玉(ぎょく)ください
Jan
6
浅草の知らぬ寿司屋に入った
カウンターに座り玉子焼きの握りを頼む
玉(ぎょく・出汁と魚のすり身が入っている)ください
へい、お待ち
かなり厚めの玉子焼きだった
んん、美味しくて安い
また玉子焼きの握りを頼む
へい、お待ち
んん、美味しい
玉ください
へい、お待ち
そして、また玉子焼きを頼もうとした時
板さんがしびれを切らしたのか
こちらに新鮮なネタがありますよ
ネタケースを指さし言った
でも、なんだか高そうだな
俺は玉子焼きの握りを十貫ぐらい食べて
この店を出ようとしていた
なんせ玉子焼きが好きなんだ
まあ、でも板さんの顔をたてて
ひとつ刺身を握ってもらうか
ブリだかハマチだかわからなかったので
これっ、ください
そう言うと板さんが
あいよ、ガァ〜ラスね
じゃあ、そのガァ〜ラス
お客さん、ガラスは握れませんよ
ネタケースのガラスをガァ〜ラス
とか言って、冗談をかましてきた
これがまさにネタケースのネタだ
おっと、完全に舐められている
俺が若造で玉子焼きしか頼まないからだ
いやいや、それでも客だぞ
そんなわけでまた玉子焼きを頼む
すると板さんが
このお客さんに上がり一丁
と、もうひとりの板さんに言う
おいおい、俺は玉子焼きを頼んだのに
そんな隠語を使うなよっ、たくっ
上がりじゃねえよ
玉だよ
お客さん、もうおあいそなしでいいから
出て行ってくれ
きたっ、完全にケンカを売られている
けど、そこに俺はまったくプライドはない
そう、じゃあご馳走さん
明日、また玉を食べにくるから
あれれっ、毎度ありなしかよ
そして次の日、また暖簾をくぐる
玉を握ってくれ
あいよっ
お客さんには負けましたよ
へいっ、お待ち