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詩は元気です ☆ 齋藤純二

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心臓の毛

thread
怖いものなんてなかった
と、いうか
怖いもの知らずで
僕は生きてきたのだから
それまでも幸せだった
さあ、どうだろう
たぶん、それはそれで良し
と、いうことにしておこう
 
ちょっとこっち向いて
と、彼女がいうから
振り向いて
ああ、髪からいい香り
なんか幸せ
と、思いきや
はい、抜いちゃった
彼女が僕の胸を指で摘んだ

何も見えなかったが
心臓の毛を
抜いてあげたという
どうした彼女
と、思ったけど
まあ、いつもの彼女といえば
そうなのである
ひとの見えないものが
見えるらしいから不思議だ
 
抜かれた毛
僕の変化を自覚し始める
 
遊んでばかりいること
貯金がまったくないこと
自分の将来のこと
彼女が僕から離れていくこと
気に出すと不安ばかり

僕は彼女に聞いてみたんだ
なんで心臓の毛を抜いたの、と
彼女はふたつの言葉で微笑む
深み、カッコいい、と
 
僕は浅く、カッコ悪かったのか
うーん、そんなことは
ある、
彼女をリスペクトしているから
たぶんその通りだ
 
だからその日から僕は
悩める男を受け入れたのだ
そして数日後、彼女に聞いてみた
僕、変わった、と
 
うーん……
たこ焼き食べに行こう、と
 
 
#詩

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逝き頃

thread
若い頃に
通っていた定食屋の暖簾をくぐった
すでにオヤジさんは居なかった
おかみさんが店を継いでいて
 
 あのひと
 俺は五十で逝くと若い時から
 言ってたんだけど
 本当に五十になってすぐに
 ぽっくり逝ったのよ
 
なぜだか納得している私がいた
らしい、悲しみよりも
オヤジさんは最期までカッコいい
なんて思ったくらいだ
 
まだ二十代だった私は
その定食屋によく通っていた
うまい、安い、そして大盛り
トンカツ定食やカレーを頼むと
刺身の切り身を
小皿でサービスしてくれた
いただきます、ご馳走様は
毎回、店内に響くほど大きな声で
お礼のつもりでしていた
 
定食屋が閉まる時間になると
オヤジさんは
 
 おお兄ちゃん
 暖簾下げるから
 ちと待ってくれ
 スナックだ
 飲みに行くぞ
 
もちろん気前のいいオヤジさんの奢り
繁盛している定食屋だったので
タクシーも使い店をハシゴした
私はカラオケ担当で歌いまくっていた
なんだか夢のように思いつつ
オヤジさんは私と飲みに行って
楽しいのかな、
そう思った時に聞いてみたら
 
 よくわかんねえけど
 兄ちゃん面白しれえよ
 俺とは別者だ
 
菅原文太似のオヤジさんは
軟弱そうな私との違いを
楽しんでいたのかも知れない
 
オヤジさんからその当時
月に生命保険を二十万円ほど
支払っていると聞いたことがあった
バブル経済期とはいえ
自分が死んだ時のために
そんなにお金を使うことの意味が
よく分からなかった
 
有言実行
保険金は家族のためだったのだ
しかし
なぜ五十歳で逝こうと決めていたのだろう
またその通りにしてしまう
哲学はどのように育まれたのだろう
その不思議もよく分からない
 
