工房では、杖をついたおじいが一人で作業していた。 79歳、脳血栓で半身不随になり、リハビリでここまで動けるように回復した。 左目は白内障で見えないようだ。 「見えなくても、体が覚えている」と、おじいは言った。 下條氏の造るサバニは、すばらしい材と、すばらしい仕上げが印象的だった。 現在は、平底の艇を多く作成しており、下門氏は平底の艇だけを作るものだと思っていた。 しかし、事実は違っていた。 「遠くに行く舟は、もっと厚くするんだよ。昔はそういうのも作った。今の人は乗りこなせないから、平底にしているんだ。」また、こうとも教えてくれた。 「昔の舟は、帆柱を立てただけでひっくり返った。だから昔は膝を付いてバランスを取っていた。」ニヌハ2はアウトリガーを外すと、帆柱を立てただけでひっくり返る。 これは、軽量化しすぎたためと解釈していた。 しかしそれは、サバニの由緒正しい姿だったのだ。さらに驚いたことは、舟の先端に2本目の帆柱を立てる用意があったことだ。 それは、まさにニヌハ1に装着され、レギュレーション違反とされた構造だった。 「昔は、付いていたよ」このおじいの中には、膨大な知識がある。 もっと語ってくれ。 コードを繋げてダウンロードできないものか? 完全な継承者はまだ存在しない。 ならば、物で残すしかないのだろうか?おじいに仕事を依頼したいが、材料は切り出して、乾燥するまで1年はかかる。 時間の波に消えようとしている貴重な歴史を、継承する方法を考えよう。 制限時間は、長くない。