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詩は元気です ☆ 齋藤純二

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どうしても宮沢賢治の童話が読めない

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僕は宮沢賢治の作品が気になっている。高校二年生の自分が宮沢賢治を批評なんてしたら、どれだけ文学オヤジ達に叩かれるかと思うと、スカイツリーから飛び降りる気持ちで語るに等しい。ちょい、大袈裟。。。だけど行っちゃうんだよな、いやいや言っちゃうんだよな、性格だから仕方ない。喉に詰まっているものは、吐き出すか飲み込まないと気が済まないから。

えっ、何が気になっているかだって? 気にならないでほとんどの読者が読めるんだと思うんだけど、僕はどうしても気になるんだよ。それは、文の語尾。偉そうに言ってしまうと宮沢賢治の詩に関して、そこはとてもダブりのない完璧でリズムのある語尾になっているんだけど。童話については徹底してそこをあえて拘っている感が否めないんだよね。だから僕は宮沢賢治の童話を読むと、語尾しか目に入ってこないから困ってしまう。ほとんど「〜た。」の語尾。小学生の作文のようだ。まあ、童話だからそうなんだよ、って頭にコツンとやられてしまいそうだけど。

こんな感じ。「〜た。」← をつけた。





『どんぐりと山猫』


 おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。←

   かねた一郎さま 九月十九日
   あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。
   あした、めんどなさいばんしますから、おいで
   んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
                   山ねこ 拝

 こんなのです。字はまるでへたで、墨もがさがさして指につくくらいでした。←けれども一郎はうれしくてうれしくてたまりませんでした。←はがきをそっと学校のかばんにしまって、うちじゅうとんだりはねたりしました。←
 ね床にもぐってからも、山猫のにやあとした顔や、そのめんどうだという裁判のけしきなどを考えて、おそくまでねむりませんでした。←
 けれども、一郎が眼をさましたときは、もうすっかり明るくなっていました。←おもてにでてみると、まわりの山は、みんなたったいまできたばかりのようにうるうるもりあがって、まっ青なそらのしたにならんでいました。← 一郎はいそいでごはんをたべて、ひとり谷川に沿ったこみちを、かみの方へのぼって行きました。←
 すきとおった風がざあっと吹くと、栗の木はばらばらと実をおとしました。← 一郎は栗の木をみあげて、
「栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかったかい。」とききました。← 栗の木はちょっとしずかになって、
「やまねこなら、けさはやく、馬車でひがしの方へ飛んで行きましたよ。」
と答えました。←
「東ならぼくのいく方だねえ、おかしいな、とにかくもっといってみよう。栗の木ありがとう。」
 栗の木はだまってまた実をばらばらとおとしました。←
 一郎がすこし行きますと、そこはもう笛ふきの滝でした。←笛ふきの滝というのは、まっ白な岩の崖のなかほどに、小さな穴があいていて、そこから水が笛のように鳴って飛び出し、すぐ滝になって、ごうごう谷におちているのをいうのでした。←
 一郎は滝に向いて叫びました。←
「おいおい、笛ふき、やまねこがここを通らなかったかい。」
滝がぴーぴー答えました。←
「やまねこは、さっき、馬車で西の方へ飛んで行きましたよ。」
「おかしいな、西ならぼくのうちの方だ。けれども、まあも少し行ってみよう。ふえふき、ありがとう。」
 滝はまたもとのように笛を吹きつづけました。←
 一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どってこどってこどってこと、変な楽隊をやっていました。←




ねえ、「〜た。」ばっかりでしょ。というか、「〜た。」しかない。これは、宮沢賢治が意図して徹底している表現方法なのだろう。だけど、僕みたいに宮沢賢治の書いた文章の語尾にしか興味が持てなくなってしまうと、作品自体が読めなくなってしまう。たまに「〜です。」みたいに、「た」で終わらない文字を見るとなんだかか嬉しくなってしまうのは、僕がおかしいのかなあ。このまま宮沢賢治の童話は一生、読むことができなくなってしまうのだろうか。

