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現代詩の小箱 北野丘ワールド

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  • 閑静な住宅街の禁足地  鳥さん

閑静な住宅街の禁足地  鳥さん

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 鳥さんがみたい
 隣の空き地に
 鳥さんが来るから買って


コドモ化するとパパ化してくれる夫がペンタ
ックス8×21の双眼鏡を私の首にぶらさげ
てくれたその朝。

首にペンタックスをかけたまま朝食をとり茶
碗を洗い米を研ぎダイニングキッチンで仁王
立ちすると、夫はすたすたと奥から現れフラ
ッシュを焚いてくれた。

後は任せた。夫が無言で手を挙げ前方注視の
横顔のまま自転車が泳げば首からペンタック
スの妻は回れ右をしサンダル歩行でもどる。

と、高いフェンス沿いの通路でばったり三毛
猫とでくわした。おまえは前の世のミーちゃ
んか、妾になんのと因縁の睨みあいの続きを
する現世。

ふふふ妾にはいまひとつ強力な眼があるのだ、
まて、こらまて…。鴉が四度鳴き、遠くに同
数の呼応を聞いた。

 放置されたままの
 鳥たちの小楽園
 高いフェンスに 施錠された扉
 夕暮れには 迷い猫

アパートの窓から網戸とフェンス、二重の網
を透過するレンズを向けると、なにかおかし
い。眼鏡に双眼鏡はおかしい。乙女のように
眼鏡をはずすと、白昼何をしとるかと夫の声
が追ってきた。

任された全営為にペンタックスが加えられた
からにはイエッサー。穴ふたつとは名言なり
座右の銘なり。裸眼にくっきり丸ひとつの輪
郭イエッサー。

いざとなったら玉。玉をだせと繰り返す妄想
生活を玉梓が怨霊よ、脱却せよとの夫の願い
をペンタックスよ。見ヨ。強力ニ見ヨ! 見
たというまでペンタックス、鳥さんを呼べ!

ドアポストにゴソリと音がして、突如、不審
な監視者のように狼狽したが、ドミノピザと
は一切関係ないのでほっとした。ばかやろう
鳥さんが驚いて来ないじゃないか。出し抜け
に今カラデモ遅クナイと拡声器がひびく。

 …ヲ捨テ本隊ニ帰リナサイ
 帰ってます
 お家はここだとパパがいった
 敵がいるの? ミーちゃんかな
 フェンスの中に 敵がいるの?
 …ニ告グ、…ニ告グ…。

おかえりと言うと、夫が帰ってきてくれたの
で、今からでも遅くないの帰れソレントがわ
たしを包囲してわたしは逃げられなくなった
のと妻はいった。それで鳥さんはきたのかい
と夫が聞くので、ああ、鳥さん! そう鳥さ
んが、このフェンスの中にぱらいそ!

ぱらいそ…? 降り立っては飛び立つ鳥さん
がいるんだね。

眠ると妻が言うと、布団をかけてくれる夫が、
待っていたのにどこかで敵が現れて、その敵
をなんとかしないと鳥さんに戻れないんだね
というと、妻は嬉しそうにこっくりした。
#黒筒の熊五郎

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