昇る前に
May
10
もう限界だ、と手を雲へ伸ばし
どうかこれ以上、苦しまずに連れて行ってくれ
張り付いた喉、膨らむ患部、激痛、縛られた意志
運命は残酷に自分を躊躇なく壊して行く
未練ばかりの人生でも早く早く、と
声に出来ない叫びが伝わったのか
医師の処方により萎えた藁を握りしめながら
流し込まれた麻薬に……
姑息の間(ま)にひとつ願っている
朦朧とした記憶にある家族に会いたい、と
✳︎
お父さん
涙を流しているよ
みんなのことが解っているみたい
覚えのある声、温もり
薄っすらと開けた目から
光と優しい感情
お父さん
お父さん
口の動きで聴こえているだろうか
大丈夫だよ、が
お父さん
お父さん
口の動きで聴こえているだろうか
ありがとう、が
お父さん
お父さん
口の動きで聴こえているだろうか
幸せだったよ、が
お父さん
お父さん
口の動きで聴こえているだろうか
嬉し涙だよ、が