〜した。〜だった。〜した。〜た。
た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。
た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。た。


はあ、どうしても語尾しか読めない。これは狙いだったのだろうか。そんな訳はない。僕がおかしいのだ。まあ、いいや。そのうちこの厄介も消えると信じて。さて、宮沢賢治の詩を読むとするか。

#小説 #詩

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遠隔家族の幸せ

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窓の向こうは真っ暗
遠くに幾つかの星が輝いて

僕はカプセル型をした飛行船の中にいる
ベルトでカラダを固定し
両手にはパソコンのマウスを握って
この操作の向こう側にある世界で生活している

モニターの中には家族
昔の人間のようにカラダを使い生活する
お父さん
お母さん
兄さん
妹がいる

みんな 飛行船に乗って宇宙のどこかにいて
それぞれの頭脳が彷徨っているけど
コミュケーションはバーチャルリアリティな文化のもと
家族は繋がっていから孤独を感じたことはない

昔はカラダ全体を使って生活したらしいけど
身体のほとんどは退化し
脳と指だけが進化を遂げた。
僕のカラダに胴体や足があるのはどうやら昔のなごりらしい

モニターの中
父さんはいつも自分の部屋でゲーム
お母さんも兄さんも妹もゲームをしている
僕はゲームが嫌いなので本ばかり読んでいて
最近は小説を書いたりしている
想像することが好きなんだ

朝昼晩に三回 リビングに家族があつまり談話の時間
みんなゲームの話ばかり
だから僕は自分の書いた小説を大声で読み出す
すると面白いから
その続きを聞かせてくれないか
みんながそう言ってくれる
こんな時に僕は家族がいて良かった
そんなふうに思うんだ

ちなみに僕が今 書いているのは
『遠隔家族の幸せ』って言う小説
退屈になるかもしれないけど読んでみるよ



僕は家族のカラダに触れたこともないし、実際に見たこともない。モニター越しの存在を知っているだけだ。物心がついた頃から宇宙を彷徨っているから、僕以外の人間に触れたことがない。お父さんが家族の談話で言っていたんだけど、我々がどこで生まれてどうして家族なのか分からないらしいんだ。分かっていることは、遠隔で繋がっている家族だ、ということだけ。
僕らの過去は、昨日も一昨日も先週も先月も去年もずっとずっとその昔も変わらず遠隔家族以前の記憶などない。分かりやすくいうと、ある日突然にあたりの前のように遠隔家族をしているって感じだ。モニターの中で僕ら、大昔に人間が歩いたり走ったりしていた頃のような原始的な生活をバーチャルリアリティとして体験をしている。ちなみに宇宙船にいる僕のカラダがどうなっているか、教えてあげるよ。まあ、人間が二足歩行を始めた頃のような胴体と四肢をもち、頭はあるけど動くのは目と左右の指だけ。それと額から三センチほどのケーブルが繋がっていて、生きるための栄養や電気信号がそこから注入されているらしい。
僕以外の家族は、胴体が短く足はなく手と頭だという話は聞いている。僕だけ大昔の人間の名残りで足が付いている。まあ、動かないけど。自分のカラダの状態を把握しているのは、モニターに鏡機能が付いているから容姿が見られるから。でも、その画像をパソコンで公開することにセキュリティがかけられているから、家族のカラダに関しては画像で見たことがない。なんのためのセキュリティだか分からないけど、僕らの生命は誰かに管理されているのだろう。だから、家族のほんとうの姿は分からない。僕に与えられている世界は、実体験で宇宙船から見える星々と遠隔家族で全てということだ。

