プラスチックのサックス Grafton Alto
グラフトン Grafton というメーカーが製造したサックスです。
この珍しいサックスを私は吹いたことがありますが、なかなか面白い音が出ます。
このサックスをCPCC会長がオークションに先日出した時の、写真と説明文をご紹介します。
------------ 以下CPCC会長の文面です ------------
サックス好きの方はよくご存知の、プラスチック(アクリル)製アルトサックスです。
製造したのはイタリア人、Hector Sommaruga(1904-1986)でした。彼はイタリアでフルートの正規教育を受けた後、18歳でパリの楽器工場に就職し、そこでサックスに触れ、魅了されます。
高度なサックス製造技術と、プロとしても通用した演奏能力を身に付けたHectorは1942年、ロンドンのグラフトン通り(Grafton Way)に小さな工場を開きます。この通りの名前が、後の楽器の名前になっています。
時は第2次世界大戦中で、軍隊からの楽器修理の依頼が相次ぎますが、Hector自身は次第に全く新しいサックスの製造に魅かれていきました。
しかし戦時中ゆえ、金属は貴重で高価でした。そこで彼が目を付けたのが、当時品質が著しく向上していたプラスチックだったのです。
プラスチックの成型は難しく、またそれまでのサックスとは全く違う構造が必要となり、その製造過程は困難を伴いましたが、ついに1946年、試作器が展覧会に出品されました。
まもなく特許が交付され資金提供者も現れ、1950年、世界初のプラスチックのサックスが発売されました。
発売と同時に、当時の英国を代表するサックス奏者でバンドリーダーでもあった、John Dankworthがこのアルトを絶賛し、またクラシック奏者も演奏するようになり、Graftonの名は一気に広まっていきました。
しばらくして(1953年頃か)、ジャズ界の大御所、チャーリー・パーカーもこのアルトを吹くようになり(『Montreal 1953』のジャケット)、Graftonは異様な人気を集めるようになります。
後にフリージャズの若き旗手として登場したオーネット・コールマンも、1958年のテヴュー・アルバム『Something Else』で、颯爽とこのアルトを吹いています。
しかし手作りの過程の多いこのサックスは量産することが出来ず、1967年までの歴史で僅か3,000本ほどしか作られなかった、と言われています。シリアルNo.は10001番から13000番台までだったようです。
また、この間に試作されたプラスチックのクラリネットとテナーサックスは結局実用化されることはなく、アルトサックスだけが大いなる挑戦の遺産として残されています。
現存するGraftonには、プラスチックという性格上、U字管底部にクラックのある物が多いのですが、このアルトには全く傷がなく、ネック取り付け部に僅かなクラックはありますが見事に補修されていて、壊れやすいプラスチック・キーガードも、Graftonの名前の入ったオリジナルのものがきれいに残っています。
特殊なアルトであり、現行楽器に比べて抵抗も強く、初心者にはお勧めできませんが、吹き込む力のある中上級者、コレクターの方に持って欲しい楽器です。