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猫の揺りかご Blog

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蓮華、盗賊、圧縮 #ノベルちゃん三題

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「蓮華畑に寝転んでいたらね、盗賊の彼が迎えに来てくれたの!!」

「まるで少女漫画のエッセンスが圧縮、いや、凝縮されたような夢だね」

昨夜見たという夢の内容を嬉々として語る彼女の横で、私は苦笑交じりにコーヒーを淹れる。

夢よ覚めろとばかりに殊の外ブラックにしてやろうか。

それともここは、己の幻想がいかに甘ったるいかを思い知らせるために、砂糖とミルクを吐きそうなほど、たんまり入れてあげるべきか。

私はまるでいたずらっ子のように、これからの計画に思いを馳せた。


#オリジナル #小説執筆

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ゴミ、ファイル、カレーライス #ノベルちゃん三題

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ゴミのように積まれたファイルの山に埋もれながら、
カレーライスを頬張る。

目の前にあるのは新品のパソコンとキーボード。

味気の無いレトルトカレーを咀嚼しながら
キーボードを触れば、

メカニカル特有の心地よい打鍵音が虚しく響く。

「こんなことのために買ったんじゃないだけどな……」

趣味の小説を思いっきり書くために買ったのだ。
断じて終わらない仕事を家でするために買ったわけではない。

私は今日も盛大な溜息をついた――。


#オリジナル #小説執筆

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かすみ草 サラマンダー マウス Part2 #ノベルちゃん三題

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「サラマンダーって伝説上の生き物なんでしょ」

君がマウスをカチカチ言わせながら呟く。

「うん。でも、本当にいるとしたらおもしろくない?」

そう?と首を傾げる君に僕は笑う。

「例えばこのかすみ草だって、熱帯地方の
人々からしてみれば、伝説上の植物かもしれない。
そうやって考えてみれば、この地球上のどこかに
当たり前のように火の精霊がいたとしても、不思議じゃないだろ?」

あなたの言っていることはよくわからない。
そう呟いた君の、黒髪がさらりと揺れる。

眼鏡の奥の切れ長の瞳が、一心不乱に画面に向かい、
細くてしなやかな指が軽やかにキーボードを叩く。

(想像上の話には、興味がないってか……)

非常に現実的な彼女だけれど、僕にとっては、
手が届きそうで届かない妖精のようで。

彼女に触れたくてたまらない僕の手が、
あてもなく宙を掻いた――。


#オリジナル #小説執筆

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かすみ草 サラマンダー マウス #ノベルちゃん三題

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「ねえ、私が死んだら、泣いてくれる?」

君はかすみ草のように儚げに笑う。

ねえ、なんでそんなことを言うの?
なんでそんな遠い目で笑うの?

僕はここにいるのに。
君の瞳は闇に閉ざされたままで、僕を映してはいない。

「そうなる前に、必ず見つけ出すから……」

サラマンダーのように地中を這って、
ネズミのように駆けずり回って、

例え火の中、水の中であっても、
必ず君を見つけてみせる。

君からのSOSは、必ず僕が受け止めるから。
だからお願い。そんな顔をしないで――。


#オリジナル #小説執筆

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メーデー、狸、AI #ノベルちゃん三題

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私が送ったメーデーに、
あなたは気づいてくれるだろうか。

わずかばかりの期待はまるで、
今にも割れそうな薄氷(うすらひ)のようで。

すがりつくこともできずに、
私は絶望の淵に沈んでいく。

AIを駆使した科学技術が発展する
世の中だというのに、

人間(ひと)が他人(ヒト)の心を
理解するのは難しくて、おぼつかない。

冷たい狸の置物が、
まるで私を小馬鹿にするかのように見下ろしている。

(ああ、死ぬのかな……)

そう思った矢先に、
頭上で何かが煌めいた。

それが何だったのか。
わかる間もなく、私は意識を手放した――。


#オリジナル #小説執筆

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飴、ネオン、コート #ノベルちゃん三題

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雪道に所狭しと露店が並び、
そのあちこちで、色とりどりのネオンのようにきらびやかな飴が売られている。

