俺はどうやらバスに乗って 何処かへ行こうとしている 乗客は顔のない連中ばかり でも子どもの頃のように 怖くなったりはしない 得体の知れない怖さも薄まり 自分の存在ほど怖くない 歳を重ねると良いこともある 開き直りの哲学だ 狭いシート 外の景色は暗闇 面白くもなんともない 俺の構成力が乏しいのか それとも揺ら揺らしたいだけなのか 到着したらしい 運転手は目的地を知っていたのか もうバスは動かないらしい 乗車していた連中がぞろぞろと降りだし 俺もとりあえず降りる 上着をシートに忘れ 運転手に忘れ物があることを告げ バスに再び乗ろうとする 乗れない バスに乗れなかった もうバスは暗闇に吸い込まれ 姿も形もない しかし運転手は俺を見ている 顔もないのにどうして 乗車していた連中が連なり 何処かへ行こうとして列をなす 俺も最後尾につき歩き出す 言葉もなく覇気もなく ただだらだらと歩いている この先の逆らえない定めに 自分から進んでいるのか わからないが歩いている それにしてもなんて寒いんだ 肩がとても寒い あの上着があれば こんな思いははしなかったのに 進む先は暗闇の暗闇 何も見えないはずなのに 見えている暗闇がある そこに進んでいる 寒さの向こうにあろう目的地へ