≡ 6 ≡ 作業員はオーロラの作業員と出会って 思いついたことがあった それは旅に出ること 目的があるわけではないが オーロラの作業員のように旅をしたくなった 作業員は旅の間は虹をつくらないと決め バケツは事務所の金庫 虹のことは考えたくなかった 流線型の雲はないけれど 雲の上を歩いて行こうと思った 作業場の柵を乗り越えて旅は始まった 歩き始めて五時間が過ぎた 薄くなった雲の上を慎重に進む作業員がいた のどが渇き薄い水蒸気を手で集め 水滴を口にした 「うーん、ここの水蒸気はよくないな。 空気が汚れているからだ。水がおいしくない」 きっと下界には煙をたくさん出す大きな工場があるのだろう」 「その通りだよ。俺はオゾン層の修復作業員だ。あんた誰?」 突然、雲のすべり台からタンクを背負った体格の良い青年が降りてきた 「いやっ、びっくりした……。私は虹の作業員です。初めまして」 「初めましてじゃないよ。危ないから、この辺をウロチョロしていたら」 オゾンの作業員は腕を組み、えらそうに言った 「どうしてですか?」 「この上のオゾン層に大きな穴があるんだぜ。 穴はずっと上にあるからこのすべり台を使って そこまで行って修復作業をするんだよ。 まあ、あんたじゃこの作業はむりだろうな。 空気はほとんどなくなるし、なんせ足腰が強くないと務まらない」 修復作業員は自信満々に言った 「へえー、すごいですね修復作業員さんは。 ところで背中のタンクはなんですか?」 「あー、これはオースリーだよ。 オゾンの濃縮されたものが入っていて、これをオゾン層の穴に吹きかけるんだよ。 ちなみにこのタンクは何キロくらいあると思う?」 「んー、五キロくらいですかねー」 「ははぁ、笑っちゃうね。そんな重さじゃ一センチ四方も修復できないよ。 二百キロだよ」 「えっ、二十キロの間違いでは?」 「なかなか信じてもらえないようだな。背負ってみなればわかるよ。 あんたがこれを背負ったらつぶされるだろうな。 俺が背負っている状態でタンクを持ち上げてみな。 一センチでも持ち上げたらこの作業をあんたにゆずってあげるよ」 「いやいや、私には到底オゾン層の修復作業などできそうにないです。 だけど、タンクを持ち上げてることはチャレンジしてみます」 作業員は修復作業員の背に回り、タンクをもちあげようとした 「くぅー、はぁはぁ。一ミリももち上がらない」 「だろう! 俺ってすごいだろ。 この作業がたいへんなのがわかってもらえてうれしいよ」 「かなわないですよ、修復作業員さんには。 だけど、どうしてそんなに危険な作業をしているのですか?」 「ああ、約束したんだよ」 修復作業員は強い口調で言った 「えっ、誰とどんな約束を?」 「それがまったく覚えていないんだよ。 でも俺がここへ来る前に誰かと約束したんだ。 どんな約束かも忘れてしまったけど、 オゾン層の修復をすることっていうのはピンときたんだよ」 「約束……」 「そう、約束だよ。 俺はオゾン層の修復作業員、必死になって作業するだけさ」 作業員は修復作業員の言葉にハッとし、班長の言葉と重なって聞こえた 「えらそうなことを言ったけど、俺はまだなっちゃいない。 すべてのオゾン層を修復するつもりでこれからも作業、進めるよ。 俺には虹をつくる芸術性がないからさ。 まあ、お互い約束を果たすために作業しようぜ」 「ありがとう。私は行き詰まって旅に出たけど、君に会えて元気をもらいました」 「なんだよ、そんな恥ずかしいこと言わないでくれよ。 俺も久しぶりに話ができて楽しかったぜ。 それじゃ、もういっちょのぼってくるから、さよなら」 「ありがとう、さよなら」 作業員は修復作業員が雲のすべり台をのぼる姿を見て頼もしく思い、 そして羨ましかった それから作業員はどんどん東へ向かった