では、僕の家族を紹介するよ。まず、さっき登場済みのお父さんとお母さんと姉と僕の四人家族。お父さんは今はゲーム中毒と言っていいだろう。モニターの中では、自分の部屋に閉じこもり、談話の時間以外はずっとゲームをしている。最近では、宇宙船レースとかいうのにハマっているらしい。そんなお父さんだけど僕は尊敬しているし、精神が強いことを知っている。あの襲撃があった時にそれが分かった。お母さんは、心配性で平和主義者。誰かが強い口調で怒り出したら、「どうしましょう、どうしましょう」といって、落ち着かないのである。そんなお母さんもやはりゲームにハマっていて、今はコンタクラマとかいう星に花を育てて、癒しの世界をつくっているみたいだ。姉は、恋バナゲームにハマっていて、家族の談話では「私の彼は、イケメンで優しいのよ」とか話し出す。僕的には、もううんざりな話に頷くのもいい加減で、「あんた、聞いてる!」とかいわれ、もうどうでもいいよ姉ちゃん、って感じ。でも、僕の小説を一番に楽しんでくれているので、たまに恋愛モノの小説を書いて読んでもらったり。まあ、仲はいい方だと思うよ。
なんか、どこにでもある遠隔家族なのだろう。実際のほかの家族についての情報は与えられず、家族一般論とかいうデーターが与えられているだけ。それだけが僕らの家族としての概念となる参考資料だ。その話は長くなりそうで、つまらないので次回の小説にでも書こうと思っている。
ああ、さっきもすこし触れたけど、僕らの家族がぞっとするような襲撃を受けるという体験をした。それをこれから話してみるよ。

あれはいつものように談話をしていた時だった。リビングでテーブルを囲みお父さんがゲームのオンライン宇宙船レースの話をしていた。高得点で世界ランキング一位になった自慢話で、みんなで「おめでとう」なんていってお祝いの言葉などを掛けていた。
そんないつもと変わらない平和を意識することなく過ぎて行く時間に突然、あの一発の銃声。初めて聞くガラスの割れる音に慄く。お母さんと姉は「キャー」と叫びテーブルの下に身を潜め、お父さんは四つん這いになり窓に近づき外の様子を伺っていた。僕は椅子から転がり落ちた。いったい、誰がこんなことをしているんだ。今まで銃弾が飛び交うことなどなかった。モニターの生活は平和そのものだったから、度肝を抜かれた。僕は窓の外に人間を見た。このモニター内で見る家族以外の初めての人間だ。

家の周りには芝が植えられて、その先は森が広がりとても視覚的に癒される設定になっている。家の外には出たことは誰もない。バーチャルな世界とはいえ、ゲームの世界より非常に狭いところで生活している。
そんなことよりその人間について話そう。僕もなんとかお父さんの背中に隠れ、外の様子をみようとした。男が迷彩服を纏い、ライフルを構え持ち、いつでも打ち込める態勢でリビングにいる僕らに照準を合わせている。しかもその男は髭を生やし黒のゴーグルをしていて、表情はまったく分からない。
初めての家族以外の人間は、僕にとって特殊な感情を芽生えさせた。得体の知れない人間からから感じる不安な感情は、いったいこれは…。
そうだ、これは恐怖だ。前に読んだフロイトとかいう人物の本、不安やら恐怖のことが書いてあるのを思い出していた。自分の感情を見つめてみると、すこし冷静さを取り戻してきたのか。「不気味なもの」からの対象の喪失が不安を源泉として恐怖があるとか書いてあったのを思い出した。すると、喪失するのは僕らだという恐怖となり、あの人間に撃たれてしまえばモニター内の家族関係を絶つということによる恐怖だ。それだ。

どうすればいいんだ。男は銃を構えたままリビングに近づいて来る。お父さん、お父さん、って音源の壊れた音楽のように僕は繰り返していた。いつもゲームばかりしている呑気な父親だけど今、目の間にいるお父さんの顔は違っていた。恐れの向こう側を見ているような目をして、視線の真っ直ぐさと強さを感じる表情に僕は一瞬、時間が止まっていた。お父さんは、お母さんと姉さんがガタガタと震えて寄り添っている姿を振り返り一見すると、窓の男を覗きながら語り出した。

