私の気分に合わせているのか 私がそんな気分にされているのか 飛び出そうとすれば抑えられそうな 雲の切れ目も見えない浸透した空 今日も島崎藤村の本を取り出し 開かずに詩をしたため出す 窓からは流れるひと 液晶画面からは郷土ニュース 一瞬にして音のない世界が広がる 感化されやすい詩の世界 雰囲気に色を染めてゆく 灰色の空気に灰色の空 灰色の図書館では 灰色のひとたちが本の音を聴く そろそろ本を開いてみる 初恋 まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたへしは 薄紅の秋の実に 人こひ初めしはじめなり わがこゝろなきためいきの その髪の毛にかゝるとき たのしき恋の盃を 君が情に酌みしかな 林檎畑の樹の下に おのづからなる細道は 誰が踏みそめしかたみぞと 問ひたまふこそこひしけれ 薄紅を聴く 遥かな恋は色づき 灰色はいとも容易く慄いて