そして
オヤジさんの強い眼差しと輝きは
今も私には眩しいくらい
脳裏に焼きついている
 
オヤジさんの逝き方に
男の意地を見せられ
その境地に私はとても及ばない
怖さにまだ縛られている
 
ただ
逝きたい時に逝くと決め
オヤジさんのように
やはりぽっくりと
そこは別者でないことを証明し
私の逝き様を
雲の上のスナックで伝えたい

まだオヤジさんに追いついてない
しばしお待ちあれ
 
 
#詩

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雰囲気変わりましたね

thread
男の更年期って聞いたことあるが
そいつなのだろうか

詩だったり、音楽だったり、
映画だったり、仕事だったり
どこかのフレーズが
消えそうな炎を煽ってポッと灯し
動き出そうと立ち上がらせ
近所をふらつかせる

タブレットを抱え
公園のベンチで言葉のスケッチに
指は葉を落とした枝のようで
硬くくの字を見せる

チャージしたやる気エネルギーは
すぐに空になってしまい
今日も一日が終わる
寒空に温かそうに沈む
このやる気のなさは心が暮れる

何かを全うしなければ
このままでは開かぬ瞳を閉じる時
間違いなく後悔しかないだろう
その危機感が今の自分を繋いでいる


はい
自分でも気づいています
懸命に何かを掴もうとしていますので

#詩

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休日

thread
陽射しが弱くなり始め
慌てて時計を見る
そろそろヤバい時間だよな
何がヤバいって
その時間によって一日の
「充実」か「ダラけ」が決まる

14時20分

日頃の疲れが
ダラけに誘われ時計を見ると
なぜか毎度14時20分である
この時間まで
身体を休ませる以外に
何かに打ち込まなければ
充実は得られない
そんな強迫観念と闘ってしまう
朝から動こう、動こうと
そして生き甲斐である
作業をやろう、やろうと

最近はダメな時が多くなった
体力の衰えからなのか
気力が湧かないというのが
精神的にかなりヤラれる

……さて
今は何時だろう
今日もダラけてしまったが
たぶんこの感じだと
イケてる気がする
14時20分前であってくれ
頼むっ……

13時50分

よしゃ明日に繋げるぞ
今日も俺も終わっちゃいないぜ

#詩

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なぬっ、熱はないのか

thread
休んでもいいんじゃねえ
ちょっと祈ちゃっているけど
抗体検査キットでは陰性
熱もなく喉がイガイガして痛い

のど飴とビタミン飲料を買って
電車に揺られながら
今日一日が終わることを
すでに考えている

二十代の頃を思い出す
仕事終わりに身体が熱く
体温を測ると四十二度三分
へえー四十二度とか測れるんだ、と
まだ余裕な感じだった
次の日は三十八度に下がって
ふつうに働いていた
いま思えば感染対策がゆるく
働けるんだったら働いて
そんな時代だったし若かった

最近では
ちょっとした身体の不調で
あっちいてえ
こっちいてえ、と
こじらせて職場に迷惑を掛けぬよう
なんて考えながらもただ休みたい
年齢を重ね守りに入るのは
間違っていないだろう
しかし喉のイガイガじゃなあ

そんな訳で働きだせば
おはようガラガラ蛇です、と
おっさんネタに
大丈夫ですか、と訊かれ
喉のことじゃなくて
私の頭のこと? と
自分ツッコミも笑いをとれず
なんとか業務をこなすのであった
#詩

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🔰初心者向け詩の投稿板を開設‼️

thread
詩誌MY DEARの掲示板への投稿には
詩がかなり書ける方が多くなってしまい
初心者の詩書きさんが投稿するのに躊躇してしまう
そんな声を聞いていましたので
新たに『🔰初心者向け詩の投稿板』を開設しました。

詩をこれから書きたい方、書き始めた方が
お気軽に投稿でき楽しめる掲示板にしたいと思っています。
作品への感想やアドバイスを私が全作品へ入れていきます。
ご興味のある方はぜひご投稿くださいませ‼️
https://www3.rocketbbs.com/13/m.cgi?id=mydear
#詩

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記憶

thread
UFOを見たり感じたのは四回
小学三年生の時に一度
小学四年生の時に一度
そして中学一年生の時に一度
最後は中学三年生の時に一度

もしUFOに自分の所まで来て、と
念じてしまうと飛んで来てしまうだろう
そう思っていた時期もあった

 何が私の身に起きたのだろう?

初めてUFOに遭遇した時の記憶は断続的にあった
近所の空き地で友だち四人と
ビニールボールで三角ベースの野球をしていた
ふと空に飛んでいる光に気づき
それをみんなで見ていた
空を右に左に瞬間移動している
UFOだ、と思った
こっちにやって来る、どうしよう
もう身体はまったく動かないし
圧倒的に支配されていると強く感じた
この感情は今までに味わったことがなく
恐怖の先へと行ってしまい頭の中が白くなった……

気がつくと野球を終え
友だちと歩きながら帰り道に雑談をしていた
私が、さっきUFOが飛んでいたよね
お尻の下あたりを針で刺されたよね
そう言ってみると
何バカなことを言っているんだよ、て
笑われてしまった
私以外はUFOと遭遇した記憶がなかった
これは間違いなく夢の話でなくリアルな体験だった

 何か消された記憶
 消し忘れた記憶があるのはなぜだろう?

