帰還困難区域だった処は ひとの時間が止まっていた 海が目の先にある 骨組みを残した鉄骨アパートだろうか 草むらの中で風が抜けている 不思議と流されなかった下駄箱 住民の靴が整えられたまま入っている 壁も屋根も流されてしまっているのに靴はそこにあり その情景は私に何を伝えようとしているのだろう 震災八年目の夏 防潮堤は新しく高くきれいな曲線を描く 防潮林は膝の上あたりまで伸びて その奥に廃墟はあるが誰を守るというのだろう まだ住める土地にはなっていない 哀しみがあったろうに それを語る住民も暮らす環境もない なのに下駄箱には靴が並べられている 時間はまだ止まっている