真っ赤なコートに身を包み、買ったばかりの飴を頬張りながら、千鶴は笑う。

「これでもう、今年は風邪を引かないね」

この地域に昔から伝わる言い伝え。
旧正月の今日、祭りで買った飴を舐めると、その年一年、風邪を引かないのだという。

「正月早々、風邪引いたヤツがよく言うよ」

一眞の言葉を聞き流し、千鶴は賑やかな通りを軽やかに歩く。
買ったばかりのブーツが雪を踏み締め、サクサクと音を立てたーー。


#オリジナル #小説執筆

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希望、天使、カエル #ノベルちゃん三題

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希望を失い、反旗を翻した堕天使は、

幸せの象徴である
カエルのペンダントだけは手放せず、

まるで鎖のように自分の腕に巻きつける。

(ここは、とても暗くて寒いから……)

温もりも光も届かない。

だけど希望だけは失いたくないのだと、
祈りにも似た矛盾を胸に空を仰ぐ。

(このままでは終わらせない……)

このまま消えるわけにはいかないのだ。

蠍座の心臓に赤々と燃え盛るアンタレスのように、
闘志をたぎらせて誓う。

(必ず生き抜いてみせる……)

いつか必ず、表舞台に返り咲くその日までーー。


#オリジナル #小説執筆

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匂い、炭酸水、不安定 #ノベルちゃん三題

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金木犀の匂いが漂う庭で、
炭酸水を口に含む。

不安定な秋の空は、
心の中を映しているかのようで。

オレンジ色の花が風に揺れる度に
千紘の心はざわめく。

「いつまで続くのかな」

この不条理で混沌とした日常は。

(早く、帰りたい……)

そんな想いを、
しゅわしゅわとした泡とともに一気に飲み干す。  

空になったペットボトルのふたを閉めて、

やりきれない思いとともに、
投げやりにゴミ箱に突っ込んだ――。


#オリジナル #小説執筆

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お月見、哲学、有効期限 #ノベルちゃん三題

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月には兎が棲んでいる。果たしてその兎は幸せなのだろうか。
晴れ渡った夜空に浮かぶ月を眺めながら、そんな哲学めいた考えが浮かぶ。

初秋のベランダではコオロギの鳴く声が聞こえ、
気持ちの良い風が頬を撫ぜていく。

誰の人生にも必ず有効期限があって、それをどう使うかはその人次第なのだが、
誰にでも平等に与えられているかのようなそれは、実はかなり不平等だと、
灯(あかり)は思う。

天に召されてしまった兎は、人生の苦楽とは無縁で、心穏やかに餅をついているのだろうか。
それとも、まるで苦行に耐えるかのように、餅をつき続けているのだろうか。

「月に兎がいるなんて、迷信だよ」

ビールを片手に、友樹が笑う。
ムードをぶち壊すようなその声は、けれど確かに、
闇にさらわれそうな灯の心を引き留める力を持っていて。

そうだねと、灯は笑った――。
#オリジナル #小説執筆

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白露、シンデレラ、風変り #ノベルちゃん三題

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白露とは名ばかりの熱帯夜。梓は一人、バーのカウンターに座り、赤ワインをあおる。

「ちょっと飲みすぎたかな……」

元々お酒は強くない。何か口休めになるものをと、リクエストして出てきたのは、薄暗いカウンターでもよく映える、黄金のカクテル。

シンデレラです、と差し出されたそれを口に含み、
梓は風変りな妄想に耽る。

「このまま、溶けてしまえたらいいのに……」

この甘酸っぱい液体のように、溶けてしまえたらいい。
そしたらきっと忘れられる。

この暑苦しい夜も、ぎらぎらと照り付ける太陽も、全て思い出の箱に閉じ込めて、鍵をかけて、美しい包装紙に包めばいい。

そうして自分は鍵ごと溶けてしまえば、誰もその箱は開けられない。もう二度と、蘇ることはない、鮮烈な思い出。
梓は再びグラスを傾け、黄金の液体を舌で転がした――。
#オリジナル #小説執筆

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