「みんなよく聞けよ。あの男は、遠隔家族の人間を捕獲するハッカーのハンターだ。
遠隔家族に一度必ず襲う人間狩りという現実。この日が来てしまったか。奴を倒せば、我々の平和な生活は取り戻せる。しかし、それが出来れなければ我々は永遠に家族という構成員での生活は消滅してしまう。だが、大丈夫だ。俺がどうにかする。この時のために作戦は練っていたからきっと上手くいく。お前たちは知らないだろうが、我々には拳銃が一丁与えられていたんだ。しかも、玉は一発しかない。俺が外に出て男を引きつけて打つ。どんな状況になっても信じろ、俺を信じろ」
そう言うとお父さんは、自分の部屋に戻り銃口の短めな拳銃を片手にやって来た。
「お父さん、お父さん」僕たちは、それ以上言葉が出なかった。
するとお父さんは、窓を開け外へ飛び出す。

ヴァーン

大きな銃声が呆気なくお父さんに響く。

「お父さん」

僕らの呼びかけは悲鳴に変わった。
もうすべて終わった。僕らの家族は消滅することを覚悟した。男はお父さんに近づいてくる。うつ伏せに倒れているお父さんを蹴飛ばして、カラダを仰向けに転がした。
その時、奇跡が起きた。

ヴァーン

お父さんの腕が空に向かって挙がり、握られていた拳銃から銃弾が放たれた。男は頭部を大きく後ろに仰け反らせながら倒れた。僕は何が起きたのか分からない。
ただ、お父さんは生きていて、男が倒れたということだけだ。

そして、お父さんは「ヨシャー」と雄叫びをあげながらリビングに戻って来た。僕がいったいなにが起きたんだ、とお父さんに興奮して言った。

「ああ、外へ飛び出して撃たれた真似をして倒れただけだ。奴らは人間収集が専門で、必要以上にカラダを傷つけないよう無駄撃ちはしない。まずは撃った後の獲物の様子を見にくると予想したんだよ。まあ、この日がいつか来ると思い、撃たれて倒れる練習は散々していたからなあ。みんな知らないだろう」

その達成感は、苦笑いと微笑みが相まっているような表情に出ていた。
お母さんと姉さんはお父さんに駆け寄り抱きついた。涙を流しながら、心配したと訴えていた。お父さんは「だからどんな状況になっても俺を信じろ、って」と、勝ち誇ったように言っていた。

これで僕たちの遠隔家族の平和な生活は取り戻すことができた。なんか、お父さんばっかりがカッコいい感じだけど、僕は強いお父さんを心から尊敬している。僕もお父さんのように強くならなくちゃ、って。


終わり
いやㅤつづくかも!


なかなか面白かったでしょ
そりゃ 僕のフィクション小説だから
読んだら幸せになるのさ
だってㅤ僕たちの家族は遠くにいても繋がっているから

#小説 #詩

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わたしはナナである。ちゃんと名があるわ!

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わたしの名前はナナ。

「七番目に生まれたから、ナナにしよう」

ご主人のジュンボが安易に付けた名前。お母さんは初めての出産で九匹の子犬を産み、その七番目に生まれたのがわたし。もし、八番目に生まれたらどんな名前に……。渋谷に座っている犬と同じかしら? それとも……、えーと、エイト? ハチべぇ? 考えるだけで、ぞっとするわ。やっぱり、七番目に生まれて良かったみたい。

わたしたち兄弟は、お母さんのおっぱいを飲んですくすく大きくなったわ。元気にお部屋で遊び回るようになると、いろんな人たちが訪れてわたしたちと遊んでくれたの。上手に抱っこしてくれるお姉さん、気持ちよく撫でてくれるおじさん、それに一緒に走りまわる子どもたち。とても楽しく過ごしていたわ。

