次は上山田、上山田 本日、雨のため傘のお忘れ物がたいへん多くなっております お降りの際は手元の傘をお忘れないよう願い致します 次は上山田、上山田 改札を出る 此処へ来る日は必ず雨が降っている それは雨の日にわざわざ此処へ来るからだ 恋人に会うためである ただ彼女はもうこの世のひとではない この場所と雨は未練を緩和する 公園のベンチには雨の吹き込まないほどの屋根がある 銅板が重ねられた屋根には 雨粒の音がひと粒ひと粒しっかりと響いている 膝を寄せ合った想い出 今は雨が好きだった彼女の温もりはない 霞んで見える木々 肩を落としたような心情で共感を得る 潤った土からは想起の匂いがして 面影を追うことに癒されてゆく 心象に彼女を再生してゆく雨 想い出の中だけで時間を過ごし 日々の哀しさを忘却させ 頬が緩んだ顔が水たまりに映る 雨が降れば此処に来る 哀憐に触れようと面影を追いかけてしまう