《時節感慨・・呟記・・》 花菖蒲は、ノハナショウブを原種とする栽培種。 江戸時代から生け花や園芸は、庶民まで浸透した日本独特の文化。 日本各地や海外から珍しい花が江戸に集まり、江戸は、園芸都市でもあった。 日本最初の園芸書である『花壇綱目』(水野元勝著)が1681年に発刊されている。 花菖蒲は、江戸を中心に多くの園芸品種が作られてきた。 園芸品種は、地域別に系統分類され、江戸系(東京都)、伊勢系(三重県)、 肥後系(熊本県)、長井古種・長井系(山形県長井市)、外国系に大別される。 他にカキツバタ、キショウブ等の近縁種との雑種(雑種系)と呼ばれるのもある。 観賞用として品種改良が加えられ花種類も豊富で2000種以上あると言われている。 花弁は6枚に見えるが、外側の3枚は萼片、内側に立っている3枚が花弁。八重種もある。 外国系とは、明治期からの米国への輸出で江戸系、肥後系を元に米国で品種改良されたもの。 雑種系は、近縁種との交配種。 愛知の輝(キショウブとハナショウブ)が知られている。 花菖蒲の中に「大船系」と呼ばれているものがある。 *ノハナショウブ《Iris ensata Thunb. var. spontanea (Makino) Nakai》は、湿地に生える。 根茎は古い葉の繊維に覆われ、太く、よく分枝する。 葉は剣状で花は直径約10cm位、赤紫色。外花弁は惰円形、中央部に黄色の斑紋がある。 内花弁は長楕円形で直立する。花柱の上部は3分岐して花弁状、分岐の先は2裂し全縁。 *カキツバタは外花弁片の斑紋が白く、葉の主脈が不明瞭。 *アヤメは外花弁片の斑紋が黄色の網目状。花柱の分岐の先の裂片が鋸歯縁。 * * * * * 大船フラワーセンターは、この4月にリニューアルされ、日比谷花壇大船フラワーセンターとなった。 管理者が日比谷花壇となったということなのか??神奈川県立フラワーセンター大船植物園名は消えた。 この地は、古く大正11(1922)年、神奈川県の『農事試験場』として開場した由緒ある場所。 大正時代、花菖蒲は海外へ多く輸出されており、新しい品種作出は必然的だったかもしれない。 その任に当たったのが、農業試験場の場長であった宮沢文吾博士であった。 大正4年から9年頃に作出された品種を昭和11年『農事試験場成績 花菖蒲の品種改良成績』と纏めている。 宮澤博士は、主に江戸系を基に改良し新品種を約300種、芍薬も約700種を新出し共に大船系と称される。 そんな由緒ある神奈川県農事試験場跡地を引き継ぎ、昭和37年に植物園として発足し現在に至った。 特に、農事試験場時代に育成された花菖蒲、芍薬、つつじ等を保存育成している。 花菖蒲は、江戸時代から育成されたわが国の伝統的園芸植物で、花の文化財といえるだろう。 花菖蒲を「歴史を感じながら鑑賞する花」と玉川大学農学部教授 田淵俊人農学博士は語っておられる。 「歴史的・文化的・学術的に価値があり、後世に末永く残すべきわが国の文化財的な価値のある品種」 江戸の町民文化を表すのに相応しい品種群-江戸系品種群がそれに当てはまると思う。 大船系品種群は、江戸系を育成交配して出来た貴重な遺伝資源、文化財としての価値があると言われている。 花の姿は、おだやかで、やさしい品種が多く独特の花容から、「大船系」と称し分類している(田淵博士談)。 日本花菖蒲協会の分析によれば現在のセンター菖蒲田で栽培されている品種と、昭和11年の記録と照合して、 同一種として今日まで保存されていると断定している。綿密な研究記録、当に文化財であろう。 5月の終わりに改装された日比谷花壇大船フラワーセンターを訪ねた。目的は、自生あじさい展だったが、、! 展示植物を拝していて思ったは、本当に自生種か??表現的には育成種の方が相応しい気がした。 そして、盆栽的に飾って展示されていた。野種好みからすると、ちょっと違和感があった。 外庭の菖蒲田は、すっきり瀟洒に魅せてくれていた。育成種、それを長いこと保存してきた努力には敬服する。 アジサイの季節、此処の近くの北鎌倉明月院の手鞠ホンアジサイも文化財だと思う。 「日比谷花壇大船フラワーセンター」