四年生の時は空高く
光る金属みたいなものを一瞬見ただけだった

中学一年生の時は
夜中に目が覚めて壁一枚向こうに
UFOが来ているのがなぜか分かった
この時の感覚もしっかりと覚えているが
夢か現実なのかは正直なところ分からない

 何か託されたことはないのだろうか?

最後は修学旅行での記念写真
学年の全生徒が四百人ほど写っている集合写真に
私だけが正面を見ずに空を見上げていた
また来ているぞ、と
遠く小さく見えるUFOを追っていた

それから随分と時は流れた
大人になってからはUFOと遭遇していない
最近は空も見なくなっていた

 何か信じていたことを忘れていないだろうか?

#詩

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避暑地

thread
ジリジリと刺す太陽光
日陰で水を喉に流し込めば
開放感を与えてきた夏は
危険なだけの夏を照らしている

道路工事の作業員
人はこんなに強いものなのか
ヘルメットに厚手の作業着を纏い
焼けた顔の逞しい眼差し
振動で身を揺らされている

私がどれだけ
ひ弱な肉体と精神なのか
思い知らされる存在価値の怪しさ

私には抗う気力を失えば
句点がこちらに転がってくる
なんとか飛び上がり回避しながら
まだ終われない言葉を求める

冷房の効いた場所へと心は急ぎ
生きた心地を得れば
熱くなった身体とタブレットは
平熱を取り戻し始める

いつもの具現される私の作業は
言葉を垂らし
危険な夏を遮断する

#詩

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夜びと

thread
月夜が歌う
寂しさに浮かんでいる

ゴーゴーと包む誰かは
もう怖くはなかった

サイレンが刺さり
酔っ払いが投げた
どうしようもないだけが
僕の波に乗っていた

繋がれた糸は切れ
尻に手をやり
感触を確認してみれば
指は血だらけ
僕は性に捕まった
なぜ諦め切れないのか

僕の中の僕が消えたなら
惜しみなく与えられる
光になれるのに

視界にある歌は真実か

夜に浮かぶ
旋律を涙で聴こうとする

寂しさに
寂しさが重なり
月夜を知れる気がして
僕は浮かんでいる

#詩

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気分を変えて

thread
見られることはなるべく避けたい
だから派手な服なんて着たもんなら
へとへとに疲れてしまう
なるべく雑草のようになんとなくそこで
限りなく空気に近い存在となって
花を咲かせている者をこっそり眺める
それくらいの楽しみがちょうどいい

仕事が終わればひっそりと
ひとりになりたいから
歓迎会、忘年会、送別会なんて
なくなってしまえばいいのに
ずっとそう思っていた
気を遣う自分にやはり
疲れてしまうのだから
コロナ感染が蔓延して数年
そのような会がなくなったことだけは
ラッキーだった

なんだかんだ言って
結局は自己中心思考なんだろう
ひとりでは何も結果を出せないのに
協調性を保とうとしないのだから
生き辛そうなことまで呟き
きっと自分に都合の良い人間なんだ

そして今朝
桜が散り若葉が青々とする道のりを
着ていくシャツが決まらなくて
そこでまた疲れてしまう

これしかないのかと
店員に勧められ購入した
一度も着れなかった
薄紅のシャツを仕方なく身につけ
どうしたら目立たず
一日を過ごせるかと端っこを歩く

背後から知り合いに声を掛けられ
ドキッとしながら振り向き
口もとを無理やりあげて
おはようございます
と返した自分の声が思った以上に
大きくて驚いた

今日はいつも以上に疲れそうだ
だけど
もうどうでもいいんじゃん自分
そんな気持ちが初めて芽生え始めた

自分を過保護にするのに疲れたのか
不思議な春の一日が始まった
#詩

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