だけど一匹ずつ兄弟がそのひとたちに連れて行かれ、最後はわたしだけになったちゃた。そんな落ち込んでいる時にすごーく、にぎやかっていうか、うるさいというか、そんな家族がわたしの前に現れたの。ゴジラみたいな子どもがふたり、「かわいいー」とチュッチュッしてくるママさん、そしてとぼけた顔のパパさん。
 
その家族にピピッときたの。その瞬間、「ねえ、ねえ、このわんちゃん連れて帰ろうよ!」と、とぼけた顔のパパさんは言った。そして、この日からわたしはこの家族の一員。そのとぼけた顔のパパさんは、ご主人となったわけ。 

ご主人はママさんからも子どもたちからも「ジュンボ」って呼ばれていたの。わたしより犬みたいな名前でしょ。だけどジュンボがいなかったら、わたしは散歩に行けなかったかもしれない。わたしは体重が三十八キロの大型犬で力が強いから、嫌いなカラスや猫を見つけると勢い良く引っぱってしまい、散歩はママさんや子どもたちでは手に負えないみたい。 
 
わたしをコントロール出来るのは、やはりジュンボしかいない。自転車でわたしをうまくリードして、二キロぐらいは気持ちよく走らせてくれる。雨の日だって、散歩から帰るとタオルケットでわたしの全身を丁寧に拭いてくれる。気持ちよくて、そんな時にわたしはとっても幸せを感じるわ。
 
だけどわたしがジュンボの帰りを待っていて「ただいま、ナナ! ぷっはー」と、酒臭い息を吹きかけられた時は散歩をあきらめろ、ってことらしい。もう、ジュンボたら!

そんなジュンボとの忘れられない想い出があるの。わたしはグルメで鼻が良いから、お家にある美味しいものを我慢出来なくて……

「あれっ、ここにあったカステラは?」
 ママさんがそう言った瞬間、わたしは叱られると思ってジュンボの足もとに隠れたの。
「僕たちは知らないよ!」と、子どもたち。
「えっ、カステラなんてあったの」と、ジュンボ。

すると、「嘘でしょ、あれは青山さんからいただいた老舗のカステラで、三千円もするのよ。信じられない。ナナ! それも箱から開けて、許さないわよ。ジュンボの所に助けを求めてもダメよ!」と、ママさんは真っ赤な顔をして怒ったわ。

「まあ、ナナの届くところに置いとくからだよ。なあ、ナナ」と、ジュンボ。
「ジュンボまでナナの見方になって、もう」

ふっー、ありがとうジュンボ。ごめんなさい、ママさん。

そんな感じで、ジュンボはわたしのことはあまり叱らない。だけど、一度だけものすごい剣幕で怒ったことがあったの。それはある朝の話。ジュンボといつものように散歩から帰ってきたの。ジュンボはわたしの飲むお水を換えて、餌のドライフードを入れてくれたわ。それからジュンボは珍しく自分のお弁当をキッチンで詰めていたの。お弁当からはウインナーの匂いがして、わたしはドライフードよりもそのウインナーが、気になって仕方がなかった。

ジュンボが洗面所へ顔を洗いに行くと、思わずわたしはその匂いに誘われてキッチンに近づき、流し台に足をのせてお弁当を覗き……

もう、どうしてもわたし我慢が出来なくて、そのお弁当のおかずもご飯もぺろりと食べてしまったの。そこにジュンボが……

「おい! そりゃ、ないだろう! ナナ! 小遣いが少ないから時間もないのに弁当を詰めてんだよ! 出て行け! すぐに出て行け! 家から出て行け!」
 
それはすごい剣幕でジュンボは怒って、わたしの首を引っぱり玄関から放り出したの。あんなに怖いジュンボは初めて。しっぽは引っ込むし、わたしはもうこのお家を出て行かなくちゃと思ったわ。

そして、たまたま家の門が開いていたから、悲しい気持ちで出て行ったの。だけどわたしの居場所は家族のいるお家しかないと思っていたから、遠くへ行けなかった。けっきょく、通りを挟んだ斜め向こうのスパーマーケットの入り口でちょこんと座っていたの。
 
