小学一年の時にはもう別格 精密な戦車スーツを着た サラーリーマンをノートに 描いていたのだから みんなが彼の机の周りを囲み すげえ、すげえの大合唱 ただ絵が上手いだけでない 彼の頭の中がいつも愉快で 誰も考えられない場面や状況を 時間があれば描きっ放しなのだから 間違いなく天才だ しかし、彼が学校の先生から 絵を褒められたことはなかった 小学校の六年間で美術展へ 作品が選ばれたことは一度もない 「子どもらしくない絵」 そんな声が大人からは聞こえてきた あれからすでに時は随分と過ぎてしまった 彼はまだ絵を描いているだろうか 才能を認めてくれた大人とは 出会えたのだろうか 絵で世の中を明るくする天才が まだ誰もが知る絵描きに なっていないことが不思議でしかたない 彼の描いた絵より心を揺さぶった 作品に未だ私は出会ったことがない 天才は悲しんではいないはず どうか近い未来に彼がひょっこり 度肝抜く絵をぶら下げて現れ 私たちを楽しませてくれると信じている