夜が明ける前の静けさ 新鮮すぎて怖い空気の中 子どもだった私は親に連れられ 上野駅へ向かう 夏休みになると列車に乗り 母の実家 山形に行くのである とくに嬉しい気持ちもなく 上野駅のホームにしゃがみ込み 自由席の列に並ぶ ドアが開けば走って 座席を陣取る それは子どもらの役目だった 向かい合わせの座席 床に新聞紙をひいて そこに兄と横になってひと眠り この先の長い長い旅路 移り変わる景色にも飽きて 駅弁を食べてしまえば 時間が重く退屈だけが遊ぶ 夜が明ける前 今は冬だというのに あの頃のことを想い出している 静けさの中にある 恐縮した心持ちの器には 自分の足音がカツンカツンと 決められた日程だけ 響いていた