しばらくするとジュンボとママさんが家から飛び出してきて「ナナ! ナナ!」って、叫び出したの。いつもだったら「ナナ」って呼ばれたら、しっぽを振って近づいて行くんだけど、その朝はお弁当を食べてしまった反省と、ジュンボが怖かったショックでそこを動けず、ふたりの様子を見ていたの。

ジュンボは自転車に乗って散歩コースを捜しに行ってしまうし、ママさんもキョロキョロしていたけど、スパーマーケットの前にいるわたしには気がつかない。

そして、ジュンボが自転車で戻ってきて心配そうに「いた?」と、訊くと「いない?」と、ママさんが首を振っていたわ。
「でも、遅刻しちゃうよ」
 ジュンボは情けない顔をしていたわ。
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ」
 ママさんは少し呆れた顔。
「そうだよな。ナナが居なくなったら、俺……」
「とりあえず、探しましょ」
 その時、ママの視線がわたしの方へ向いたの。
「あっ、ナナ! そこに居たの!」
 ママは叫んでわたしを指差したわ。
「えっ、どこだよ!」
 ジュンボは興奮して叫んだの。
「ほらそこ! 自動ドアの横よ!」
「ほんとうだ! おーい、ナナ! そこで待ってろよ」

ジュンボはすごい勢いでわたしの方へ走ってきたの。わたしはまた怒られると思ったけど、「ごめんよ、ナナ。俺が悪かったよ。出て行けなんて言って。ナナ、ナナ・・・」と、ジュンボは抱きついて、涙を流してわたしを許してくれたの。

その時、この家族の一員になってほんとうに良かったと心から思ったわ。もう食べ物の誘惑には負けないって決心したの。
 
……数日後。

「あれっ、昨日のどら焼き知らない?」と、ママさん。
「僕たちは知らないよ!」と、子どもたち。
「あっ、ごめん。今回は俺だ」と。

でも、とばけたジュンボはわたしの大好きなご主人よ。 
#小説

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蜜柑太郎

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僕は広辞苑の文字数を越える、一編の詩を綴った。それには十五年という歳月を費やした。右手に鉛筆、左手にはノート持ってうろちょろと、家の周りを歩きながら夢の言葉をしたためていった。それはそれは、とても幸せな時間。呼吸することと詩を綴ることのどちらかしかできないって、言われたら顔を真っ赤にしながら詩を綴り、死んでゆくことを選ぶだろう。それくらい詩を書くことが好きなんだ。

詩のどこが好きかって、それは自由に思ったことを自分の言葉で表現できるところだよ。素敵な言葉を探して、文として色をつけてゆく楽しみがいいね。絵を描くことも好きだけど、言葉という絵の具を使うところも好きかな。とにかく自分の気持ちを詩で表現すると最高なんだ。鳥肌が立つくらいにね。わかってくれるかなあ。

そんな詩の大好きな僕は、蜜柑から生まれた蜜柑太郎っていうんだ。
今、君笑ったでしょう。
しかもバカにした感じで。どうせ僕は桃太郎みたいにメジャーではないから。うんいいの、いいの。目指すところはそこじゃないし、詩を綴っているという充実だけで、僕は幸せななんだから。

そんな僕にある日、とんでもない依頼が迷い込んできたんだ。僕の詩を本にして出版しないか、そういう話だったんだ。しかも友だちのピンク太郎が仕組んだことだったんだけどね。

ああ、そうそう。ちなみにピンク太郎は桃太郎じゃないよ。母親がなぜがピンク色が好きで、女の子が生まれたらピンク子って名前をつけようとしていたらしいよ。だけど男の子が生まれたからピンク男って、名前にしようとしたんだって。なんだかゴロが悪いし、ダサいよね。でも、父親が、おいおいピンク男はないだろ、ってカンカンだったみたいだよ。

