遠く微かに煙突みたいなものが見えている。もうすこしがんばって歩けば街にたどり着くんだ。 乾いた空気、太陽の光を照り返す砂、汗として身体の水分が出てしまい意識は朦朧とするばかりだ。 しかし妙だ。俺はどうしてこんなところを歩いているのだろう。確かさっきまでコンビニストアでアルバイトをしていたというのに、三十分ほどの記憶を消され誰かに連れて来られたというのか。アルバイトをしていた記憶と砂漠を歩いている記憶の時間が、頭の中で被っている。きっとどちらかの記憶が古くて、想起した自分の経験がさっきのことのように錯覚しているんだ。すると俺がアルバイトをしていた現実がずっと前のことなんだろう。ずいぶんと俺は砂漠を歩いているのだから、そう考えると納得できる現状だ。 ああ、喉が乾いた。水をがぶ飲みしたい。 もうダメだめなのか、街まではたどり着けないのか。 足も上がらず膝から崩れ俺の身体は倒れた。 なんだ、この冷たい砂は。熱いはずなのにこれはどうしたんだ。 「おーい、ビール買いたいんだよ。もらって行っちゃうぞ」 遠くで誰かの声が聞こえる。俺は助かったのか。しかし、この砂漠でビールを買いたいって、どういうことなんだ。 「しょうがねえなあ。三百二十八円、ピッタリに置いとくからな」 んっ、なんだ。もしや、俺はバイト中にバックルームの床で寝ている、のか。 やべえ。俺は慌て起き上がりレジの前に走った。しまった、三百二十八円が置いてある。やってしまったよ。まあ、午前三時半だしな、ひとりでのアルバイトだし。 ああ、喉乾いた。ミネラルウォーターでも飲むか。 それにしても早く帰りてえよっ、ひとみちゃーん。 誰だよ、ひとみちゃんって…… そうそう、俺の空想アイドルちゃん。午前三時半だもんな、仕方ねえか。 「いらっしゃいませ〜!」 「おたく、声でかすぎだよ」 「すみません……」