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詩は元気です ☆ 齋藤純二

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  • 弟に捧げた幸せ

弟に捧げた幸せ

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高校一年生の時に彼と出会った

下校時に学校へ向かってくる生徒がいた
私と向き合うように歩いて来る

彼が私に声を掛ける

文化祭に出たんだって
ギター一本で
僕はあの日、学校をサボったから
君の演奏は聴いてないけど
そうか、ギターをねぇ
今度、聴かせてよ
あれっ、もう帰り?

ああ、今日は半日だから

彼は昼どきに登校して来たのだ
変な奴だと思ったが落ち着いた口調は
大人だなあという印象だった

お互いに仕方ねえなあ
って、顔をして駅へ歩き出した

その流れで彼の家へ行くことになった

家へ入るとおしっこ臭かった
そして、彼の弟が
私の髪の毛を楽しそうに引っ張った

駄目だぞ
彼は弟に大きな声で叱った
どうやら重い障害を持っているようだ

注意している様子を見て
やはり家庭環境が彼を
早く大人にしたのだろうと思った

彼は弟が生まれてから友達を
家に呼んだことは殆んどないと言った
なぜ、私を誘ったのだろう
そのことを訊いたことはなかった

彼の唯一の楽しみはバイオリン
弓に松脂を擦ると弦を弾いた
私にとって非日常の高音が響いた
圧倒された
私は意味なく負けたと思った

近所に住むバイオリン奏者がいて
玄関を叩き
直接に指導してほしいと願ったらしい
そしてレッスンを受け
彼の夢がそこにあると思えた

しかし、彼は高校を卒業すると働きながら
福祉の学校へ進んだ
弟を良い施設へ入所させる為にも
自分がこの道を進もうと決めた

親は先に逝ってしまうのだから
自分が弟の面倒は見るのだと言っていた

そして彼はひとつ嘘をついた
学校を卒業し福祉の仕事に就き弟も施設へ入所
さあ、これから彼自身の人生が始まると思った矢先に
若くして癌に侵され逝ってしまった
親よりも早く

弟の為に人生を捧げ
生きたといっても過言ではないだろう
彼は弟の誕生から愛を知っていた
愛することも知っていた
誰しもが表現できない愛を実現した

最近、私はやっと彼がけして不幸ではなく
幸せだったと思えるようになった
弟の幸せが何より幸せだったのだから
その人生は今も私にあの高音で響き続いている

#詩

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