その後のことは、よく知らないんだけれど、ピンクに太郎をつけた安易な名前に落ち着いたらしいよ。普段そんなことは思わないけれど、これに関してはピンク太郎が可哀想だなあ、って思うんだよね。頑張れ、ピン太郎。いやいや、ピンク太郎。名前は略しちゃ駄目だよね。

また、ピンク太郎の風貌もなかなかのものなんだ。体は相撲取りみたいに大きくて、おかっぱ頭で黒の短パンを履いているんだ。それだけじゃなくて、腹掛けをしてるんだけど、そこに大きくピンクって書いてあるんだよ。可笑しいでしょ。
さらにまさかりをいつも担いでいるんだから、初めて会ったひとは悲鳴をあげて逃げて行くよ。ちなみにまさかりはプラスチック製なんだけれどもね。

一度、ピンク太郎に聞いたことがあるんだ。なんでそんな格好しているんだ、と。すると俺は「金太郎に憧れているんだ」って、真剣にいうもんだから、笑いを堪えるのに涙が出たくらいだったよ。

まあ、変なやつなんだけど、基本、僕はピンク太郎の破天荒なところは好きだよ。ケンカも強いし、意外と優しいところもあるしね。
ああ、ごめんごめん。話がずいぶんそれてしまった。

それでなんだけど。そのピンク太郎が僕の詩を勝手に持ち出し、父親の知り合いの出版社のひとに読んでもらったらしいよ。許せないよ、ほんとうにピンク太郎のやつ。たまに僕の気持ちを無視して突っ走ってしまうんだよな、まったく。

だけど出版社の担当者が僕の詩を読むのに一ヶ月かかったらしい。なんて素晴らしい詩なんだ。そう言いながら読んでくれたらしいよ。そしてその担当者はうちにも帰れず、さらには奥さんが「あんたは家庭をなんだと思ってるの」なんていわれたんだって。最終的には、妻と子どもはうちを出て行っちゃたらしいよ。

それって僕のせいだなんて、君はいわないよね。どちらかというと、僕の詩を勝手に持ち出したピンク太郎の方が悪いよね。
ああ、ごめんごめん。すごーく話は戻るけど、なんで勝手に詩を持ち出したんだ、とピンク太郎にいいよったんだ。すると僕の詩があまりにもよかったから、「みんなに読んでほしいなあ」って、いい出すからつい許しちゃったんだ。

それで僕の詩集を出すことになったんだけど、その詩はあまりにも長いので、編集者のひとに、「省ける言葉はなくしてゆこう」そういわれたんだ。それからが大変だったんだ。この言葉は、いらないかな。いや、そうではない、この言葉がいらないんだ。そんな感じで、鉛筆を消しゴムに持ち変えて推敲を始めたんだ。

詩を書く楽しみとは違い、なんだか寂しいっていうか、悲しいっていうか、切ないっていうか、複雑な気持ちで作業をしたんだよね。絵でいえば、水でキャンパスの絵の具を水で薄め続けている感じかな。僕の個性がなくなっていくように感じたんだ。

だけど、みんなが喜んで読める詩にしなくては、そんな気持ちが僕を頑張らせたんだと思うよ、きっと。
ああ、この言葉もいらないな。
うーん、ここもいらないな。
そんな感じで、消しゴムでどんどん言葉を消していったんだ。けっきょく、その作業には、三年の歳月がもかかってしまった。

よーし。全ページの作業が終ったぞ。やっとの思いで、出版社にノートの束になった原稿を持っていったんだ。すると「編集者は首を長くして待っていたんだよ」と、いったその姿はキリンになっていたので、僕はつい笑ってしまった。僕のため、首を長くして待ってくれたのに、そこ、笑うところじゃないよね。

でも、我慢できなかったんだ。だって、キリンなんだから。
まあ、いいか。可笑しいかったんだから仕方ない。
そして、起きてしまったんだな。
いや、起こしてしまったんだな。

人生最大の汚点。

編集者の一言、「言葉がひとつもなくなっている」と。

言葉がなくなってる?

