もうこれ以上、本番のレースカーを走らせる資金も時間もない。 僕らはレースウィークのプラクティスも、レースカーの状態を温存するため極力走らない。 余分なエンジンも、余分なパーツもない。 なんなら、リヤタイヤはデブリで増やして無交換にしようというプランすらある。 そんな僕らは、机上での振り返りが練習タイム。 練習教材は、普段クルマにも乗らないチームメイトがプロを上回るタイムをたたき出している映像。 その映像は、エンジン回転数を抑えたうえに、ストレートエンドでアクセルを抜き、ゆっくりとそして正確にブレーキを踏み、ステアリング舵角は少なく、抜くことに熱くならず、抜かれることにも熱くならず、タイヤは悲鳴を上げることなく、冷静に路面とタイヤとの関係に集中していた。 熱い走り、鼓動の高鳴り、恐怖との戦い・・・。 そんなものとは無縁だった。 ある意味衝撃的な走りだ。 レース当日まで実際にサーキットを走る機会はないが、これが僕らの貴重な練習時間なのだ。