蕎麦食いねえ ずるずる ああ旨えなあ 役に立つ扇子だ ポンと相づちを打ち 竿になってあんたも釣れる ひろげれば羽 刀になって おぬし出来るな と言ってみたり まあ扇子ってのは 便利な道具さ 扇子使う センスがあればの話し なんだって この落語が落ちてないって お粗末様でした
ああ僕、てんとう虫 でんでん虫じゃなくてごめんね えっ、謝らなくてもいいって 僕の声が聞こえるんだね でも、紫陽花の色に紛れて 僕のこと見えないでしょ えっ、めちゃ見えているって それに黒いって そうか、僕は目が悪いから じゃあ、君の顔に隠れるよ ほら、君のほくろ えっ、擽ったいって
俺の過去と未来が今の詩になって 泣くよ笑うよ踊るよ タラッタ、カツカツ、コンコンコン ここでノリにのって、ほらっ 抵抗らを弾き飛ばし 激しく言葉は白に黒で跳ねるよ踊るよ タラッタ、カツカツ、コンコンコン ああ、もっともっとだ、もっと荒々しく タラッタ、カツカツ、コンコンコン
小学五年生の時 転校先で楽しみ会があった 土曜日に突然 その日、前の学校の友だち数名と オーメンの映画を見る約束をしていたが そっちへ行くことはできなかった 数ヶ月後、街のお祭りで オーメン派の友だちとばったり アメリカドッグについたケチャップを 思っ切り顔につけられた 確かに俺は謝っていなかった アーメン、オーメン……、ゴメン
僕の自転車は27段変速 もちろん直角に昇る道路だって スイスイと上って行く 僕の自転車は27段変速 真っ逆さまに降りる道路だって スムーズと下って行く 僕の自転車は27段変速 理屈なんてどこ吹く風になって キラリンと走って行く
夜遅く上りの電車 この車両には誰もいない 僕すらいない気がして 内外を見せるガラス 重なる対面 生きてきた僕が白黒で 色を何処かに忘れてきた その顔は無愛想で コントラストさえ弱く 静かな車両には 鉄の波が聞こえるだけ 確かにあった 盛り上がりのない物語 それでも淡い青を感じては 涙を流したこともあった 欠けている 中途半端に欠けている 僕らしく崩れ 微笑む勇気がまだない
高校生の時 話す言葉を失った同級生がいた 「お前の声、気持ち悪い」 と小学生の時に言われて以来ずっと 声を出さないことは 日常生活で支障が大きく かなりのストレスがあっただろう しかし、それ以上に 自分の声は醜いのだから、と 返事ひとつしない 彼は声を取り戻しただろうか……
言葉がぷかぷかと 浮かんで来たところを 虫取り網を振り回し 飛び跳ね引っ掛かった 鈍間な言葉たちを虫かごに入れ 隣村に住んでいる詩人さんへ 今日の収穫を見せに せっせと歩いて行った 山をひとつ越えるので 足には熊のマメが出来た 熊が身体を引っ張ってくれて 楽に進むことができた 詩人さんは家の前で 大きなへの字を滑り台にして 難しい漢字を滑らしながら にやにや笑っていた 虫かごを詩人さんに見せると への字の滑り台を立てて くの字の登り棒にした これに登らせなさい と言うので虫かごの蓋を開けた 言葉たちは勢いよく登り始めたが 曲がったところで団子になり落ちた