失はれたもの もはや私の書くものには真実はない。 私から時間が離れていつた。 私から女のひとが去つていつた。 一枚の着物も引き剥がされていつた。 つひに私の絶望さへ。 私に信じられるものは、 最後に裸の私自身のみだ。 裸の私が歩いてゆく。 私の背ろを見せて歩いてゆく。 しかし、それさへやがて強烈な太陽のもとに ㅤ見えなくなってしまつた。 吸取紙の中へ消えてゆく文字のやうに。 (竹中 郁〈たけなかいく〉。1904〜1982)
Posted at 2017-02-10 20:59
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Posted at 2017-02-11 03:11
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