それが何になる 君の小説は世間で多くのひとに読まれ 感動を与え名誉も手に入れたはず とても素晴らしいことなのに そんなことでは救われない と、私に怒って言った 小説が売れて何になると 君が言い切るのだから それ以上に重大なことがあり 困難な現実が押し寄せているのだろう 言葉を掛けることに躊躇した ひとりにさせてくれ ふたりを破ろうとする空間が囁く 君の小説は幻想な世界で神秘的だ 其処には現実から逃れるための 姑息の場所があったのかもしれない そしてひとを誘(いざな)う力が君にはあった しかし別に小説でなくとも良かったのだろう カタチに執着のない美しい姿だ もう君は小説という世界には行かない ひとくち飲んだコーヒーを置き 私が何処へ行くのかと訊くと 妹の見舞い、と言った