木製の床に油 その存在感のある匂いは 黒く、てかてかしていた おじさんは あたり前のようにタバコを吸い シートはぽこぽこと 焦げえた穴がちらほら 風天の寅さんみたいな 酔っぱらいが叫んで こっちに来るなよ こっちに来るなよ 子どもの私は祈った 扇風機のある車両だと 首振りに合わせて 円を描いては くるくる回っていた がたん、ごとん 揺れては車内に響き すれ違う電車には ガラスが割れそうだった ドアに腕を挟まれても 走り続けて行く電車 知らないおじさんたちが よいしょ、よいしょ 助けてくれた ああ、いつからだろう 電車でどきどきしなくなったのは ああ、いつからだろう 電車でわくわくしなくなったのは