指先を凍らす季節が来る 頭の中で描く世界も 冷たさに動けず 吐き出せない苦悩は 行き場をなくし 身体の中で心が扁形する 再び来ようとしている お知らせの風が 枯れ葉を落とし静かに鳴り どこに希望があるのか 探すことにも疲れ 背を丸めベンチに座り 足先を包む 雲の谷間からの光に 涙を流している
ねえ わたし とことん 詩んでもいい ああ いいんじゃねえ 詩にたいんだろ 詩ねば えっ ほんとうにいいの だって俺も お前の知らないところで 実は詩んでるし めちゃ作品あるぜ うそっ それっ やばいじゃん ジャンル的に おねがい そんなこと やめて 詩ぬなんて えっ お前は俺に とことん 詩んでもいい って訊いたよな 自分だけ 詩まみれに なろうなんて ゆるせねえ でも あなたには 全うな道を 歩んで欲しいの そんなこといって もう詩なないと 俺もお前も 生きていけねえじゃん 一度の人生 詩んでいこうぜ そうね たしかに もう詩なないと 駄目かもね 私たち おう 詩んで 詩んで 詩んでいけば いいんじゃねえ 楽しいし 活力にもなるし なっとくなっとく 一度の人生だもんね いつまでも 一緒に詩にましょう 詩んで~詩んで~ 詩まれて~詩んで~ へんな歌っ でもなんか幸せ 私たちもっと詩のうね
ほどよい列車のゆれ 栗橋あたりから 稲穂が 私を束ねないで 新川和江さんの詩のように 風の自由が語りかける 初めて足を運ぶ文学散歩 もし 詩の朗読をすることがあれば この詩を風邪で掠れた声だけど 歌ってみよう 今年は 雨の多さに埋もれた街があり 辛い季節に萎えた それでも自由を失わず 心だけは強くありたい 車窓の向こう 稲穂が風を背に垂れている 今日 新川和江さんの集められた 一万冊の詩集に囲まれに行く きっと強く生きるヒントが 見つかるような気がする 列車はゆれる ひとはひとに救われ 微笑みを返せるのだから
大きいおねえちゃんは ぼくのことを 人形だと思っているんだ 頭にリボンつけ スカートをはかせたり ぼくがいやだと言っても だいじょうだいじょうぶ すごくかわいいからと言って なんだか楽しそうだ おねえちゃんが好きだから がまんしているけど ぼくは ヒーローになりたいんだよ
どちらかといえば 嫌いだったタイプの 君を好きになった パープルに髪を染め 清潔感の反対側 地べたを滑るスカート 黒いマスク 怖がられている 睨みつける瞳 だけど僕にだけ見せる 嘘のない笑顔 近よってきた君 遠ざけなかった僕 次第という言葉に 育み歩いた 突然は二つ目の季節 台風の後の青い空 君への仕打ちは 雲ごと消され 君の反骨 その代償は辛く 塀の内側に 思いを募らせた 君は本当に 僕が好きだから もう逢えないだろう 汚したい空 さよならのかわりに いつもごめんね という君を思い出す この空を知っていたんだ
知っている 豆腐がどうしようもない 僕を救ってくれることを 躓いた時に 何気にクッションとなって 痛みを与えない もうやっていられない そんな時に 豆腐が巨大化してプールになる 僕は狂ったように 破茶滅茶な格好で泳ぐ 腹へって死にそうだ そんな時は醤油をかけて いただきます と
十年前 父と富士山を登った 二十年後 私が父と同じ歳になる 果たしてその頃に 私は頂上へたどり着くのだろうか その前に生きていることが前提だけど そうだな これをひとつの目標にして あのゴツゴツした長き連なる山道を どんな景色に見えるのだろう どんな自分に会えるだろうか
息子がまだ泥だらけになり遊んでいた頃 誰よりも自由を手に入れた顔して 走り転んでも痛みをすぐに忘れる 遊びの天才になり 青空は君のためにあるのか なんて思うくらい飛び回っていた 小学校も高学年になると 社会性を持つように学校でも厳しくなる 授業で必要な道具を忘れた息子は 「忘れ物について何か書きなさい」と先生にいわれ クラスでひとり違う課題を与えられた 書き上げた文章は詩であった 子どもはみんな詩人だと思っていたが 息子も同じように自分を表現していた 忘れ物 ぼくは変だ 遊ぶやくそくは覚えているが 学校の宿題は十分くらいで 忘れてしまう ぼくは変だ 遊ぶ持ち物は覚えているが 学校の持ち物は五分くらいで 忘れてしまう ぼくは変だ 連絡帳に書いたものも 一分ぐらいで 忘れてしまう ぼくは変だ だから 学校を勉強するところと 忘れないようにしよう この詩がなぜかクラスだよりに載って 初めて目にするのであった 自分がどんな性格かを考え 学校という社会と照らし合わせながら 子どもらしいユーモアもあり 反省していることが書かれ驚いてしまった 子どもが大人になるため 社会性を持つことは大切であり 親としてはそれが嬉しくもあって あの自由を手に入れた息子の顔 目に浮かべると寂しくもある 「忘れ物」の詩には「忘れない物」があり 強く生きるためのユーモアは誰にも奪われず 自由な力となり逞しさを忘れやしない