「まさか」の 鋭利たちが刺さり 夏の肺は 黒い空を白く 身近に死を浮かせ 家族の過去と 未来に今を 詰まらせていく 軽症の私は 先に隔離解除され 玄関の向こうで 足枷が照り返しの 風に解かれ 苦い汗が滴れる まだ高熱が続き 酸素を欲している家族 この雲が どうか消えますようにと 祈り見上げている (家族たちは通常に戻りつつあります。お世話になった医療従事者に深く感謝いたします)
ごきげんよう お入りになって涼んでください 冷たいお茶をお持ちしますね どうぞお座りになってください そうでしたか 学校で守衛さんを もう醸し出す雰囲気から 生徒さんたちに好かれている様子が 想像できますね それではあなたの背後にある 中核文字を見ていきましょう リラックスしてください はい見えました 花が咲くの「咲」の文字です もともと「咲」の文字は 笑う「笑」の古字でありまして 「山が笑う」と言いまして 春に芽吹き山が華やかになる様子 山に花が咲くように微笑んでいる そんなひとの心を和ます 素敵な中核文字をあなたはお持ちです そうですよ あなたが明るく笑顔で挨拶をされるので 生徒さんたちはハッピーな気分で 登下校されていることでしょう そして「咲」の念字をみなさんに そっとお配りして 前向きな気分にさせてしまう 愛しき中核文字です ただご自身を咲かせるということは 土や光、そしてお水が必要です これらのエネルギーの源を しっかりと供給しなければなりません ご自身の身体を労ることが大事になります 栄養のバランスをとり適度な運動を 心掛けて生活することをお勧めします そうですか 以前は山に登られていたのですね それでしたら心がリフレッシュするような コースで楽しまれてください あなたのパワースポットである山から 「咲」のエネルギーがもっと得られます そしてもっと大きく咲いた笑顔をお裾分け 生徒さんからの微笑み返しにほっこりです 世代ですね キャンデーズの「微笑がえし」 私もよく歌い踊っていましたよ そうですか これから夜の見廻りがあるのですね ご苦労様です では今日の占いはこの辺にしておきましょう そのあなたの笑顔 ほんとうに癒されます そうですね 本日はご来店いただき 誠にありがとうございました お気を付けてご出勤くださいませ
夕暮れ時の公園で呟く どうかわたしが 元気でありますように 紙くずがカサカサと 風に身を引きずられて 踊りたくないのに 踊っている 今は我慢とか頑張りとかを 遠ざけたくて ベンチに背を丸め座り 黄昏れ空なんか見て 浮き沈み物語は 始まっては消えてゆく ボールが見えなくなると 賑やかな子どもたちは わたしに贅沢な時をくれる もう誰もいない公園 どうかわたしが 元気でありますように ひとり佇む寂しさに冷され 気持ちがリセットする ガッシャンと 自転車のスタンドは響き渡り 電灯の照らしが身体を包み込む 優しいお疲れさん 明日も どうかわたしが 元気でありますように 隙間のできた心で 強くペダルを踏み込めば 風が心地よく わたしは微笑んでいる
疲れは揺らされ そっと我に帰る時 懐かしさへ入り込む いつかの 切なくて涙を流した いつかの 悔しくて拳を握った いつかの 楽しくて腹を抱えた いつかの 嬉しくて叫んでいた 想い出たちが 暮れては頬を染め 遠くほど ゆっくり流れる景色 足元を高速で流れる枕木 弧を描く風 意味ある重ねは 窓の向こう 景色と溶け込んで ひとりの揺れが 胸の詰まりを 息から吐き出させて 曇らせるガラスは 疲れを消す 今日も同じ心へ 帰る幸せに ありがとうが洩れる
部屋の中 春の風が嘆いている グオオ グオオ グオオー きっと俺のいる 部屋なんかには 来たくなかったのだ そして風は死ぬ また 次の風がやって来る 窓の隙間を使い 声を出すのさ グオオ グオオ グオオー 俺みたいに 籠った奴になりたくない そう嘆いているのだ そして風は死ぬ もう来ないのかと 待っていた そう 春の風は止まない グオオ グオオ グオオー 風は心の底から 運の悪さを 低い声で窓も揺らす そして風は死ぬ 空を吹いていれば いいものを たまたま 俺のいるところに グオオ グオオ グオオー 嘆く春の風は 死骸になり 俺の胸を積もりだした やがてその重さに 俺は耐えきれず マスクを忘れ飛び出した
