月には兎が棲んでいる。果たしてその兎は幸せなのだろうか。
晴れ渡った夜空に浮かぶ月を眺めながら、そんな哲学めいた考えが浮かぶ。
初秋のベランダではコオロギの鳴く声が聞こえ、
気持ちの良い風が頬を撫ぜていく。
誰の人生にも必ず有効期限があって、それをどう使うかはその人次第なのだが、
誰にでも平等に与えられているかのようなそれは、実はかなり不平等だと、
灯(あかり)は思う。
天に召されてしまった兎は、人生の苦楽とは無縁で、心穏やかに餅をついているのだろうか。
それとも、まるで苦行に耐えるかのように、餅をつき続けているのだろうか。
「月に兎がいるなんて、迷信だよ」
ビールを片手に、友樹が笑う。
ムードをぶち壊すようなその声は、けれど確かに、
闇にさらわれそうな灯の心を引き留める力を持っていて。
そうだねと、灯は笑った――。
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