≡ 3 ≡ 下界の記者会見場に作業員はいた 床に置かれたカメラが一台 眠っている新聞記者がひとり ライトがあたらないところに本社の人間 作業員に質問するレポーターがひとりいた 「この度は百二十色の虹、おめでとうございます。 早速ですが、質問をさせていただきます。 百二十色の虹をつくる秘訣を教えてください」 レポーターが早口で言った 「……えぇ……、班長様の指示通りに、一生懸命に水蒸気を集めました」 緊張している作業員は唇を震わせながら言った 「一生懸命ですか。こちらでは三十年ぶりの百二十色の虹が 素晴らしいと大フィーバーしています。それをどう思いますか?」 「うれしいです。みなさんに喜んでもらえて」 「今後の作業員さんの夢はなんですか?」 「……まだ私は虹をつくり始めて一ヶ月なのでわからないことばかりです。 一生懸命に水蒸気を集めるだけです」 「そうですか。三十年前に百二十色の虹をつくられた 作業員さんのことはご存知ですか?」 「いえ、知りません」 「今の記録を更新することはお考えでしょうか?」 「いえ、私には……。記録のために虹づくりは……」 「では、作業員さんは何のために虹をつくっているのですか?」 「ひとりぼっちじゃないってことでしょうか……」 「もうすこし詳しく教えてください」 「私の作業場には班長様がいて、とても怖いですけど ふたりで作業するのが楽しいってことです」 「はぁー、そうですか。 しかし、噂によるとその班長は口しか動かないのですよね?」 「そうです」 「その班長がいてもいなくても何も変わらないのでは?」 「私も最初はそう思いましたが、そうではないのです」 「どういうことでしょうか?」 「よくわかりませんが、班長様は私のことをよくわかっていて、 班長様がいれば私はひとりぼっちではないということでしょうか」 「班長が心の支えになっている。と、いうことでしょうか。 本日は質問にお答えいただき、ありがとうございました。 今後の作業員さんのご活躍を期待してます」 「いえ、いえ、こちらこそありがとうございました」 記者会見が終わると、本社の人間が作業員に歩み寄ってきた 「んー、何とかこなしたって感じだね。 君のフレッシュさが我が社の宣伝になったようだ。 ただ、班長の話はいらなかったねえ。 今回はお疲れ様だった。もう、君と会うことはない、残念だがね。 君が帰る雲を屋上に用意しているから、それで帰りなさい」 作業員は不思議そうな顔で話を聞いていた そして、雲にのった作業員は下界の様子を見下ろした 高層ビルの明かり 連なる車からクラクション 屋形船の提灯 月の光が海にゆられ いつか見ていた夜に吸い込まれてゆく この下界には想い出がいっぱいあった それをすべて忘れていた 作業員は自分ののっている雲の水蒸気を集め 下界にすこしの雨を降らせた 続く。。。