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現代詩の小箱 北野丘ワールド

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鶴を折るように

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壁に段ボールが
積み重なった部屋で
鶴を折るように
スッと
梅雨の緑を折る
子どものように泣く朝を折る
折りながら小さく祈る
大人になっても
朝の悲しみのわけは分からない
雨の音が聞こえないマンションの硝子を折る
何もする気がしない青い一日を折る
ゆうべも眠れず薬をひと粒飲んだ
やっぱり降り出した小雨を折る
詩人賞に応募した郵便局への道を折る
霊園の仕事の応募には連絡がない
絵が描けたらと思う赤の夢を折る
友だちのゆくえも知れぬ恋を折る
二・三の買い物からいそぎ帰った
お前に貸す金はないと母にいわれた日を折る
母と酒を飲み法華経の話をした日を折る
数年前。バザーで買ってくれた
コアラの縫いぐるみをそっと棺にいれた
寺に雑魚寝した通夜を折る
涙が出なかった告別式を折る
形見分けの明るい柄のブラウスを着た
ぽっかり目覚めてしまった朝四時を折る
もらった詩誌の礼状を遅れて書いた
夢への登場を待つ帽子の女を折る
黄色いクロッカスの花言葉を折る
波の音を何年も聴いていない
その子守唄を折る
いばら姫の百年の眠りを折る
段ボールふたを開けて、閉じた
はるかな南風を折る
沈む夕日を折る
これら束となり
水平線へと
飛んで行け

#渋谷文学

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