣きした。
姉3が、
「あとでね、っち言ったがな。ユーミン、ユーミン。」
と言って、二カーッと笑った。
姉1は、穏やかな声で、mちゃん、心配かけてごめんね、と言った。
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