友人だと思っていた彼に 大事なものを貸した 返って来ることはなかった 貸し渋りをしなかった純粋で 自分を慰めることができるか すでにその心はなくなっていた 疑う心を持つと大人になり 自己防衛の壁が高く厚く積まれ また孤独に帰ってゆく
通り過ぎてゆく 小豆色の貨物列車は続く 切れることのないガタンゴトン 足の裏から伝わって 断続的な休符にある 倒れては起き上がりまた倒され 疲れた身体の血流だけを感じ 仕分けもせずに捨てた時間たち 私は私を恨みまた私を許す 理想はあってない時間を揺らす それでも 足から伝わる俺の生きている 貨物列車の終わる侘しさのち 目の前に生活という電車が来る 何処へと 問う行き先に慣れた扉を潜る
バカ野郎っ と、僕は投げ飛ばされた石 今は空き缶 ビニール袋やペットボトルたちに 囲まれて暮らしている 彼らは死んだように言葉を発しない 君らも バカ野郎って言われて投げ飛ばされたのかい? …………… この孤独はここに積み重なっていく
ケースから取り出せば ぷわっとハワイアンコアの匂い 波の眩しいイメージに音を合わせ 南国の砂浜で指が遊ぶ ポロロンポロロン ポロポロポロリンポロロン ナイロン弦の優しさは 疲れた心に可愛く明るく響く 悩みイライラや憂鬱たちも 想像の光にすっと吸い込まれて ポロロンポロロン ポロポロポロリンポロロン 縦に横に波打つ模様の 小さなボディはまったりとさせる 抱っこしているつもりが 音色のゆったりに抱っこされて ポロロンポロロン ポロポロポロリンポロロン
哀しみの涙は 海に流れ 青が微笑み 喜びの声は 空の雲となり 白が飛んで 怒りの尖りは 夕陽に傾げ 橙が踊り 楽しむ心は 星の輝き カラフルが咲いた 分かち合う 恵のスピリッツは 継がれ振られ やさしさが吹く
いかているよ きいいすもいてんきだす ひとり暮らしの母にスマートフォンを渡した 始めは難解なメールばかりだったが それでも母と繋がっていることに安心した そして週末は文字入力の練習 母ちゃん長押しになっているよ 文字を打つ時にアッと言いながら押してみてよ アーじゃないよ アッだよアッイッウッエッオッって感じで アッイッ ポッポッポッ カッキッ ポッポッポッ タッチッツッテッ ポッポッポッ アッイッ ポッポッポッ ラッリッルッ ポッポッポッ ヤッイッユッエッヨッ ポッポッポッ 母ちゃんポッポッポッのおまけ付きだね 笑っちゃうけど良い感じだよ 今朝も母から「鳩」の歌に合わせメールが届く 生きているよ 今日もいい天気ですね
紙ひこうきのこころは もう風に乗ることは許されないようだ 立体は緩んできれいな平らになろうとする ここは大地なのだろう玉虫が背をくすぐり 雨粒が釘を打つように叩く こんな所で声が聞こえてくる ああ俺は間違いなくお父さんだった 目を開け まだ生きているのかと微笑んだ