そんな、バカな。

そりゃ、いらないと思った言葉は消していったさ。だけど、全部いらないってことはないだろう。僕が大好きでしたためた言葉なんだから、全部いらない言葉なわけがない。きっと、何かの間違いだ。
僕はキリンになった編集者からノートを手渡されると、パラパラとページをめくった。

うそだ、うそだ、うそだーーーーーっ

バタンっ

僕はあまりものショックでその場に倒れてしまった。そして、気がついたら病院のベットに寝ていたんだ。
僕の生きがいだった詩を書くことが、いらない言葉の集まりだったなんて考えると、どうしようもなく虚しくて。頭はあのノートようにまっ白になってしまったんだ。

僕はピンク太郎がお見舞いに来てくれても、手元にあるタオルやらテッシュを投げ飛ばし、帰ってくてと荒れてしまう始末。それでもピンク太郎は、毎日のようにお見舞いに来てくれたんだ。そしてある日、ピンク太郎がいったんだ。「ごめん」と。それも悲しそうに涙を流して。

そんな姿を見てハッと目が覚めたんだ。僕はどれだけ我がままで身勝手なんだろう、と。どんどん恥ずかしい気持ちでいっぱいになったんだ。僕にはピンク太郎という優しい友だちのためにもこんなところで、グダグダしていられないんだ。

そして、病院を退院することが出来たんだけどさ、僕から詩をとってしまったら退屈の文字しか浮かんでこないんだよ。何もなくなってしまったようだ。退屈っていうのは、ずいぶん苦痛なんだと初めて感じた。

じゃあ、何か新しいことを始めようと考えたけど、やりたいことがぜんぜん見つからなかった。あせっていた。このままでは、イライラばかりして僕は僕でなくなってしまう気がして怖くて眠れない夜が続いたんだ。

そんなある日 、ピンク太郎が変な詩を僕のところに持って来たんだ。それが笑っちゃうんだけど、「憧れの金太郎」という詩を書いてきて、僕に読んで聞かせたんだ。
えーと、どんなのだったけな、そうそう。

金金、金金太郎。俺の憧れの金金、金金太郎。イエー。

みたいなふざけた詩で、こころに突き刺さってくるものもなければ、情感的なもがなくて、おいおいって思ったわけ。「ここはさ、どうして憧れているのか表現した方がいいんじゃない、そこは四月でなくて桜とか季節を感じさせるもので表現したら」て、アドバイスをしたんだよ。

そうしているうちに、僕はやっぱり詩が好きなんだなあ、って改めて感じたんだ。これって、もしかしたらピン太郎の術中にハマってしまったのかな。
それから無性に詩が書きたくて書きたくて、手が震えるくらいに鉛筆を持ちたくなったんだ。それで僕の言葉がいらないものばかりだと思うことがあっても、そんなことどうでもいいんだ。そうだ、そうだ、と。

それに白紙になってしまった詩のノートにだって、ちゃんと意味があったんだ。中身の何もない僕のこころが表現できているじゃないか。それを教えてくれたんだ。

だから僕は、これからこころのある言葉で詩を綴っていこう。もう弱音なんて吐かないよ。この決心は本物だし、僕はほんとうに詩の大好きな蜜柑太郎にグレードアップしたんだから。

今のちょっと、臭いセリフなんて思ってない、君。そんなことないよね。僕は、いつだって大真面目なんだから。

ああ、そうそう、最後にいいたいことがあるんだけど・・・・・
いいの、ほんとうに。
じゃあ、いわせてもらうね。


親愛なる友だちへ

ピンク太郎は、ダサくて、変で、突拍子なく、お節介で、言葉少なく無愛想だけど、とても優しい最高の友だちだよ。いつもこんな僕の相手をしてくれて、ほんとうにありがとう!

そして最後まで読んでくれた君へ

ありがとう!

#小説

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