月・赤とんぼ/三木露風
Mar
3
雪ふりぬ絶え間もなく、
雪ふりぬいともわびしら。
夜の「時」はかくて近づき
そこはかと木により枝より
悲しげに粉雪に落つる。
凍えたる小鳥の翼を見よ
あふぎ見よ、大木の灰色の欺きを。
いつしか淋しげに月に輝やき
地平より色褪めてうかがひのぼる。
ちからなきためいき……
一物もなき冬の夜に
あはれにも、うかがひ寄る月のこころ。
赤とんぼ
夕焼け、小焼の、
赤とんぼ、
負われて見たのは、
いつの日か。
山の畑の、
桑の實を、
小籠に摘んだは、
まぼろしか。
十五で姐やは、
嫁に行き、
お里のたよりも、
絶えはてた。
夕焼け、小焼の、
赤とんぼ、
とまっているよ、
竿の先。
✳︎實(実・み)