幼い頃 斜め前の家に引っ越してきた家族 僕と同い年の子がいて まだ女の子だからという意識などなく 毎日のように遊んでいた 今では名前も顔も想い出さないけど あの時の雰囲気と 僕の和やかな気持ちは忘れない 何年経っても想い出すのだから どれほど僕にとって幸せだったのだろうか 彼女の家には大きな庭があって 柵に絡みついた赤い薔薇が咲き お部屋にはピアノとテーブル 特に何もない僕の家とはまったく違って 洋風な感じがとても新鮮だった 僕は彼女の笑顔がとても好きだった どんな表情なのかも忘れているが その雰囲気の輪郭だけを覚えている 手を口にあててクスッと笑う感じ 笑わせたくて 薔薇のトゲを顔につけたり 地面に絵を描いたり 動物のモノマネをした やがて来る辛いお別れ どこかのドラマで見たような展開 覚えているのはトラックが 走ってどんどん小さくなって行く場面 初めてシュンとなった僕だった なぜか彼女にさよならを言ったはずなのに そこだけは想い出さない 幼い僕にとって きっと忘れたい出来事だったのだろう 大好きだった彼女の面影を忘れても あの時に流れた幸せな時間の輪郭 まだ僕の中にある幸せな想い出