春の訪れ
世界で最初に不育症が注目されたのは、
1954年の 「ストレスと習慣流産」
に関する論文です。
近年、やっと日本でも
TLC治療が注目されてきました。
TLC とはTender Loving Care、
テンダーラビングケアの略で、
愛護的ケアと訳されます。
1984年に、
ノルウエーの産婦人科医が
支持的精神療法(psychological support)
のことを別名として、
わかりやすく
TLCと命名したのです。
TLCとは、
患者さんに
信頼感と安心を与えるための技法と態度
のことです。
精神医療の基本ですが、
こころに向き合うやさしさと、
知識と経験が必要な技術です。
「先生に力をもらった気がする」
と、感じてもらえることが
TLC治療なのです。
詳しくは、
「TLC、流産」
で検索して、
5. 愛護的ケア(TLC: Tender loving care)
を、クリックしてください。
私が、日本産婦人科医会の依頼で、
一般産婦人科医に知っていただきたい
トピックスとして、
TLC治療を解説してあります。
当院では、
開院した2008年より、
支持的精神療法(別名、TLC)と、
身体的原因の治療を
併用して治療しています。
当院のTLC治療の概要は、
ホームページの治療方法の中の
「支持的精神療法」に説明してあります。
コロナの世界的大流行は、
今までの生活を一変させました。
当院の変化として、
以前は、全国から患者さんを
受けていましたが、
現在は制限しています。
また、マスク、フェイスシールド、
間仕切り、消毒、換気以外に、
密を避けるため、
来院数を減らしています。
午前は多くて10人まで、
午後は多くて8人までです。
何かと制約の息苦しさを感じますが、
授かる命は、
大きな希望ですから、
コロナ・ストレスと、
みんなで
上手に
付き合っていきましょう。
付き合っていくしかないですからね。
これも与えられた運命でしょうね。
焦らず、慎重に。。。
正常妊娠において、
胚は半分異物(夫由来)ですが、
胚の胎盤になる細胞が
子宮内膜の奥深くへ侵入して
増殖しなければなりません。
そのために
胚の胎盤になる細胞(非自己)と
子宮内膜の免疫細胞等(自己)は
盛んにメッセージ物質を
交換していることがわかっています。
その交流のバランスが壊れると、
胞状奇胎や絨毛癌になったり(頻度は低い)、
胚の発育が止まったりするのです。
子宮内における
母児間の同種免疫は
特殊な免疫環境です。
胚が正常に発育するために、
子宮内の免疫細胞は、
生着を抑える働き以外に、
生着を促進する働きも持っているのです。
ですから、
妊娠の同種免疫 異常とは、
胎児を攻撃するだけではなく、
胎児の生着を助ける働きの低下も
含まれているのです。
2008年5月~2020年4月の12年間
の治療実績がやっと判明しました。
2020年8月時点で集計を開始しましたが、
1年分のカルテのチェックですから、
約4ヵ月かかりました。
(集計結果)
12年間で不育症患者さんが4,697名受診され、
平均年齢は35歳でした。
当院での治療を受けられた方は、1,942名でした。
その平均妊娠継続成功率は、77%でした。
40歳以上の受診された方は、833名であり、
不育症患者さん全体の17.7%でした。
当院治療による(1回の妊娠につき)
平均妊娠継続成功率は、57%でした。
12年間で着床障害(過去に3回以上の胚移植不成功)
の患者さんが、2,354名受診され、
平均年齢は38歳でした。
そのうち5回以上の胚移植不成功の経験があり、
移植前からの当院治療を受けられた1,451名の
1回の治療についての妊娠継続成功率は、
24%でした。
過去の毎年の治療実績については、
下記の #(ハッシュタグ) を
クリックすると、検索できます。
#治療実績
2020年3月頃より
新型コロナウイルスの脅威が
世界中に蔓延しています。
他人との密な距離、接触がダメですから、
こころの孤立が広がりやすいですが、
逆に、夫婦間の関係は
今まで以上に密の状態ではないですか。
夫婦共同でコロナに負けないように
がんばるしかないのですから。
ところで、
赤ちゃんを授かるためには、
ピリピリ、イライラの交感神経系を
できるだけ、
なだめておくことが大切ですよ。
交感神経の過剰な緊張は、
子宮内のらせん動脈を細くし、
子宮内の免疫を攻撃的にしますから。
加齢により卵巣機能が低下して、
妊娠が困難になることは
良く知られていますが、
子宮も加齢により、
胚を育てにくくなるのです。
その原因は、
卵巣からの女性ホルモンの減少により
子宮内膜が薄くなるためだけではなく、
同種免疫の状態においても、
加齢により、
免疫的なバランスが
壊れやすくなるからです。
消化管潰瘍がひどく、
消化管出血もある人が、
当院を受診されました。
抗リン脂質抗体が陽性であり、
他院でアスピリン治療を受けていましたが、
消化管出血がひどく、
妊娠の継続ができなかった人でした。
このような場合、当院では、
従来の抗凝固治療はお勧めしません。
水分をこまめに一日1.5リットル以上
飲んで、
体を冷やさず、
赤ちゃん関係のことはできるだけ
考えないようにするために
いつもの忙しい生活を維持して、
体をよく動かす生活を
指導しています。
場合により、
精神安定剤を頓服で少量
服用するよう
お話ししています。
その医学的根拠として、
最近の多くの研究報告では、
抗リン脂質抗体が強陽性でないならば、
ヘパリン治療は必要なく、
アスピリン単独治療で十分という内容です。
私も同じ見解です。
さらに、
特殊な研究報告ですが、
抗リン脂質抗体のアスピリン治療を
世界で最初に報告したニュージーランド
(Lubbe, WF, et al. : Lancet, 1:1361, 1983)
から、
抗リン脂質抗体が陽性の患者さんに
アスピリン治療しなくても、
十分な生活指導と
妊娠中のこまめな医学的サポート
(支持的精神療法)により、
アスピリン治療患者さんと同程度の
高い治療成績が得られたことが
報告されています。
(Pattison, NS, et al. :
Am J Obstet Gynecol, 183:1008, 2000)
不育症と着床障害の検査のなかで、
抗リン脂質抗体(約9種類)と、
プロテインS、第12凝固因子が、
よく調べられています。
異常値ならば、胚、胎児のまわりに
血栓ができやすく、
妊娠の継続ができにくくなるのです。
どこまで調べる必要があるのか、
治療はどうするのかは、
担当医師の専門知識と治療経験により、
また、患者様の状況と希望により、
実際は、まちまちです。
また、検査値の異常のレベルによって、
治療方法が違ってきます。
一般的には、
抗リン脂質抗体が弱~中程度陽性、
プロテインS、第12凝固因子が弱低値ならば、
まずは、アスピリン単独治療がお勧めです。
不育症と着床障害の治療のなかで、
バイアスピリンとバッファリンが
よく使われています。
同じ少量アスピリンですが、
バイアスピリンはアスピリンが100mg、
バッファリンは81mg含まれています。
両者の違いは、
量だけではなく、
溶ける場所が違います。
バイアスピリンは腸溶錠ですから、
主に腸で溶けますが、
バッファリンは主に胃で溶けますから、
胃に刺激性があります。
両者とも消化管出血、
消化管潰瘍等の副作用があり、
消化管を荒らしやすく、
出血しやすくなります。
ここ数か月間の当院での診療内容の印象です。
以前より多くの方が、
妊娠され妊娠継続に成功されている
ように感じています。
コロナ禍の緊張した環境が
相対的に、
生殖に対するストレスを軽減して
何らかの良い影響を及ぼしている
のかもしれません。
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