君は突然にさよなら 追いかけられる場所でないところへ 猫の悪戯で落ちて来た一枚の写真 今でも若い君 変わらない君 僕はもう身体も心も変わってしまった 取り戻せない青空 痛くても声も涙も出ない悲しみが… 想い出になった君に辿り着いても 「どちら様ですか?」と 君は笑いもせずに言うのだろう
自分を愛していないとか そんな話ではない 僕が僕でいない僕を 可哀想に思い始めたのさ ひとの輝きばかりに眩しくなり 世間という椅子に座り 拍手を送ることばかり上手になり 自分からは何も光を放つことなく 足元さえ真っ暗で どこに居るのかも分からず 誰かが生きる僕になっている 光放つ者から勇気をもらっても 僕のいつかきっとは いつかきっとのまま 始まりもせず終わりもせず それならどうなりたいの僕? まずはそこから始めよう 考えることが僕になるから 思うことが僕になるから もっともっと僕を探す 誰にでも引けるスタートライン 勇気なんていらない 踏み出した足音を響かせるだけさ 僕が僕へ近づいている
おいおい通り過ぎているよ あんたが探している俺は もう画面から消えているぞ てかっ 俺のこと探しいていねえよなっ ああ こりゃすでに俺のひとりごと やはり死んじまった奴のブログなんて スルーされてすでに埃の山だな あとどれくらい魂がインターネット上で 彷徨えるのだろう 検索でよく俺の一個前に出てくる奴が言っていた 閲覧されないブログとかを クラッシュマンがギザギの刃物を持って 僕たちの言葉や写真をズタズタにするらしい なんでそんなことを知っているんだ そんな作り話を俺は信用しない 間一髪で助かったひとがいて クラッシュマンが現れてウオーって時に 自分のリンク先に飛んできた閲覧者がいて ギリギリセーフだったらしいよ だからクラッシュマンを見ているのさ マジか 嘘じゃなさそうだ そいつはすげえ運が良かったなっ このままだと僕たちはいずれ クラッシュマンにやられて死ぬんだよね ああ 俺たちは二度死ぬんだな 二度目は殺されるなんて残酷すぎるぜ 聞きたくない話を聞いてしまったし その話し相手はすでに消えてしまった そろそろ俺の順番も近そうだ 後世に残るような名作でも書けたなら 永遠を手に入れられたんだろう 俺のチンケな小説じゃもう時間の問題だ もっとすげえ作品を書きたかったなあ 別にここで死ぬことが嫌とかじゃなくて なんかやり切ってなかった悔いが 今ごろになりズブズブと胸を刺してくるぜ もう一度だけ俺にキーボードを打たせてくれ そしたら…… だけどしょうがねえよなっ ずいぶんと怠けて生きてきたのだから おおっ あちゃ来たかクラッシュマンマン このクソ野郎が 最後の最期ぐらいはカッコよく消えてやるぜ カモンっ 待っていたぜクラッシュマン! ………んっ ………なぬっ 俺のブログにお祝いのコメントが入っているぞ 俺も飛んで戻ってきたか なになに 俺の書いた小説が賞を取ったってか そんなことありえねえよな 一度死んだ奴に賞って マジかよ まあ また俺はここでしばらく彷徨えるんだな でもなんかもういいかなって気持ちもするぜ 小説が書けないんじゃただの抜け殻だよ ……もっと真面目にやれば良かった いやいや俺の性格じゃ 生まれ変わってもあんまりパッとしないかっ 話しがちょっと長くなったが 一度目の人生に怠けると 二度目の人生なんてないようなものだ そこのあんたもダラダラと生きていると 俺みたいにイケてない人間になるぜ まあ 大きなお世話だなこれりゃ
赤提灯のぶら下がる 路地を歩く 女たちが手を引き誘う 昨夜見た夢の続きか 書き始めた小説の続きか 揺られ渡った詩人の大陸幻想か 占い師が忠告していた 月に高笑いをする女の気配 私の罪悪感を利用し 強く首を絞め遊び出す 悪くはない 望んでいた夜だ 逃げ場所のないロマン 汚れた美しさ 終わらない夜は続く 騒がしい外へ 右でもなく左でもなく 夜の暴動を遠くから眺める 走って向かってくる女 石を掲げ笑ったまま振り落とす 頭を叩かれ 遠くのネオンがなお歪み 倒れ込む先で 水溜りに流れ出す血液 立ち上がれないのは無念なのか 死んだはずの魂が疼く 生きたい死にたい生きたい死にたい ポケットから 水溜りへ落ちたビスケット ボロを着た子どもらに 分け与える為の償いたちが 泣くように赤く染み込んでいく 街頭の下 占い師が忠告していた子どもらは 水溜りの赤いビスケットを拾い 何事もなかったように頬張り 倒れた私の身体を踏みつけ走り出す 覚めそうもない覚めたくもない 夜はまだ始まったばかりだ